殿田宗伍
第96話
殿田は、当然のように予選を連勝で突破した。全く危なげない内容だった。
負けた方も苦笑いするしかなく、ギャラリーも半ば呆れかえっていた。序盤から優勢になり、中盤で差をつけ、終盤全く緩まない。
その一方で太陽も苦しみながら予選を突破した。ネットで何百局指しても出会わないような戦型と、大会では対峙することがある。良知は以前、「金のかかった対局で覚えた将棋は違うらしい」と教えてくれた。そういう時代もあったということである。
二連勝で予選を抜けると、決勝トーナメントまで少し時間ができる。太陽は、百合草のところまであいさつに行った。
「お久しぶりです」
「久しぶり。団体戦優勝したんだって?」
「はい。なんとか」
「おめでとう」
「ありがとうございます」
「高校は内部進学?」
「はい。多分……。今日頑張って、寮に入れるようになりたいです」
「寮に?」
「実績を残すと、寮費も出してもらえるので」
「そうか……」
百合草は下を向いて、腕を組んだ。太陽に家庭の事情があることは知っているが、想像よりも大変なのだと感じた。雷鳥学園に入るきっかけとなったのは娘の言葉であり、百合草は少なからず責任を感じていたのである。
太陽は頭を下げると、会場の外に出た。「生の空気」を吸いたかったのである。
別の選手が、自販機でジュースを買っていた。太陽はそれを見て、喉の渇きを感じた。水筒からお茶を飲む。
「今日、調子いいわ」
空を見上げながら、太陽はつぶやいた。
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