第45話ひゃいっ!?

「お兄さん……筋肉すごい……」


 熱に浮かされた人のようにフラフラと歩きながら、麻衣が俺の腹を触った。薄く腹筋が割れているので、ボコボコした感触を楽しんでいるようだ。


「すごく、硬いですね。ずっと触っていたいです」


 普段とは異なる感触を楽しんでいるのはいいんだけど、恥ずかしいから服を着させてくれないかな。せめて下だけでもパジャマをはきたい。どうにかして麻衣を体から離せないかと悩んでいると、紬と愛羅も近づいてきた。


「ふっといね!!」


 紬が俺の二の腕をもむようにして触った。


 スポーツをしている紬ではあるが、発展途上の肉体であるうえに女性だ。成人した男である俺とは体のつくりが違うので、腕の太さに大きな差があっても不思議ではない。むしろ当然だろう。


 恐らくだけど、紬も異性とのかかわりが薄いから、男女の違いに驚き関心を持っているんじゃないかな。


「ほんとだっ! お父さんのとはぜんぜん違うっっ!」


 最後のにきた愛羅は、麻衣と一緒にお腹を触っている。


 身近な異性といえば父親だ。そんな男性と比較されてしまった。

 なんだか不思議な気分である。


 麻衣も同じように比較しているのだろうか?


 本当の父親と比較しているのか、それとも思い出したくもないから記憶の奥底に封印して、単純に感触を楽しんでいるだけなのか、見た目からはわからない。


「ブヨブヨしてない! 硬いね!」

「本当に硬いよね」


 ただ愛羅と話している麻衣の表情は楽しそうだ。

 とりあえず悲しそうな顔をしてなければ問題ない。と、思うことにしよう。


「ごめん。恥ずかしいから、そろそろ離してくれないかな?」


 紬と愛羅は、麻衣の行動にのっただけなので「ごめんなさーい」といってすぐに離れてくれた。だけど、麻衣だけは違う。頬を赤くしながら俺の腹筋を撫で続けていたのだ。


「まいーーっ」

「お義兄さん困ってるよ」


 二人が腕を引っ張って引き離そうとしてくれてはいるが、麻衣は抵抗している。どうしても離れたくない。そんな意思が強いのだ。


 仕方がないなぁ。麻衣の手を握ってからしゃがむ。


「二人の時であれば何回でも触らせてあげる。だから、今は離れてくれないか」

「ひゃいっ!?」


 耳元でささやいたら、効果はてきめんだった。

 顔を真っ赤にして腰を地面につけると、腕と足を器用に動かして離れる。


 紬と愛羅の二人が、可笑しな動きをした麻衣を見ながら笑っていた。


 その隙を狙って近くに置いてあったパジャマを着ると、ようやく一息つけるようになったので、三人を置き去りにして部屋に戻る。


「ふぅ……。大変だった」


 バタンとドアの閉まる音を聞いて、ようやく落ち着いた。


 三人もの女性に体を触られて驚くと同時に、ドキドキしてしまった。正直、大人として失格だろう。


 相手は女子高生なのに、俺は女性としてみてしまっているのか?


 もしそうだったら少し頭を冷やさなければいけない。俺は大人で相手は子供。家族という関係以上になってはいけない。義兄という立場を利用して迫ってはいけないのだ。それに一線を越えてしまえば、常識だけでなく社会的に問題があるしな。


 新しい彼女を作った方がお互いのためになるかもしれない。今度、レイチェルと会って誰かいい人を紹介してもらうのもいいだろう。


 慌ててもいいことはないが、このままじっとしていたら、麻衣の好意を勘違いしてしまいそうな気がしていた。


「明日は外に出るか」


 お泊まり会は二泊三日。明日も三人は家にいる。


 俺が家にいると、またさっきみたいな事故が起こるかもしれないし、一緒に遊んで仲良くなりすぎてしまうかもしれない。


 少し距離をおくために、外にで遊ぶことにしよう。それが大人の対応というものだ。

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