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姫様はお疲れのご様子でしたので、帰りはわたしがおぶってお送りすることになりました。
「次はゴールデンウィークにしようと思ってるの。つまり、私たちのお出かけのことだけど」
広場からバス停への道中でもう一度桜草の群生地に差しかかった際、姫様は仰いました。
「今回は近場だったけど――ねえ、東京に出てみない? まずは池袋ね。それから徐々に南に下っていきましょう。目指すは舞浜よ」
「舞浜は千葉でございます」
「わかってるわよ」姫様はむっとしたように仰いました。「慇懃無礼っていうのかしら、あなたってたまにそういう小馬鹿にしたような口を叩くわよね」
「申し訳ございません。そのようなつもりは断じてないのですが」
姫様はいま外の世界へと羽ばたこうとしておられるのでしょう。世界を知ろうとしておられるのでしょう。自分と世界の関係を定義しようともがいておいでなのでしょう。
かつて、私やあの方がそうだったように。
すべての大人たちがそうだったように。
青春のはじまりと悲しみ。
少年時代の希望。
初恋。
あこがれ。
桜草の花言葉が象徴する青春の入り口に、姫様は立っておられるのでしょう。
「ねえ、さっきの歌ってあそこで終わり?」姫様がすぐ耳元で問いかけられました。どこか甘えるような、幼い子供が子守唄をせがむような声音と口調でお続けになります。
「お屋敷に戻ったら、レコードをおかけしましょう」
「
「
「
姫様に命じられれば、それに従うが私の務めでございます。
私は羞恥心を振り払うようにひとつ咳払いをし、オペラ歌手には及ぶべくもない、小さな声で歌いはじめました。
復活のプリームラ 戸松秋茄子 @Tomatsu_A_Tick
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