針と音

たかしゃん

針と音

 あのときから、僕の針は止まっている。


 でも、あの日から音は鳴り続けている。


 動かない大きな歯車を、

 戻らない小さな針の旋律を、

 共に歩み刻んだ思い出の全てを、


 無慈悲にこじ開け、垣間見る。


 冷ややかな機械仕掛けではない。


 僕の知らないその音は、

 分からない調べのきざはしは、


 例えようもないほど……温かい。

 比べるものが見つからない。

 また聞きたいけれど、

 もう訊けれはしない。


 見ることも、

 触れることも、

 できないままに、

 また冷ややかに別れを告げる。


 ふらふらと一人で歩む道。


 孤独の輪廻に身を委ねて、

 なかったことにしてしまう。


 これまでと同じように。


 だけど、もう知ってしまった。


 聞いてしまった。


 感じてしまった。


 狂った歯車を戻す音。

 落ちた針を正す音。

 青い暦を描く音。


 奇跡を起こし、治す音。


 たとえ時は刻めずとも

 それさえどうでもよくなるような

 途絶えたはずの高鳴りは、


 どこまでも響いて……温かい。


 あのときから、名のない音は鳴り止まない。


 なぞっては消えるその調べ。


 それが僕の道標みちしるべ

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針と音 たかしゃん @takasyan_629ef

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