第6話 能力の使い道
私は能力の検証のために先程まで乗っていた馬車を下り、進行方向へと向き直ります。視界の先はまっすぐな道が続いており、地平線には目的地である次の都が小さく乗っかっていました。対して真横には検証結果が気になるのか、レオ姉が馬車の後ろからこちらを覗いているのが視界の端に映ります。
空間といってもどこからどこまでを対象にとればいいのか分からなかった為、適当に『ここから目的地まで』をイメージして能力を発動させます。
『
発動してからすぐに、空間に異常が発生したことがわかりました。まっすぐ伸びている道は私の足元から急にその幅を狭め、小道程度になっていたからです。横を見ると馬車は私の真横から先頭に向けて急激に縮んで行き、二頭の馬は子馬程度の大きさになっていました。そのまま一歩、二歩と踏み出すと先細りした馬車を優に越えました。私だけ、縮小した世界で元の縮尺を保っている為、二歩で馬車一台分の距離を移動できたのです。
とにかく正常な空間では起こり得ない事が起きたのは確実です。試しに能力を縮小ではなく拡張で同じことをしてみると、幼いときに読んだ絵本のように、私だけがそのままで回りの風景が巨大になるという結果に終わりました。とにかく私の能力が空間を対象にとれる事がわかった為馬車に戻り、私はその事をみんなに伝えます。
「……というわけで、たぶんレオ姉の仮説は正しいっぽい」
「流石私…いや、ここはエレナのポテンシャルの方を誉めるべきね!とにかく、これで旅がぐっと楽になるわ。理論的には移動距離を百分の一に減らせることが出来るもの。荷物を運んでもらうよりもよっぽど役に立つわ」
「やっぱり可愛いエレナを連れてきて正解だったわ!」と一人で興奮しているレオ姉を横目に、私は3人にその使い方でいいか確認します。
「移動時間の短縮にもなりますし、出来る限り使っていきたいのですが問題ないですか?日程狂ったりとかしませんか?」
「……私は異議なし。早ければ早いほど良い」
「そうですな。私も同意見ですぞ」
「僕も構わないよ。でも、張り切りすぎて倒れないようにね」
「ありがとうございます。それでは、じゃんじゃん使っていきますよー!」
空間を歪めながら、常軌を逸した速度で進んでゆくこと数十回。結局、当初の予定では夜に着く予定だった目的地には、出発から1時間も経たない昼前に着いたのでした。これだけなら万々歳なのですが、時空を歪めるという強大な力を行使するにはそれ相応の代償を払う必要があったのです。その内容とは……。
「も、もう立てない……お腹空いた……死ぬ……」
「もう、勇者にも言われたでしょ?『無理だけはしないでくれ』って。これからはちゃんと限度をわきまえないとね」
「ごめんねレオ姉……。おんぶしてもらっちゃって……」
「問題ないわ。こうやって両手で支えているエレナの太ももや背中に当たる小ぶりな胸の感触を楽しめ――」
「今すぐ下して」
半べそをかいているレオ姉の代わりにアルドさんが運んでくれました。ただ、抱っこは抱っこでもいわゆるお姫様抱っこの様な形でいささか恥ずかしいです。人通りもある道なので、道行く人は全員私の事を見てきます。そんな中、アルドさんは私の気を紛らわせようとしたのか話しかけてきます。
「エレナ殿、この角度で問題ありませんかな?姿勢を正したいときは遠慮なく言って下され」
「お、お気遣いありがとうございます。今の姿勢で問題ないので……」
「それは結構。先ほどの能力、旅には欠かせない物ですからな。せめて短縮した時間分くらいは働かせて下され」
「反省したから……反省したから抱っこさせて……」
レオ姉の泣き落としを見て見ぬふりをしていると、周囲からの囁きが聴こえてきました。
「先頭で抱きかかえられているのは運び屋か?」
「本来なら運ぶ役割なのに何故運ばれているんだ……?」
「勇者一行の一員だ、さぞかしすごいスキルを持っているんだろうな……」
少々誤解をされているような気がしますが、自身の能力が評価されているのは悪くない気分でした。
――――――――
「美味しい美味しい美味しい!!すみませんこれもう3皿!!」
一階が食事処になっている宿屋に到着すると早速ステーキを注文します。指の第一関節程の厚さを持つそれをペロリと平らげますが、まだまだお腹は「肉を寄越せ」と喚きます。店員さんがやや引きつった顔で引っ込むと、勇者さんたちは各々感想を漏らしました。
「……恐れ知らず。絶対後で後悔する」
「たんと食べて体力をつけて下され。どれ、私も頂くとしましょう」
「お肉をほおばるエレナもリスみたいで可愛いわぁ……」
「うん、量もそうだけど味もなかなかだね。夜もこれにしようか?」
一つのテーブルを囲んで食事をしながらチェックインするかどうかを話し合います。空腹で倒れるまで能力を使用した為大事を取ってこの宿に泊まることになったのですが、部屋割りで一波乱ありました。理由はもちろんレオ姉の暴走です。鼻息を荒くして私と同室になるメリットを語る彼女を見て貞操の危機を感じた私は、何とか別室にしてほしいと頼み込み、苦労の末に一人部屋に泊まることが出来ました。能力の連続行使に加え、その心労もあったのか、ベッドに入ると直ぐに夢の中に旅立っていきました。
拡縮少女の憂鬱~旅を通して「拡縮能力」の有用性を示していたら、魔王倒しちゃいました~ 子獅子(オレオ) @oreo2323
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