第137話

「……という依頼が来ている」

 百合草はニヤリと笑った。

「そうですか」

「纐纈君の気持ちはどうだね」

「正直……師匠を決められるとか、なんか、違うんじゃないかと」

「俺もそう思う」

 太陽は百合草家に招かれていた。昼食は終わり、テーブルにはコーヒーが出されていた。

「本音を言うと……僕みたいな人間は受け入れてもらえない制度になっているんです。なりたいなりたくないじゃなくて、プロ棋士になれなかった。今更挑戦すべきと言われても、困ります」

「そう言う気がしたよ」

「それに金本月子さんの件は特例というか……そういう人ばっかりでもプロの先生は困るでしょ?」

「言うねえ。確かに押しかけ弟子というのは、あんまりよろしくない」

「だから連盟が本当に僕が必要というのなら……僕みたいな人が今後、プロを目指せる体制を整えてください。これが僕の会長に対する返事です」

「え、それを俺が言うの? きついなあ」

「お父さん、偉い人に弱いの?」

 ゲームをしていた鈴里が、口をはさんだ。

「うん、お父さん偉い人に弱いんだよー」

「ふふ」

 太陽は思わず噴き出した。

 太陽は最近、しばしば百合草家に来ていた。将棋で誘われることもあったし、鈴里に会いに来ることもあった。

「本気で、纐纈君はうちで暮らしたらいいんじゃないかと思ったこともあったよ。でも、きっと君は断っただろうね」

「まあ……そうですね」

「今は、理由があるんだからいつでも来たらいいよ」

「ありがとうございます」

 快く迎え入れられるほどに、太陽の中では温かい思い出がよみがえっていた。百合草家のように広くもないし、おいしい料理が出てくるわけでもない。けれども、人生で一番幸せを感じた日々。

「一度、きちんと挨拶しに行った方がいいのかもしれません」

「ん、誰にだね」

「僕の……恩人に」

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