纐纈太陽

第21話

「来月は冬休み中だから個人指導もお休みです。夏季特別講座があるので、良ければ来てください」

 指導対局が終わった三人の元に、道場主はチラシを持ってきた。冬休みの平日、5回の講座の案内だった。太陽は値段を見て、ポケットにしまった。

「纐纈君」

 そのまま帰ろうとする太陽を、百合草が呼び止めた。

「はい」

「しばらく指導はないけど、今度ピクニックに行こうと思っててね。よかったから来ないかい」

「ピクニック……」

「お弁当だけ持ってきたらいい。23日の10時、道場に集合だから」

「わかりました」

 太陽は会釈をして、道場を後にする。

 帰り道、自転車をこぎながら太陽は考えていた。講座は、とてもじゃないが無理だった。個人指導だって金本のおかげで受けられているのだ。そしてピクニック。行きたいわけでもないが、特別に断りたいという気持ちでもなかった。ただ、お弁当だけでもハードルは高い。用意するとしたら、自分で作らなければならない。

「あーあ」

 ため息は、風に流れて消えていった。



 家に帰っても、何の気配もなかった。

 金本は、もういない。仕事をやめ、寮を出ていった。その後は誰も入っておらず、部屋が一つ、がらんと空いていた。

 太陽はその何もない部屋に寝転がって、将棋の本を読んだ。道場で借りてきたものだ。

 一か月に一回の指導が終わると、ずっと誰かと将棋を指すことはない。指導が駒落ちだということを考えれば、平手では一か月以上指していなかった。

 何のために勉強しているのか。太陽は本を開いてはいたが、途中からなにも頭に入ってこなくなっていた。次の大会に出てもし優勝しても、もう全国に行くことはできない。

 何を目標にすればいいのだろう。

 太陽はうつぶせになって、まぶたを閉じた。

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