その冒険って本当に必要ですか?

ちびまるフォイ

戦いの末に与えるもの

「冒険者様、どうかあのダンジョンに住む魔物を倒してくれませんか?」


「お任せください。どんなに強い魔物だとしても、やっつけてやりますよ」


「ああ、それはよかった。実はダンジョンの魔物が不死身で困っているんです」


「……はい?」


「何度倒しても蘇ってきて村のみんな怯えているんですよ。

 あの魔物は人間が主食でものすごく怖い顔をしていて……」


「ちょ、ちょっと待て。不死身なら勝てっこないじゃないか!」


「大丈夫です。完全な不死身じゃないんです。

 復活にはエネルギーが必要なんで、何度も復活させれば

 やがてエネルギーが尽きて完全なる死を迎えます」


「それなら倒せる……のか?」


冒険者はさっそく人食いの魔物が住むダンジョンへと挑んだ。


「出たなモンスターめ! やっつけてやる!!」


冒険者のふるった剣が魔物をあっさり両断した。

魔物は倒れて動かなくなるものの、しばらくすると傷が治り再び立ち上がる。


「くっそーー。やっぱり話は本当だったのか! こうなったら何度でもやっつけてやる!!」


何十回、何百回と魔物を倒しては蘇ってを繰り返した。

魔物じたいは強くないものの、何度も蘇るので冒険者の体力が持たない。


「はぁっ……はぁ……いったい、何回蘇るんだよ……」


「ゴァァァーーッ!」


「ああもうしつこい!!」


一度魔物を倒してから蘇らないように再生中に攻撃を仕掛けてみる。

やっかいなことに再生中は体が守られるのでどんな攻撃も魔法にもびくともしない。


一度蘇ってからでないとダメージを与えられない。


「ダメだ! これ以上はもう無理だ!」


冒険者は1日中魔物と戦い続けて体はへとへとだった。

村に戻ってくると、結果を心待ちにしていた村人が出迎えた。


「冒険者さまだ! 冒険者さまが帰ってきたぞ!」


「あ、ああ……」


「どうでしたか? 倒してくれましたか?」


「いやそれが思った以上にやっかいで……また明日がんばりますよ……」


次の日、万全の準備をして冒険者はダンジョンへと繰り出した。


何度も心では蘇る魔物を相手にし続けていたことで、

だんだんと動きのクセを見切ることができるようになってきた。

より効率的に、より迅速に倒すように洗練されていく。


「これで終わりだーー!」


もう倒した数すら数えられないほど倒したとき、

ついに魔物が蘇生エネルギーを使い尽くして砂のように消えてしまった。


「やった……やったぞ! ついに倒したんだ!!」


冒険者は嬉しそうに村に戻って、魔物を倒したと報告した。

村の人達は嬉しそうな顔をした。


「さすが冒険者さま! あの不死身の魔物を何十匹も一度に倒すなんて!!」


「……何十匹?」


「はい、あのダンジョンには不死身の魔物がうじゃうじゃいるんです。

 冒険者さまはそれらをすべて根こそぎ倒したんでしょう?」


「えーーっと……まあ……結果的には、ね。結果的には全部倒すよ、うん……」


「もしかして冒険者さま……1匹しか倒してない?」


「うるさいなぁ! 時間の問題だって言ってるだろ!」


村人たちの表情がわかりやすく失望に変わったのを冒険者は見逃さなかった。

弱い市民のヒーローである冒険者がこれでは示しがつかないと感じた冒険者はギルドで仲間を募った。


翌日、ダンジョンの前には大量の冒険者たちが集まっていた。


「みんな、今日はよく来てくれた。このダンジョンに住む不死身の魔物を一網打尽にするのだ!!」


「「「 おぉーー! 」」」


「かかれーー!」


単純な物量で押し切る作戦に打って出た。

ダンジョンに待ち受ける魔物と冒険者大隊との総力戦がはじまった。


けれど不死身の魔物はやっぱり強力で、

倒したと安心した後で背中から攻撃されたりし冒険者は数を減らしていった。


連日連夜に及ぶ戦いでどんどん冒険者の数は減っているのに、

魔物の数はあまり減らずにただ疲れるだけのジリ貧状態に。


「く……くっそぉ……次こそは倒してやるからなーー!」


減ったぶんの冒険者を補充してはダンジョン攻略へと向かってを繰り返した。

それでも魔物は減るどころかむしろ増えていた。


「なんでだ……なんでこんなに頑張っているのに……もう限界だ……」


連日連夜におよぶ続けざまの戦いに冒険者の精神は限界を迎えた。

冒険者軍団の健闘むなしく魔物は増えるばかり。

これ以上冒険者たちを投入しても命を散らす人が増えるだけだった。


「もっと、もっと強くないとこの戦いは終わらない……!」


圧倒的な力で一網打尽にできなければ犠牲者が増えるばかりと感じた冒険者は修行の旅に出た。

己の力を高めるのはもちろん、より強い仲間を集める旅路だった。


冒険者が村に戻ってきたのはそれから何年も先のことだった。


「あ、あなたは……!!」


「村の人よ、またせたな……!」


久しぶりに姿を見せた冒険者はすでに前と顔つきが変わっていた。

あらゆる修羅場を乗り越えてきたような威厳を漂わせていた。


「冒険者さま、後ろの方たちは?」


「修行の旅の途中で見つけた超優秀な仲間たちだ。みな俺と同等かそれ以上の能力がある」


以前のよせ集め冒険者部隊とはあきらかに格の違いが見て取れた。

きっと不死身の魔物であっても、あっという間に倒せてしまうのだろう。


「さあ行くぞみんな!」

「「「 おう!! 」」」


「ああ、待って! 待ってください冒険者さま! どうかダンジョンには行かないでください!」


「ハッハッハ。安心しろ。俺たちはそう簡単にはやられない」


「いえそういうことではないんです……」


村の人は気まずそうに話した。



「やっと不死身の魔物が餓死して数を減らしたのに、

 わざわざエサを提供しにダンジョンへ行く必要もないでしょう……?」

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