第22話

「纐纈君、ピクニック来るの?」

 22日、終業式の日だった。荷物をランドセルに詰める太陽のところに、鈴里がやってきた。

「え、百合草さんこそ、来るの?」

「うん、毎年行ってるよ。お父さんと出かけられるもん」

 まっすぐな笑顔に、太陽は戸惑った。父親と出かけた記憶もほとんどないし、そうしたいかどうかもよくわからなかった。ただ、父親が百合草八段なら、一緒に歩くのが誇らしくなるかもしれないとは考えた。

「そうなんだ。僕は行く予定じゃないよ」

「なんで? あ、家の予定がある?」

「ないよ。僕、まだ数回しか教室行ってないし。それに……」

「それに?」

「お弁当とか用意できないし」

「そうなの?」

「あのさ、百合草さん」

 太陽は、腰に手を当てて、少し首を傾けた。そのまま、まっすぐに鈴里を見つめる。

「何?」

「うちはお金がなくて、母さんがいない。父さんも飲み歩いて、帰ってこない日がある。百合草さんの家とは、かなり、違うんだ」

「……そうなんだ。ごめん」

「謝ることじゃないけども」

「知らなかったから。でも、ピクニックは行こうよ……お弁当は、纐纈君の分も用意するよ」

 太陽は、目をそらした。

「考えとく」

「待ってるからね。じゃあ、明日ね」

 教室を出ていく鈴里の姿を、太陽は目だけで追った。


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