第40話

「纐纈君」

 休み時間、太陽は将棋の本を読んでいた。外は雨が降っている。

「百合草さん」

 顔を上げると、そこには鈴里がいた。

「本当にプロ棋士に、ならないの?」

「ならないよ。なれないから」

「でも、将棋は続けるんだよね」

「……うん」

「これ、見て」

 鈴里は、机の上に冊子を置いた。そこには「雷鳥学園案内」と書かれていた。

「なに」

「中学校のことが書いてあるよ」

「それはわかってるけど。女子中でしょ?」

「来年から共学になるの」

「知らなかった。でも、私立だし……」

「ここを見て」

 鈴里の指さす先には、「特技優待生」の文字があった。

「とくぎ……?」

「スポーツとかが多いけど、将棋部をつくるから、将棋の強い人も当てはまるんだって」

「へえ」

「入学金・授業料が免除」

「……なんで僕にこの話をするの」

 鈴里は、口を尖らせた。

「いい話だと思ったから」

「でも……」

「お父さんのところに、連絡があって。教室からいい人いませんかって。でも、強い人は普通奨励会目指すでしょ? 纐纈君はぴったりだと思うけど、お父さんの方はまだ、あきらめきれないみたい」

「私立とか、考えたこともなかった」

「纐纈君には向いてるかもよ。いろんな個性的な人が集まるだろうし。それに、私も目指してるから」

「百合草さんも?」

「一人じゃ寂しいでしょ。ね。考えといて」

 冊子を残し、鈴里は去っていった。太陽は、しばらくじっと、「特技優待生」の記事を眺めていた。


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