第49話ねぇ……麻衣
店内で暴力事件が発生したとのことで、私たちやお義兄さん、怖い男子高校生は警察署まで連れて行かれました。
最初は取り調べは怖いなと思っていたんですが、女性の警官が優しく聞いてくれたので、安心して色々とお話しすることが出来ました。
何時間も拘束されると思っていたんですが、意外なことに早めに解放してくれたので驚きです。目撃証言が多いことや暴力事件の直接的な被害者ではないとの理由で、あっさりしていたみたい。
警察署の廊下で待っていると、愛羅と紬も別々の部屋から出てきました。
「愛羅、大丈夫だった?」
ずっと私たちを守るようにたち振る舞っていたのは愛羅だったので、傷ついてないか心配だったのです。近づくと、愛羅に抱きしめられてしまいました。
「大丈夫だよっっ! みんな無事でよかったねっ」
「うん。よかった!」
紬も私に抱き着いてきました。なんだか温かい気持ちになります。二人の友達になれてよかった。本当にそう感じた瞬間です。
お義兄さんが私たちを見たら「青春しているね~」とか、言われちゃいそうです。
「君のお義兄さんからタクシー代を預かってきたから、早く家に帰りなさい。配車手続きも終わっているわ」
こんな事件があったんでお泊まり会は中止で、家に帰ることになっています。
私を尋問? してくれた女性の警官が、お義兄さんのお財布を渡してくれました。現金が三万円入っていて、これでタクシーに乗って帰れとの事らしいです。
愛羅や紬の親は仕事中のため迎えに来られないと聞いていたので、助かりました。
私はお義兄さんと一緒に帰りたかったんですが、ここでワガママを言っても迷惑をかけてしまうのはわかっています。家に帰ったときに、ケガの状態を見ながらお話しすればいいか。そう思うことにしました。
「ありがとうございます」
お財布を持ってきてくれた女性の警官にお礼を言ってから、二人と一緒に警察署を出ました。すでに一台止まっています。
「家が遠い紬からどうぞ」
「ありがとう! 後で一緒に通話しようね!」
「うん!」
一万円を渡すと、紬はタクシーに乗りました。
ドアが自動で閉まるり、すぐに走り出します。
次のタクシーはまだきません。しばらく待ちそうだったので、何か話そうと愛羅を見ると、目が合いました。いつもの元気な顔はなくなっていて、困ったような表情をしています。
「ねぇ……麻衣」
らしくない。短い付き合いでもそう感じてしまうほど、今の愛羅は変です。
言い淀むなんて、今までありませんでした。
「どうしたの?」
と、問いかけても口を閉じたまま回答がありません。
無言の時間がずっと続き……警察署にタクシーが入ってきます。それを見て、お別れの時間が近いと察した愛羅は、眉をきゅっと釣り上げて覚悟を決めたような顔に変わりました。
「私……麻衣のお義兄さん、好きになっちゃったかもっっっっっっ!!」
ん……ぇぇぇえええええっっっ!!!!????
愛羅が、お義兄さんを好きになった?
え? どうしよう????
「ごめんなさいっっ!!」
戸惑っている間に愛羅はタクシーに乗って、行ってしまいます。
頭と心の整理がつかず、声をかける余裕はありません。
お義兄さんが出てくるまで私は呆然と立ち尽くしていました。
◇ ◇ ◇
麻衣たちを襲った男子高校生の二人は、未成年ということもあって警察が厳重に注意するだけで終わった。けど、俺を殴った動画がネット上に出回ったこともあって、高校は退学となり、家族と一緒に遠くに引っ越したらしい。
法が許しても世間が許さない。
なんとも現代らしい結末……いや、一昔前にあった私刑が再現されただけかな? まあ、細かいことはどうでもいいか。重要なのは、これから麻衣たちは平和に過ごせるということにある。
「行ってきますね」
靴をはいて、制服をきた麻衣が俺に言った。
事件のことでショックを受けていたのか、警察署から帰ったときはすごく暗い表情をしていたんだけど、数日経った今は元気になったようだ。時折、不安そうな顔をするときもあるけど、時間が解決してくれるだろうと思っている。
「ホコリが付いているよ」
玄関から出ようとしている麻衣に近づくと、髪の毛に付いていたホコリの塊をとった。
顔を見ると少し赤い。
ホコリを見つけられて恥ずかしがっているだけだろう。
「そろそろ出ないと遅刻するよ」
偶然、耳元で囁くと、麻衣は何度もうなずいてから慌ててドアを開けて出て行ってしまう。
一つ一つの仕草が可愛いな。自慢の義妹なのは間違いない。
新しい家族になれてよかったと思う。
そんな幸せをかみしめていた。
====
【あとがき】
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
いったん完結となります!!
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