第17話 授業開始3
木曜日の3時間目終わりの10分休み、おおよその能力の検証が終わった俺は体育の授業のために更衣室へ向かっていた。男子の人数が圧倒的に少ないこの学校では女子たちにすぐに教室を追い出され、体育館の入り口近くにある男子専用の更衣室で着替えなければならない。
「はぁ~。」
「ん?どうしたんだ、そんなため息ついて。」
大きなため息をつく啓仁にそう尋ねるとジト目を向けてくる。
「如月君は頭が良かったんだなーって。なんだよー、先生に質問されるの全部わかってて、凄いよ。僕はもうだめかもしれない。」
「あ…はははは……………でも俺もわからないとこばっかだよ。」
今日までの授業で行われた科目は生物、化学、英語、数学、国語、地理、歴史、技術、家庭科、情報、保険体育………………その全てにおいてある程度の知識が俺の頭には入っていた。その中でも知識量のばらつきがあり、英語と歴史であった。
特に歴史に関しては……………能力が発動した時めまいだけしか起こらなかったから少し驚いて急いでページをめくったが正直ほとんど変化を感じられなかった。もちろん中学受験でそれなりに勉強したから元知識としてあって、増えた量を感じられないだけかもしれないが………………。
まあでも、追加されたと確実にわかったのはたった二つで、約1000年前の平安時代についての内容………………安倍晴明がある場所で封印を施した話、とある地域で黒い十字架が流行っていたという話だった。
初めて知る内容だったけどその写真を見たときにまるで見てきたかのように写真イメージの知識が出てきたから間違いない。
一つ目は白い石舞台に巨大な扉がポツンと置かれている場所で、ある白い装束を身にまとった人物がその正面に立って左手の指を二本たて、右手に持つ金色に輝く白い紙を掲げている写真、二つ目は真ん中に球体の漆黒に染まる何かが祀られ、その周囲にまるで人を張り付けるための十字架が12本建てられていた写真が知識として入っている。
(そういえばこの知識………写真というより映像の方が近いのかな…………ってそれより今は着替えなきゃ。)
「ほら、啓仁。次は初めての外体育なんだし、早く着替えるぞ。」
「あーやだなー。体育って疲れるもん。」
「でも運動神経俺よりいいじゃん。」
やはり俺の能力は座学限定だったらしく運動神経は変わらなかったし、うまく動かす方法とかの知識は得ても、実践は出来なくてアクロバットの真似して怪我しかけて先生に怒られた。俺と一緒に真似して失敗してた正輝含めて。落ち込んだ俺を美咲と華たちに大丈夫かと心配され、加恋と葉山に白けた目で見られたのでもうやらない。
なのにこいつは宙返りとかバク転とかひょいひょいやって女子にキャーキャー言われててちょっとうらやましかった。しかも長い髪をポニーテールにしたまま飛ぶもんだからアイドルかよって話だ。
着替えが終わって俺たちは校庭に向かう。
「はぁー、めんどー。それに女子は別だしさ~。」
「そ、それな。ぼ、僕もそう思う。」
「わっ、ビックリした。相変わらず片目隠れてんな
友になる前の蒼はよく俺を見てるやつだとは思っていたのであれは何だったのかと聞いたら思いっきり焦ってて、無言の圧力をかけたらぽつりと話した。どうやら女子と話す俺を目の敵にしていたらしい。それを聞いていた啓仁は爆笑し、俺はどんな顔をすればいいか戸惑ったが、「リア充は嫌いだけど如月は許せる。だって友達が出来ない僕に対してもいつも挨拶をしてくれたから」と笑っていたので俺の顔も緩んだんだよな。
「おっ、蒼。わかってくれるか。」
「うん。如月だって女子いた方がいいだろ。」
「うーん、でも人数差とか体格差もあるから男女で別れて他クラスと合同になるのは仕方ないだろ、それに反対側で女子もやるんだし…同じ場所にはいるぞ?」
男子は9人に対して女子は21人。この前にやった体育館でのマット運動は1年A組全員でやっていた。体育館の真ん中で区切られた片方で俺たちの授業が行われ、もう片方は他学年のドッチボールの授業が行われていて、そっちも男女一緒だったから、中体育の授業は男女一緒で行う授業とわかり、何故か二人はテンションをあげていたが、今回の外体育は違うので落胆してるのだ。
今日はA組とF組が合同で行われ、大きな校庭をわけて、広めに区切った片方が女子でサッカーの授業、少し狭いもう一方で俺達男子は体力向上という名目でひたすら走らされる授業らしい。俺は走るのが好きだし、女子が一緒にやらないことにそこまでテンションは変わらないのだが………………。
「はぁー違うんだよきっさらぎ君。そういうことじゃない。一緒にやることがいいんじゃないか!」
「はーこれだから女友達がいっぱいいる奴はくそだぜ。絶対普通になんか変わるんか?って思ってんだろ。はー嫌だ嫌だ………………、俺なんてまだ喋ったことすらないのに………………。な、なぁ安部だってそうだろ?」
恐る恐る啓仁の肩に手をかける蒼をみながら俺は思い出したことを口にする。
「ん?こいつお前いない時、けっこう女子と喋ってるぞ。後ろの女の子とかと。」
「
体育館入り口に設置された下駄箱で靴を履き替え、いざ校庭へという扉近くの場所。突っ立ってる蒼に何人かの生徒が邪魔そうにしてよけていく。
「………………う」
「「う?」」
「裏切者ー。リア充爆死すべし。俺だって喋りてーよ。なんでお前等普通にしゃべれんの。俺のハーレムライフはどこだー!!」
人が変わったように騒ぐ啓仁に少し引きつつ、取り合えず時間もないので校庭へ引っ張って歩きながら話す。
「きゅ、急にどーした。別に普通にしゃべればいいんよ。」
「いやーわかるよ、蒼。そんな君がハーレムになる方法は一つ。髪が長すぎんよ。きろーぜ!」
「いや、これは…………ファッションだ!それに啓仁だけには言われたくないわー。」
そう答える蒼に俺たちはのけ反りかけた。
「ま、マジかよ。それってファッションなのか?」
「そ、そうなんだ。僕は伸ばしてるだけなんだけど………………」
「えっ啓仁この前お洒落だって。」
「ゲフンゲフン………………、何かね、もちろんお洒落さ。」
「いや……………ごめん…嘘だ。………………僕は目を見られたくないんだ。………………でも二人なら………僕と同じ感じがするから………知っていて欲しいから。………………こんな僕と接してくれた二人に………………っ」
急に声のトーンが戻った蒼はどこか俯いて、手を額に当て、そのまま髪を持ち上げる。
「蒼、その目っ。」
「ふむ。………………なるほどな。」
蒼の左目は白い部分が漆黒に染まっていて、黒や茶色の部分が青くなっている。俺は服を掴んでいた手を離し目を見つめる。ポケットに手を突っ込んで歩いていた啓仁も驚いた顔を張り付け彼の目を凝視する。
「この目は生まれたときからこうらしいんだ。小さいころにお医者さんに診てもらったことがあったらしいけどわからなかったって育ての親から言われたんだ。まあ別に見え方に問題ないから別にいいんだけど………………ただ周りから気持ち悪いって言われて………………目を隠すようになったんだ。実際気持ち悪いだろ………………僕自身がそう思うから。」
「………………うーん、答えにくいな。俺は別にそこまで気味悪いとか思わないし。不思議だなとは思うけど。どう思う啓仁。」
なにやら深く考え込む啓仁に問いかけると「別にそれはどうでもいい。」と言って、蒼に別の質問を投げかけた。
「育ての親ということは蒼の両親は違うということだな?」
「ど、どうでもいいって家族以外で初めて言われたよ。………………
「どうして?」
「だって写真あるのって聞いてもずっと誤魔化されてるからさ。じゃあなんか思い出とかどんな人なのとか聞いてもいつかねっていってさ………………。本当の両親は死んでるのって聞くとそれは絶対にないって言ってるから。だから託されたんじゃない、この目のせいで僕は多分捨てられたんだと思う。本当の両親はこんな僕に会いたくなくて、育ててくれてる家族は僕に会わせたくない。」
「「………………」」
「………………あれ、なんか僕めちゃくちゃ身の上話しちゃってるよ。こんなこと喋る気なかったのに………………」
急に我に返ったのか焦りだす蒼。確かに結構重い話を聞かされた。
キーンコーンカーンコーン
「あっやば、チャイム鳴っちまった。この話は後でじっくり聞くから行くぞ、啓仁、蒼。」
「えっ、あ、うん。」
「おっと」
校庭へと走りだそうとしたとき、啓仁のポケットから何かが落ちる。
「啓仁なんか落ちたぞ?」
何か黒い線のようなものが走る紙を拾い上げようとしたが啓仁は慌ててそれを回収し、反対方向に走り出す。」
「おああ、ごめん、それ…えっと折り紙入れてたんだー。下駄箱に置いてくるから先行ってて二人とも。」
「えっ、おーい。マジか。お前も早く来いよ。待ってる時間もないし………………ほら蒼急ぐぞ。」
「あ、うん。」
俺は戻っていった啓仁のことを心配しつつ、ボーっとしてる蒼を連れて集合場所へ向かっていくのだった。
ご都合主義物語 月林 浩 @tukibayasihiroshi229
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