エピローグ 終わらないカオス、止まらない男
あれから二年が経った。
ウイルスはサンプルだった事もあり、そこまで深刻なウイルス汚染はなかったがそれでも日本でウイルスが確認された事は、再び世界中を震撼させるのには十分だった。
しかし政府は何とかウイルスが人工的に造られた物だと悟られぬよう必死に工作し、変異ウイルスが発生したと誤魔化し、大塚が予め作っていたワクチンを国内だけでなく世界各地へと輸出して事なきを得た。
それでも尚、世界は混沌を極めていた…
人々はそれでもそんな世を必死に生きる。
リョウもその一人だった。
「ごちそーさん、また来るぜ」
「はい! ありがとうございます!!」
上野のブラックマーケットの片隅、そこに小さな屋台を営む男がいた。
名を溝口リョウ、かつて騙されて遺伝子を改造された人物の一人。
彼はある二人の人物と黒幕を追い、見事討ち果たした。
というのもあくまで噂で語られるだけで、既に大倉の事も事件の事も全て忘れ去られたのである。
「ふぅ、今日は結構お客さんが来るなぁ」
彼は一通り接客を終え、客が来るまで新聞を広げて待つ事にした。
新聞には、とある小国が人工的なウイルスを開発しているとの事で非難を受け、それが元で紛争が起きたとか、世界各国の治安の低下が留まる事を知らない等のマイナスな事ばかりが書かれていた。
「相変わらず無茶苦茶な世の中だ…それでも…」
それでも、大倉の手によって支配された世の中よりはマシかもしれないと彼は心の中で考えた。果たして何を指してマシと考えるかは、神のみぞ知るのだが。
「…シャオロンも、ザグロブも、何してるんだろうな…」
彼はポツリと呟きながら新聞を捲る、すると、
「あぁーっ!?」
突然彼は大きな声を上げてその場を立ち上がる。彼が読んだ部分には、こう書かれていた。
【バイオテロ主犯のサイボーグの男が脱獄、警視庁は注意を呼びかけ】
どう考えても、この見出しに書かれた人物がザグロブである事は明白だった。
「ザグロブの奴…二年も休憩してたって事か」
今にして思うと彼が休業すると言っていたのはこういう事だったのかと、何となく納得する。
「…また会えるのか? 正直御免こうむるけどよ」
彼は冗談交じりに言うと、新聞を畳んで大きく背伸びをした…
────────────────────
「シャオロン隊長、これは…」
「…サイボーグ用の拘束着を力で破るとは…そして、天井から脱出か」
場面は変わり、とある高速道路で警察が大勢で現場検証を行っていた。
そこには天井に大きな穴を開けて横転した護送車があった。
「…まぁ何となくこうなるだろうとは思ってましたがね」
その現場にはシャオロンとシオリがいた。
実を言うと、本来彼等はここに来るはずがなかったのだ。
彼の所属する公安特殊部隊のオフィスに連絡が来た時はただの事故だと思い、断ろうとしていたのだが、その護送車に乗っていた人物の名前を聞いた途端、シャオロンがオフィスを飛び出して現場に向かおうとしていたのだ。
そして、護送車に乗っていた人物というのは…
「ザグロブ…アンタは一体これから何をすると言うんだ」
───────それから、更に1年後…
とある小国にて…
「けっ! 報酬がいいって言うから来てみたら、とんだ仕事だよ! 敵の前哨基地襲ってこいなんてよ!」
トラックの荷台に揺られ、ガチガチに装備を固めた傭兵達が愚痴をこぼしあっていた。
約6人ほどの人間の内、一人だけ異質な存在感を醸し出している者がいた。
黒いコートを着ていて、更にコートに付けられたフードを深々と被って顔は見えなかった。
「なぁアンタ、どっから来たんだ? 雰囲気からしてベテランっぽいけど…」
傭兵の一人がその異質な男に声をかけると、男は彼の問いにその見た目から考えられない程フランクに応える。
「…俺か? 俺は元々殺し屋やってたんだけど、割に合わなくてたまには傭兵やってみるかと思って参加したのさ」
「参加したのさって…ピクニックと勘違いしてねぇか?」
「俺にとっちゃピクニックみたいなもんだ」
彼の強気な発言に傭兵の男は呆れた態度でいた次の瞬間、トラックが大きく跳ね上がった。
「なんだ!?」
恐らく敵の襲撃があったのだろう。
トラックの前方、運転席にロケット砲が当たって大きく跳ね上がり、そのまま横転してしまった。
「や、ヤベぇぞ!! 俺らバレてんだ!!」
彼は急いで武器を装備する中、コートの男は武器を構えず、拳をトラックの壁にぶつけ始める。
拳はいとも簡単に壁を突き破り、彼は空いた穴を無理やり広げ、中から出る。
「あ、あんた…一体何なんだ!?」
傭兵の男は、コートの男に質問する。
彼は何も答えず、黙ってフードを取って今度は荷台からかなり重量のありそうな重機関砲を拾い上げて脇に抱えた。
「フフ、久しぶりの戦場だな…」
フードを取ったその男は…三年前、バイオテロの主犯として逮捕され投獄された、ザグロブだった。
「俺のゲームは終わらない。 終わらせない、これからもずっと…」
彼はそう呟くと、コートの背中部分を突き破って鋼鉄のウイング型のブースターを展開させて、空を飛ぶ。
彼は止まらない。戦いがある限り、そしてこの混沌の時代が続く限り。
こうして、三人の
三人の内の一人を除いて…
デストロイIII【1000PV感謝】 スティーブンオオツカ @blue997
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます