第47話
「えーと……部長の纐纈です。よろしくお願いします」
「はいはーい」
「頑張って」
太陽は、下げた頭をすぐに上げた。
いよいよ始動し始めた将棋部だったが、部員は三人だった。太陽以外は推薦入学で、「特技優待生だから」という理由で太陽は部長を押し付けられた。
「今度の大会は五月だから、そんなに時間ないね」
「まあ、勝てるよ」
不愛想な態度で言うのは、
さらに良知は、東海研修会に所属していた。一度奨励会試験に落ちているらしく、今もプロを目指している。「奨励会に入ったら、団体戦出れないから」と、誰も聞いていないのに自ら伝えていた。
「でもさ、強豪多いらしいよねー」
ゆっくりと話すのは、
「びびってんのか」
「びびってるよー。中学は強い人多いって言うから」
太陽は深いため息をついた。先輩もおらず、顧問もほとんど来ない。太陽は何かのまとめ役とかをやったことはない。部としての先行きは不安だらけだった。
「よし、じゃあ勝ち抜けするぞ」
良知が、盤上に駒を出す。部としての仮認可が下り、木の盤駒を2セット買ってもらえたのだ。さらに、対局時計も1つ。良知が器用に、1手20秒に設定する。
「まずはどっちだ」
「じゃあ僕が」
太陽が良知の前に座る。
三人しかいないので、練習対局で一人余ってしまう。そのため勝った人が抜けて、残りの1人と代わるという方式をとっているのである。
太陽が部に入って一番変わったことは、将棋を指す相手がいるということだった。お金を払わなくとも、何局も指すことができる。
「負けました……」
ただ、勝ち抜けの場合太陽が抜けることが圧倒的に多かった。良知は強かったが、終盤に隙があった。太陽がちょっと悪くなっても、最後には逆転できてしまう。扇野は序盤がいい加減で、中盤からギアを上げてくるタイプだった。太陽はいつも逃げ切って勝つことができた。
良知と扇野の対局を見ながら、太陽は浮かない顔をしていた。満たされたことで、もっと満たされたいと思い始めていたのである。
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