第48話てめぇッ!!

 駅前のショッピングモールを出てから外を歩く。みんな薄着で、夏の訪れが近いんだろうと感じさせてくれる。


 時間にして十分ほど進むと、複合エンターテインメント施設の入り口についた。中に入るとボーリングや卓球、バスケなどいろんなスポーツを楽しんでいる人たちがいる。そのなかで俺は、バッティングセンターのエリアを選んだ。


 バットを持つと構えて玉が出るのを待つ。


 壁に空いた穴から白球がでてきた。足、腰、体と順番にひねって、腕を振る。


 キーンと、甲高い音をたてて当たった。


 いい調子だ。続けて二球目、三球目と投げられるので、同じ要領で打ち返していく。空振りすることはない。昔から運動神経はよく、デスクワーク中心になった社会人になってもさび付いてないようだ。


 何回かバットを振ったかわからないけど、軽く息が上がり始めたころになって、ようやくマシーンが止まった。


 気分はスッキリした。バットを返却してから当てもなく、施設内をぶらぶらと歩く。


 友達と一緒にくるような場所なので一人で遊べるゲームは限られてくる。

 しかたなくゲームセンターのエリアに入った。


 メダルゲームやモグラたたき、カードゲームなどの台を眺めるけど、遊びたいとは思えなかった。もうしばらく歩いていると、クレーンゲームのエリアに入ったようで、かわいらしい犬のぬいぐるみと目が合う。


 麻衣にプレゼントしたら喜ぶかな?


 ふと思った。迷惑になる可能性もあるけど、そうしたら俺と添い寝するぬいぐるみになるだけだ。時間を潰すにはちょうどいいだろう。


 財布にはお札しかないので、両替機を見つけて五千円を突っ込むと、少し離れた距離から聞きなれた声がした。


「だから、うざいってっ」


 両替を中断して声がした方を見ると、腕を組んでいる愛羅の姿が見える。後ろには麻衣と紬がいた。


 午後は外に出ると言ってたけど、目的地はここだったのか。話し相手は……制服ではないのでわかりにくいが、ファイレスでナンパしていた高校生だ。


 だぼだぼの服をきていて、首から金のアクセサリーもつけている。短髪とロン毛の二人で、真面目な学生には見えない。


 両替が終わってないので、すぐに動けない。


 まだか、まだかと、焦っていると二人の男が愛羅の腕を引っ張って、人のいない通路に入っていった。麻衣と紬は助けようとして後をついて行く。


 どうやら前回の騒動で、多少は知恵をつけたのだろう。クソッたれ!!


 ようやく両替が終わったので、小銭を乱暴につかんでポケットにねじ込む。

 慌てて麻衣たちが連れていかれた通路目指して走った。


「愛羅!」


 まだ姿は見えないが麻衣の声が聞こえた。通路の角を曲がると、視界に五人が見える。


 短髪男に両腕を握られた愛羅が壁に押さえつけられていた。麻衣と紬が助けようとしてるが、もう一人のロン毛男がニヤニヤと嗤いながら邪魔をしている。二人ともガタイがよいので、麻衣たちじゃ単純に力が足りないのだろう。もしくは、恐怖で力が出ないのか。どちらにしろ、ピンチな事には変わりない。


「お前たちのせいで高校は休学になったんだ。それ相応の報いを受けてもらうぞ」


 自分たちの悪行が原因なのに、人の責にしやがってッ!


 許せない。久々に湧き出した感情だ。


 愛羅を抑えつけている短髪男がスマホを取り出す。何かを撮影して脅しに使うのだろう。そんなことはさせない!


 俺は急いで近づくと、スマホを握ってレンズを塞ぐ。


「てめぇッ!!」


 短髪男が睨みつけてきたので、握っていたスマホごと腕をねじると、奪い取ることに成功した。優先事項を間違えるから、そうなるんだよ。


「麻衣のお義兄さんっっ!!」

「後は任せて」


 涙目になっている愛羅に短い言葉を伝えると、短髪男が殴りかかってきたので横に移動して回避する。愛羅から離れてくれたので彼女を背中に隠す。


 直情的なようで、行動一つ一つが悪手になっていて、男どもの知能指数の低さがわかるというものだ。


 危ないと思ったのか、ロン毛男の方も参戦してきた。


 殴りかかってくるので受け流すと、太ももを蹴りつける。


「ぐっ」


 急に力が抜けたようにロン毛男が膝をついた。格闘家のように鍛えてないと、蹴られたら足が動かなくなる。人体の弱点なのだ。


 これで一人を無力化できた。


 あとは短髪男だけだ。


 クイクイと人差し指を前後に動かして挑発する。


「てめぇッッッ!!」


 本当に単純な思考をしている。

 予定通り俺を襲いかかってきたので、奪い取ったスマホを投げつけた。


「うお!?」


 スマホを落としたらマズイ。とっさに、そんなことを思ったのだろう。攻撃を中断して立ち止まると、スマホを空中でキャッチしようとしていた。この隙だ!


「三人とも、逃げるよ!」


 俺の声を聞いてハッとした麻衣と紬は走り出した。愛羅は震えてて動けないようなので、手を引いて一緒に走る。男たちもすぐに追ってきて、短髪男の手が愛羅の肩に伸びた。愛羅を守るために立ち止まって手を払いのける。


「てめぇ、もう逃がさねぇ!!」


 俺の胸ぐらを掴むと、短髪男の拳が頬にめり込んだ。口を切ったようで、痛みと共に鉄の味が広がる。脳が少し揺さぶられたみたいで少しフラついてしまった。


「お義兄さんッ!!」


 少し離れたところから麻衣の声が聞こえたので、手を軽く上げて大丈夫だとメッセージを送る。


「余裕そうじゃねぇか。もう一発いっとくか?」

「お前、やっぱりバカだろ?」

「お前ッ!!」


 短髪の男がまだイキがっているようだけど、そろそろ終わりだろう。

 俺が煽ったのでもう一度腕を振り上げたところで、店内にいた二人の警備員に取り押さえられたのだ。


「クソ! 邪魔だ!」


 仲間だったロン毛の男は逃げ遅れていて、短髪の男と一緒に暴れているが、すぐに取り押さえられてしまい動きが止まった。


「大丈夫ですかっ!! わたしのために……ごめんなさいっ!」


 愛羅が謝りながら心配そうな顔をしていた。少し遅れて麻衣と紬も俺の側に来ると、「大丈夫ですか」と心配の声をかけてくれる。


 本当に三人ともいい子だな。少し遅れてしまったけど、ちゃんと守れてよかった。義兄として立派な姿を見せられたかな?


 と、そんなことを思っていると、ようやく警察が来た。二度も麻衣たちを襲った彼らを許すつもりはないので、きっちりと被害を訴えるつもりだ。


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