第15話

「本当にここでよかったのか?」

「うん」

 駅を降りて、思ったよりも細い道を進み、神社の横を通って二人は目的地にたどり着いた。太陽は、その建物を見上げていたが、金本はまっすぐに入り口を見ていた。

 将棋会館。敗退した太陽は、金本にどこに行きたいか尋ねられ、この場所を指名した。

 休日であり、中で対局は行われていない。道場に行くというわけでもない。二人は、ただ建物を見に来たのだ。

「どうだ」

「思ったより、特に何も感じなかった」

「まあ、普通の建物だよなあ」

「でも、すごい人たちがここで指すんだよね」

「そうだなあ」

 月子も、普段はここを仕事場としている。そのことを思うと、金本の心はざわついた。

「僕も強ければ、ここで指せるかな」

「太陽、お前プロを目指すのか」

 少年の顔は、決して凛々しくはなかった。金本には、不安そうに見えた。

「負けたくない。負けたくないから、ずっと勝つための目標が必要だと思う」

「そうだなあ。プロになるには、負けられないなあ」

「来年は優勝する。それで、プロを目指す」

 頑張れ、と言いたかった。けれども、単にそう励ましていいのか、金本は迷ってしまった。

 プロになるには、奨励会に入らなければならない。入会のためには試験を受けねばならず、お金がかかる。所属するには師匠が必要だ。奨励会に通うのにもお金がかかる。この場所か大阪の会館まで通わなければならない。そして、それが何年も続く。

 強いだけじゃ、無理なのだ。

 その現実を無視して、適当なことを言っていいのか。お金に悩まされ続けてきた金本だからこそ、どうしてもいろいろと考えてしまうのだった。

「もっともっと頑張らないとな」

「うん。だから、もっと教えてね、先生」

「……ああ」

 金本は微笑んだ。かつて娘にも何度も見せた、その場しのぎの表情だった。

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