チア王

gaction9969

チア王


 またやっちゃった。


<お忙しい中お手数をおかけしますが、ごチア王よろs>


 うぅん……焦って「対応taiou」って打つと、七割がた「チア王tiaou」になっちゃうよね……私だけ? とか思いながら、いや疲れとんねん、仕事集中できるのはいいけど、やめどきを見誤りがちだから在宅勤務ざいたくっつうのも良し悪しよねへぇん……


 とかどうともしがたい考えを浮かばせつつ、タンタタタタタン、とBSキーを苛立ち紛れに殊更リズミカルに叩こうとしたら視界隅、「Delデル」と液晶の間に何か赤いものがよぎったわけで。


――お疲れのようじゃのう、お若いレディ。


 いや、明日半休取って医者案件かなこれは。世に聞くちっちゃいおっさんが画面からせり出して来てるように見えるよやっぱブルーライトから目を保護する何かって必要だよね……


 おっさんは百人いたら百人が「王様」と答えるであろう、赤を基調としたガウン状のものと赤カボチャ然とした王冠、そして手には金キラの錫杖しゃくじょう的なものを携えていて、おまけにこれでもかの立派なモコる白髭しろひげを蓄えてらっしゃるけども。そしていい声。なぜ? 私の大脳がいい感じにバグってるにしても何故。


――四六時中、座ってばかりの政務ほど、目・肩・腰に来るものはないからのう。


 何かのウェブCMっぽい物言いだけど、こんなに立体感を伴う動画ってまだ普及してないよね?


――我が名は『チア王』。おつかれの貴殿きでんにエールを送ろうぞ。


 え? 応援チアする王様ってそういうこと? あらららそんな直球しかほうれなくなってんの私の大脳?


 白髭に囲まれた柔和な顔が、次の瞬間このに及んで恥ずかしくなったのかほんのり赤らんだけど。いや恥ずかしいのはこっちだよ。


 そんな中、


 なげやりのようにフレーフレーとかベタなことをやり始めたところで意識が娑婆に戻ってきた。おっさんの姿は消えていて、でも何ていうかの軽い爽快感。また打ち間違ったら会えるかな。


 会えたとて、だけどね。


(終)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

チア王 gaction9969 @gaction9969

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ