第97話

 決勝トーナメントの組み合わせ抽選が行われた。太陽は、殿田とは反対のブロックになった。当たるとしたら、決勝戦。

 太陽と殿田は、二人とも勝ち上がっていった。二人とも自然な手を積み重ねて優勢から勝利する、強い勝ち方だった。

 どんどんと強くなる中学生と、誰もが知る最強のアマ。自然と注目は二人に集まっていった。

 良知の前には三つの盤が並べられていたが、座席に座っているのは二人だった。観戦に人を取られて、指導対局に空きが出ているのである。

「同級生って聞いたけど、どうなの、纐纈君?」

 指導の終わった相手から、質問される。

「強いですよ。鋭いというか、腰が重いというか」

「でも殿田さんだからなあ」

 会場内に、二人の対戦を期待する空気が出来上がっていった。



「当然、終盤にも『つくり』はある」

 ある日の指導後、辻村は言った。

「どういうことですか」

「自分の流れに乗せた感じ。詰みが読みやすいとか、渡せる駒が分かりやすいとか。玉頭戦とか入玉が極端に苦手な人もいる。自分が勝ちやすい流れにどう持っていくかも勝負では重要」

 太陽は、そこまで考えたことはなかった。局面局面でしか判断していなかったのだ。しかし、たしかに強い相手に勝てるときには、得意な流れというのを感じる。太陽はどちらかというとごちゃごちゃした局面は苦手だった。渡していい駒がはっきりしていて、相手玉の詰みを読みやすい局面を作る。そのためには、戦型選択も重要になる。

 準決勝、太陽が選んだのは「角交換振り飛車」だった。居飛車党の太陽が、大会で初めて指す振り飛車だった。すでに練習では何局も指していたし、辻村にも習っていた。「そろそろ警戒される頃だから、別の芸も身に着けておかないとね」と言われていた。そして太陽も、その通りだと思った。

 角交換振り飛車には、普通の対抗系では出てこない、強気な指し手が現れやすい。太陽は、序盤からわかりやすく有利な局面を作ろうとしていた。もちろん相手も強いのだが、居飛車党と思っていた相手なので心の準備ができていない部分もある。太陽は相手の飛車成りを受けず、強気の指し手で少しずつ有利を拡大させていった。自玉は低いか前の美濃囲いで、手の計算をしやすい。

 角と桂香の交換になり、と金も作った。じわじわと側面と玉頭から迫り、相手を追い詰めていった。

 詰みがありそうな局面になったが、読み切るのは大変そうだった。太陽は自陣に駒を埋めた。相手の表情が一気に曇った。

 勝負は決したのである。手続きのように攻めを受け、受けきって、太陽は勝利した。

 振り向くと、すでに殿田は勝利していた。

 決勝戦、二人の対局が決まった。


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