雑用係
あれから、城内は決闘の話で持ちきりだった。魔導技師が聖騎士に勝つという大番狂わせの結果が、さらに話を広めていったようだ。
お陰で城を歩いていると、色んな視線を感じたり、コソコソした話し声を聞くようになった。
「やっぱり、噂になってますね」
「そうだな。まぁ、気にするほどじゃないし、ほっとけ」
「ケイがそう言うなら、いいんですが」
俺とルイは決闘の賭けを清算してもらうために、近衛騎士団の兵舎へ向かっていた。マイクから軽く話を聞いたのだが、どうやらレイアは近衛騎士団内で腫れ物扱いされているそうだ。理由は色々あるそうだが、それはこれから聞けるらしい。
そんなこんなで、俺達は兵舎の前まで着いた。
「ケイさんとルイさんですね。こちらへどうぞ」
兵舎の前で待っていてくれた衛兵さんに案内されて、俺達は応接室に通された。そこにはレイアとアーノルドー、それから金髪の爽やかイケメンがいた。
「やぁ、よく来てくれた。ひとまず、座って話そう」
そのイケメンがこの場を仕切り、話を進めていった。まず、軽い自己紹介があったのだが、このイケメンが近衛騎士団団長クリス・シュラウドらしい。アーノルドーよりも若く、華奢に見えるが実力は遥か上なのだとか。レイアが副団長を務めていることからも、良くも悪くも実力主義なのだろう。
「それで今回の賭けなのだが、スターレンをどうぞよろしく頼む」
クリスのその言葉に俺は驚いた。あの条件では、流石に譲歩を頼まれると思っていたからだ。レイアが俺の雑用係になれば、近衛騎士団の副団長の座が空いてしまうだろうからと。
ただ、話を聞いていくとレイアが既に副団長を解任されていることがわかった。なんでも、スターレン家の家宝を勝手に持ち出した挙句、決闘で使用して壊したことが問題となったようで。スターレン家当主が、決闘の賭けを全面的に受け入れるように手を回したらしい。
「俺が提案しといてなんだけど、お前それでいいのか?」
「決闘の内容については、色々と言いたいことはあるが。結果として、私は負けた。ならば、賭けの代償を払わないわけにはいかないだろう」
これでいいのかとレイアに確認を取ると、意外と潔い返事が帰ってきた。もっと、イチャモンとかつけてくるもんだと思っていたから、びっくりしていた。
それが表情に出ていたのか、レイアに「何だ?不服か!」と怒られてしまった。
「今回の件は、これで終わりでいいかな?」
クリスがそう確認を取ってきたので、「大丈夫だ」と返事をする。レイアも異論はないようだ。
それから話が一段落し、俺達が帰ろうとしていると応接室の扉が大きく開かれる。
「まだ、話は終わってないですよ!」
そう言って入ってきたのはクレアだった。自分の護衛だったはずの騎士が、突然決闘を行い、あまつさえ負けて雑用係になろうと言うのだ。まぁ、駆けつけてくるよな。
そんな事を考えていたら、クレアが俺を凄い睨見つけていた。ほとんど、俺のせいじゃないのに。
「あぁ、麗しきクレア殿下。ここには、どのような御用で」
クリスはすかさず、クレアに駆け寄ると跪き手の甲に口づけをする。騎士が主君に行う形式的な挨拶だが、クリスのそれは少し違った感情が入っているような気もした。
「用があるのはケイとレイアにです」
クレアはそう言って俺の方に近寄ってくると、色々と文句を言ってきた。何故断らなかったのかとか、もっと上手くやれただとか。
俺が怒られている所をクリスが少し睨んだ表情で見ていたのが気になったが、クレアは色々言って満足したのか今度はレイアを怒り始めた。
「スターレン家当主が決めたことですし、今回の件は仕方がないですね」
クレアは一通り怒り終えると、そう言った。そして思い出したかのように、もう一つ俺に言わないといけない事あったと話を始めた。
「今のところ噂の域を出ていませんが、どうやら城を出られた方々の中で悪事を働いている方達がいるようなのです」
「その話であれば、騎士団の方にも入ってきています。王都から西に行った都市である『カトレア』で、そのような噂が広まっているとかで」
クレアの話にクリスが補足をする。その噂は初めて聞いたが、そんな事をする心当たりが少しあった。
そこから、噂の内容を色々と聞いたが心当たりの人物に揺るぎはなかった。嫌な予感を感じつつも、俺達はその場を後にした。
———————
これで二章が終わりとなります。
不定期な更新も多いなか、ここまで読んで頂きありがとうございました!!
恵達の異世界ライフはこれから大きな転機を迎えていきます。三章で起こる色々な事件をお楽しみください!
ここから、あとがきです。
作者は更新の無い間もTwitterに生息しているので、よかったらフォローお願いします。
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世界を救うのは伝説の勇者ではなく、生産職の魔導技師!? 茗々(ちゃちゃ) @oui_chacha
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