第2話 あの日、彼女はやってきた(後編)

 こいつ……、どういうことだ?オーラってなんだよ。でも――合っては、いるんだよな。


 「なんだよそれ。俺は、どれだけ暗い顔をしていたんだよ。寝不足で、大きなくまでもできてるか?」


 「表情は関係ないわ。オーラが出ているから、すぐに分かる」


 「オーラね……。仮に、俺からそのオーラが出ていたとして、あんたはそれを知って、阻止しに来たと?」


 「いえ、興味本位ね。私にそれを止めることは、きっと出来ないだろうから、なにがきっかけでそういう考えに至ったのか、それを知りたいってだけ」


 「なるほど。それで、あの質問に行き着くわけか」


 「そう。納得したかしら?」

 

 「納得するわけないだろ!だいたい、そんな知らないやつからド直球に、そんな質問投げられて、答えるとでも思っていたのか?」


 「……まぁ、一理あるわね。質問を考えるべきだったわ。『急にすみません』くらいは付けるべきだったかしら」


 「あんた、もしかしなくても、結構バカだな」


 「だから、誰も答えてくれなかったのね……」


 「え?まさか、同じようなことを、他でもやっていたのか?」


 「ええ。でも、こうやって話すことは初めてね。ほとんどの人は、私の言葉なんて聞こえないって感じで、まるで空気扱いよ」


 「そりゃあ、そうだろうよ。てか、そんなこと続けていたら、あんたいつか捕まるぞ?」


 「そうね、通報しないでくれてありがとうございます。では、仕切り直して……」


 「え?」


 「なんで、あなたは死にたいの?」


 「全然仕切り直ってないし!今のやり取りで、距離が縮まったとでも思っているのか?」


 「ええ、友達くらいには」


 「あんた、いったい友達何人いるんだよ」


 よく分からないやつだけど、変に憎めないところがあるよな。……俺も、こいつみたいな考え方だったら、もう少し、世界が明るく見えていたのだろうか。


 「おい、君たち、邪魔だぞ」


 「ああ、すみません」


 気付かないうちに、辺りはたくさんの人で溢れていた。それもそのはずで、ここの渓谷は、日が落ちる瞬間が一番綺麗だから、その時間を目安に来る人が、たくさんいるのだ。


 「……と、まぁ、こんな状況じゃゆっくり話も出来ないな。それじゃ、こういうことは控えるんだぞ」


 「……ちょっと、話はまだ……」


 多くの人波にまみれ、お互いの姿は見えなくなった。人混みが嫌いな俺だが、今回ばっかりは、人混みに感謝をした。少し脱線したが、なんとか帰路に戻り、自宅までたどり着くことが出来た。


 「ただいま」


 六畳一間の空間に、俺の声だけが反響する。誰と住んでいるわけでもないが、ただいまは言うものだろ?


 「今日は疲れたな。結局、あいつはなんだったんだ。でも、電車で見かけたってことは、案外近くに住んでいるのかもしれないな。それだけは、勘弁してほしいが」


 俺は、そのまま睡眠へと誘われた。この日を境に、俺の運命がガラッと変わっていくことを知らずに、俺はのんきにも、だらしない顔で熟睡していた。

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彼女は天使か悪魔か @nagatatoru

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