第47話恋愛映画かぁ
肉体を三人に触られた翌日。簡単な朝ご飯を四人で食べてから、俺は家を出た。麻衣たちは午後から外に出ると言ってたから、午前中は家でノンビリするんだろう。
社会人になってから遊ぶ機会が減ったので、一人でなにをすればいいか分からない。とりあえず駅前まできたんだけど、アイデアが浮かばない。どうやって時間を潰そうか悩みながら歩いていると、映画のポスターが目に入った。
「恋愛映画かぁ」
アニメで人気だった作人の実写化で話題になった作品だったので、俺でも知っている。甘酸っぱい青春恋愛を描いた内容で、確か男の子の方が音楽の仕事を目指し、女の子はアドバイスをしながら支えるといった関係だ。
実写化という部分に不安はあるけど、ベースのストーリーは最高だったので大外れにはならないだろう。
たまには思いつきで行動しよう。
映画館に入るとチケットを購入する。運がよいことに、あと十五分で映画が始まる時間だ。席に座るとスマホを取り出す。誰からも連絡が来てないと確認してから、電源を切ってポケットにしまった。
何も考えずにぼーっと映像を見る。
館内が暗くなって、これから公開される映画の予告が流れ始めた。
面白そうな所をピックアップして繋げた映像ばかりが流れてくるので、興味がないのに楽しそうと思えてしまう。少しずつワクワクしてきた。きっと映画制作者の思惑どおりに、感情を動かされてしまっているんだろうな。悪い気分ではないので気にはしないけど。
十分ぐらいだろか? そのぐらいの時間が過ぎるとようやく本編が始まった。
こんな美男美女がいたら周囲は黙ってないだろうなというキャスティングで、リアリティに欠けるかなと思っていたけど、演技と演出がすばらしく、どんどん画面に引きずり込まれていく。
偶然の出会いから、お互いを理解し合って急速に仲がよくなる。家庭環境や身分、進路がまったく違う二人ではあるけど、想い合う気持ちは本物で、周囲に反対されても関係は続いていった。
若いからそんな無謀なことが出来る、大人になったら後悔するやり方だ。
そう言い切ってしまう人もいると思うけど、俺は心の中で応援していた。
学生の頃にアニメを見たときは、そんな気持ちにはならなかった。
大人になって考え方や見方が変わったんだろう。
世間の顔色をうかがって生きる必要なんてない。幸せは人それぞれで、誰かを不幸にしない限りは、どんな歪なかたちでも許される。許されなければいけないんだ。
二人は社会によって引き裂かれてしまったけど、大人になって再会し、二人は幸せに過ごすことが出来た。
ハッピーエンドだ。いつの間にかのめり込んで応援していたので、ほっと安堵する。気持ちは晴れやかで、映画を見ようと決めてよかったと思う。
エンドロールが流れ終わって館内が明るくなる。
他の客と同じように席に立って出ていくと、近くにあるカフェに入った。
アイスコーヒーを頼んでからスマホの電源を入れる。チャットが一件きていた。送信元は麻衣だ。
『これから駅前のお店で遊んできます』
律儀なことに、お出かけの報告をしてくれたみだい。
もう高校生なんだから好きにすればいいのに。真面目だな。
『楽しんできてね』
返信が終わるとアイスコーヒーがテーブルに置かれたので、ストローを口に入れて飲む。口の中に苦みが広がった。
映画は楽しめたので気分はよい。出来れば誰かと語り合いたいんだけど……そんな友達はいない。レイチェルは見てないだろうし、黒瀬さんとはそんな話をする間柄ではないのだ。
仕方なくネットでみんなの反応を調べてみると――。
『俺が親なら別れさせ屋を雇って、女と引き離す』
『二人は自分のことしか考えてなくて気持ち悪い』
『周囲が振り回されて可哀想』
酷評の嵐だった。
見なければよかった。気分が急降下しているのを感じる。
二人を認めない周囲の人間たちが先に迷惑をかけた。
そう考えることも出来るはずなのにな。
と、映画の感想欄に書き込もうとして止めた。無駄な争いにしかならないからだ。
スマホを締まってアイスコーヒーを一気に飲み干す。席から立ち上がると会計を済まして店を出た。
書き込みを中断したこともあって、ストレスは溜まったままだ。発散しなければならない。
こんなときは体を動かすといいだろう。
近くに複合エンターテインメント施設があるので、バットでも振り回そうかな。
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