第20話

「久しぶりだね、纐纈君」

「……こんにちは」

 太陽は、ぎこちなく頭を下げた。

 太陽の隣には、二人の少年がいた。どちらも、横目で太陽のことを確認している。

「二枚落ちでしようか」

「はい」

 百合草は、どっしりと椅子に腰を落とした。

 指導対局は、多面指しで行われる。そのため、時計は使わない。太陽は少し拍子抜けした。

 相手には、飛車と角がない。そのうえ、一度に三人を相手している。大きすぎるハンデだった。それでもプロ棋士は、普通に負けない将棋を指す。三人ともきちんと攻めを受け止められ、だんだん苦しくなっていく。

 一人、また一人と頭を下げる。最後まで残ったのは太陽だったが、最後は大差になって負けた。

「纐纈君は時間を使うのがいいね。ただ、仕掛ける前にもう少し慎重になった方がいいかな」

「はい」

「あと、と金を作る狙いはいいけど、玉から遠すぎたね。修正して考えてみて、もう一局指そう」

 二局目も、三人とも負けた。太陽は確信した。以前教えてもらった大会の時は、手を抜いていたのだと。

 金本より、はるかに強いということが分かった。そして、指導も的確だった。

「うん、筋はいいね。よければまた、来てね」

「はい。ありがとうございました、百合草さん」

 教室を出て、太陽はしばらく駐輪場でじっとしていた。濃厚な一時間半だったが、次に来るとしたら一か月後だ。

 隣にいた二人は毎週個人指導してもらい、土日の道場トーナメントにも参加しているという。実戦数は、どんどん開いていく。

 不利すぎる。

 目の当たりにして、打ちのめされていた。太陽はようやく自転車のハンドルを握り、そのまま歩いて帰った。

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