死だけが君をすくうのならこのあつい血のながれる僕をつかって
つちやすばる
Ⅰ
1
死という文字を発するきみに、怒りといらだちでそれを押さえつけてしまった
それ以来
君はどこにも生きずに抜け殻のような顔をして佇んでいる
2
あれから色々あった
色々はなかった
君のほかには
3
どこかどこでもいいから旅行に行こうと君は言った
君はドイツ文学が好きだからドイツがいいだろう
自分はフランス文学が好きだからフランスだ
フランスでいいよ、と僕は言った
もうそれだけでよかった
4
17のころだけ詩がすきだった
リルケの詩をあの赤い本を何度も貸し出していたのに
君には勧めなかった
僕は知っていた
僕は光に君は暗がりに沈んでいくことを
5
椿姫が好きだと言った
あんなロマン小説、正面切って好きだというひとははじめてみた
でも君はリアリストだった
僕の言葉を水晶のように詩のようにうつくしいとほめてくれた
6
今の僕の言葉には色がついている
もう水晶ではないのだ
でも君との思い出の色だ
生きるためには思い出が必要だ
7
最初から終わりが見えていた
終わりというのはいつ来るのか
それは夕方から夜にかけての
あの魔の時間に
8
小児性愛者が言う
きみはうつくしい、と
女に縁のない独身男が言う
僕は君に影響を与えている僕は君を支配する神
私の神は雪で、君たちは雪ではなく
さて、
9
君はいまでも……
10
愛は永遠だと異性愛者はほざく
永遠でないものは信用できないと
同性愛者はのたまう
そのどちらもが
愛を知らない
まま
11
暗がりに
うずくまる人の影を知ったとき
僕はもうふつうの人になってしまった
12
心臓がどくどくと波打って
人生のはじまりを 僕は知る
死だけが君をすくうのならこのあつい血のながれる僕をつかって つちやすばる @subarut
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