第44話みんなで歯磨きしよ

「いただきます!」


 紬が元気よく言ってから、スプーンをもつとビーフシチューを食べた。


「美味しいね!!」


 どうやら口に合ったようで、パクパクと口に運んでいる。

 その姿を見た愛羅もビーフシチューを口に含む。


「やば、うまっ!!」


 大きい目がさらに大きくなって、驚いた表情をしていた。

 手が止まらないようで愛羅も食べ進めていく。


 そんな友達を見て麻衣は嬉しそうにしていた。


 最初は食生活が乱れがちな紬に、ちゃんとした食事を振る舞ってあげたいという動機で料理を学んだ。少しは喜んでくれるかなとは思っていたけど、ここまで楽しそうに食事をしてくれるとは。三人とも幸せそうで、料理教室に通ってよかったと思う。レイチェルには感謝だな。


「俺たちも食べようか」

「はい!」


 最初に食べたのは揚げナスだ。熱が通ったナスは柔らかく、タレとナス自身の味があわさって美味い。おかかもいいアクセントになっていて、食べる飽きることはなさそうだ。白米が進む。


 エリンギとベーコンも食感がいいし、ビーフシチューは何度か麻衣と一緒に作ってきたから、食べ慣れてはいるけど安定した美味さだ。


 店に出せるレベルかはわからないけど、家庭で食べるには十分だろう。


 女性とはいえ育ち盛りが三人もいるので、用意していたい食事はすぐに食べ尽くされてしまった。デザートととして愛羅からもらった羊羹を出したけど、それもあっという間になくなる。


 消費スピードは一番速かったかもしれない。

 みんな甘い物が好きなんだな……。


 食事を終えた麻衣たちは食器を片付けると、三人は再びゲームを始めた。

 自分の学生時代を思い出すような光景で微笑ましくなる。遊べるときにいっぱい遊ぶんだぞ。


 リビングに居場所はないので、部屋に戻ることにする。今日のことを親父たちに報告してからスマホを手放して仮眠を取ることにした。


◇ ◇ ◇


 目が覚めたとき、時間は夜の九時を過ぎていた。まだ眠気があるけど、お風呂に入らなければ。


 部屋を出てテレビのある場所を見ると、三人はまだゲームをしていた。脱衣所に入ったら女子高生の裸を見てしまうといった、トラブルは避けられそうだ。


 変態お義兄さんなんてレッテルを貼られたら生きていけないので、こういった気づかいは重要なのだ。なんて出来る男なんだろうと、自画自賛する。


「あー! また紬に負けたー!」

「麻衣は運がないね!」

「いやいや、紬がちょー運いいだけっしょっ!」


 ゲームで盛り上がっているようなので、声をかけるのもはばかれる。楽しそうな空気を壊すのは悪いと思ったので、静かに移動して脱衣所に移動した。


 服を脱いでカゴに入れる。鏡に映る裸体は筋肉があって、ほどよく引き締まっている。まだ中年太りは気にしなくてよさそうだ。


 風呂場に入るとシャワーを出して頭を洗った。リンスをしてから体を腕、首、体、股から足、背中といった順番で綺麗にしていき、シャワーで流して湯船につかる。


「ふぅ」


 緊張から一気に解き放たれた。


 我が家に女性が三人もいる。しかも大切な義妹の友達だ。嫌われないように細心の注意を払わなければいけないので、少し疲れてしまったのだ。


 鼻がギリギリ水面の上に出るまで浴槽に沈んでいく。


 何も考えずに時間を消費していると、全身の筋肉がほぐれて、頭がぼーっとしてきた。このままだと寝てしまいそうだ。


 風呂で寝るのは気絶なんだっけ?

 まあ、どっちでもいいか。そろそろ上がろう。


 重くなった体を動かして浴槽から出る。ぽかぽかと体が温かい。

 バスタオルで頭や体の水分を取ってからパンツをはいた。

 パジャマを着ようと手を伸ばす。

 突然、脱衣所のドアが開いた。


「みんなで歯磨きしよ」


 最初に入ってきたのは麻衣だ。その後ろに柚と愛羅がいる。


 三人の目が俺の裸体に釘付けだった。


 パンツはいててよかった…………って、違う!!!


「え、あの、これは……」


 頭がパニックになって両手を振って、言い訳をしようとしたけど言葉にならない。どうしよう。セクハラだ。会社はクビになって……って、俺はフリーランスだから契約終了の間違いだ。いや、家族に裸を見られたらセクハラになるの……か? 違う違う、仕事は関係ない!


 ダメだ、考えがまとまらない!

 というか、どうしればいいのかわからない!

 誰か答えを教えてくれッ!!


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