第102話

 太陽は高校生になった。

 といっても、あまり実感はわかなかった。学校の場所も同じだったし、部室も中学と共同で使うことになっていた。良知と扇野も内部進学しており、三人は中学の時と同様に、再び「雷鳥学園高校将棋部」の創設メンバーとなった。

 そして、高校生としての太陽の最初の戦いは、アマ竜神戦だった。高校の大会とは日程がずれており、扇野も参加することになった。

「あれ、殿田さんは来なかったねー」

 扇野はきょろきょろとあちこちを見まわしている。

「本当だ」

 受付時間が終わっても、会場に殿田の姿は見当たらなかった。後ろのおじさんが、身を乗り出してきた。

「知らなかったのかい。殿田さんは前年度優勝者だから、大会シードだよ」

「優勝者ですか?」

「そう。殿田アマ竜神」

 殿田が優勝していたことも、優勝者にシードがあることも太陽は知らなかった。殿田と当たる気満々でここに来たのである。

「そっかあ」

「今日は照本さんもいないもんね。纐纈君、チャンスじゃない?」

 昨年の活躍により、太陽の名前はずいぶんと知れ渡っていた。

「頑張ります」

 


 太陽は順調に勝ち上がっていった。

 落ち着きさえすれば、負ける気がしなかった。殿田も照本もいない大会であり、「優勝しなければならない」とまで思っていた。

 決勝戦の相手は、前回負けた大学生だった。太陽は序盤から角を交換し、飛車を振った。

 戦法的に、序盤の「つくり」が分かりやすく、太陽はこの戦法が気に入っていた。居飛車と併用することにより、相手に的を絞らせにくいという効果もある。

 時間も相手より残っていた。体力も十分だった。徐々に形勢に差が開いていき、相手の攻めが息切れし始めた。攻めなくても勝てる、理想の展開だった。

 最後はがっちりと自陣に駒を埋めて、相手が意気消沈した。がっくりと肩を落とし、頭も下げた。

 太陽も頭を下げながら、小さく顎だけで何度か頷いた。

 アマ竜神戦、県代表。ついに太陽は、一般のアマ全国大会への切符を手に入れた。

 

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