第133話

「あれも乗ろうよ!」

 鈴里が指さす先には、巨大な枠組みで作られたジェットコースターがあった。太陽はすぐには言葉が出なかったが、鈴里は太陽の手を引いて列の方へと走っていく。

「百合草さん、何でも平気なんだね」

「そう! 怖いの大好きだから」

 二人は隣県の大型テーマパークに来ていた。バスセンターからバスで50分。近場にもいくつか候補があったのだが、畑山のアドバイスも参照し、研究に研究を重ねて決めた場所だった。

「そんな気はしてたよ」

 太陽は彼女を誘うところから緊張しっぱなしで、ここ数日間は食事もあまり喉を通らなかった。

「纐纈君はさ、どうしても苦手なものとかあるの」

「まだ、わからない」

 太陽は、遊園地に来ること自体が初めてだった。様々なアトラクションはその存在すら今日知ったところで、乗ってみないと大丈夫か確認できなかった。

「本当に初めてなんだ」

「そう。こういうところ、全く来たことなかったから」

 水族館には行ったことがあるけれど、という言葉は胸の奥にしまっていた。「言わない方がいい」という畑山先生の助言があった。

 順番が来て、太陽は生まれて初めてのジェットコースターに乗り込んだ。ぐるりと一周して、「どうしても苦手なものを発見した」と思った。

「意外。なんでもクールに乗りこなすかと思ってた」

「そう思われてたんだ。不愛想だからかな」

「そんなことはないけど」

 二人はレストランで食事をして、他の乗り物にも乗った。そして日が傾き始めるころ、観覧車の前にいた。

「やっぱりこれも乗りたいよね」

「高い」

 直径が83mであることは、事前に調べていた。ただ、それがどの程度のものなのかは目の当たりにするまでは想像していなかった。

「高いの苦手?」

「そう思ったことはないけど……どうだろう」

 観覧車に乗った記憶はあった。とても小さい頃、とても小さいものに乗ったのだ。台車が十個ほどのもので、あっという間に一周した。それでも、太陽は楽しかった記憶がある。

 家族三人で、どこかに行ったことがあるのだ。観覧車が、その事実を思い出させた。

「纐纈君?」

「あ、ごめん。うん、なんか、緊張してきた」

「変なの。でも、楽しいよね、こういうの」

 満面の笑みの鈴里を見て、太陽は少し、悪いことをしているような気分になった。自分がその笑顔をもらうのにふさわしいのか、不安になったのである。

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