第46話ある! ありますーっ!
お義兄さんの肉体を堪能した後は、しばらくゲームで遊んでいました。ずっと同じ、すごろくゲームをしていたんですが、夜も11時を過ぎると飽きてきます。
画面を見過ぎて眼が疲れてきたので、みんなで私の部屋に移動することに。
今日は二人が泊まりに来ることもあって、ベッドの他に来客用の布団を二つ敷いています。私たちは輪になって布団の上に座ると、ペットボトルに入った水を飲みながら、おしゃべりを始めまました。
話題は先ほどの出来事です。
当然ですよね。
お義兄さんの肉体を堪能したうえに、神の声を耳元でささやかれたんですから、話さないわけにはいきません。
「お義兄さんの肉体すごかったねっっ! うちの父親はぶよぶよしたお腹だったから、ちがいにびっくりだよっ!」
「だよねー!! あれを毎日見られるなんて、麻衣はずるい!」
ですよね。お義兄さんの肉体をじっくり見たのは初めてでしたが、愛羅や紬が言うとおり神の声を持つのにふさわしい肉体をしていました。
二人がいなければ抱きついて、頬をスリスリしていたはずです……って、私は何を考えているのでしょうか!?
ちょっと思考がおかしくなっているかもしれません……。
「いつも脱衣所で服を着ちゃうから、毎日なんて見てないよ」
「しっかりしているねー。すごい! 私の親父なんてパンツ一枚でうろついてるんだよ。見たくないのに! まったく何考えてるんだか!」
紬の怒りはわかります。私もお義兄さんだったら許せますが、お腹が出た中年男性だったらお断りです。見たくもないし、嫌悪感しかありません。嫌いになる自信があります。
せめて気遣いぐらいしてほしいですよね。
愛羅も同じ気持ちなのか、うんうんと激しくうなずいていました。
「わたしや紬は、そんな苦痛を味わってる。でも麻衣は違う。これ、ずるくないっ!?」
「ずるーい!」
ええ!? なんでそうなるの! ズルいんじゃなくて運命なんだって!
「そんなことないんじゃない?」
「あるねー!」
「ある! ありますーっ!」
私が否定しても紬、愛羅の順で否定されてしまいました。
こうなるともう止まりません。
二人はお義兄さんの話で盛り上がって、肉体のどの部位がよかったなど、徐々に具体的な内容になっていきます。
「でさー。愛羅、パンツ見たよね?」
「もちろんっ!」
変な話題をし始めたので突っ込んで止めようと思ったんですが、二人が黙って私を見てきました。
その目が真剣なものだったので思わず動きが止まってしまいます。
「麻衣も、だよね?」
今までに感じたことのない迫力が紬から放たれて、本当は答えるはずじゃなかったのに、首を縦に振って肯定してしまいました。どうしよう。
「だよねー!」
一転して笑顔になった紬は内緒話をしたいらしく、手招きしてきました。愛羅と顔を見合わせてから、私たちは紬に近づきます。何を話したいんだろう。
「パンツの盛り上がり具合からして、きっと大きいよね!」
何が、と聞いてしまうほど、私たちは無知ではありません。むしろ興味はあります。柚に言われて具体的に想像してしまい、顔が熱くなるのを感じちゃいました。愛羅を見ると似たような状態。顔が真っ赤で、同じものを想像したのは間違いありません。
私は小さい頃に父がいなくなったので、実際にそういったものは見たことないんですが、紬や愛羅だったら違うのかも。きっと、私より具体的にイメージできてるんだろうな。
「お義兄さんが寝たら、また触りに行く? 女子高生三人に迫られたら嫌とは言わないでしょ!」
この言葉を聞いた瞬間、紬に対して不快感がぶわっと湧き出てきました。
頭が真っ白になるほどの怒りです。
脱衣所の出来事は事故だったので、しかたがないと諦めもつきます。でも紬は、お義兄さんに迫りに行くと言った。
それがどうしても許せない。
お義兄さんは絶対にわたさない。
友達に対して初めて感じる怒りと焦りが止まらない。
気がついたら手に持っていた水のペットボトルを、ぐちゃりと握りつぶしていました。
「ま、麻衣!?」
紬は驚いた顔をしていました。愛羅も同じです。二人を見てようやく暗い感情から少しだけ解き放たれ、理性が戻ってくるのを感じます。
「ごめん。お義兄さんの迷惑になるから、行くのは禁止ね、わかってるよね?」
「う、うん。そうだよね」
私を怒らせたと思って反省しているのか、紬はすぐに同意してくれました。ゴメンと何度も謝ってくれるので、私は気にしてないよと笑顔で答えます。
これで今回の悪ふざけは終わり。私たちは元通りの関係です。
「布団が濡れたから、タオルを持ってくるね」
ペットボトルを握りつぶしたら水が吹き出てしまったので、立ち上がると部屋を出て脱衣所に向かいます。
部屋を出るとき、紬の顔はこわばったままだったんですが、どうしてなんだろう。
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