第2話 日課
俺は朝、宿を出ると、何か依頼を受けるために冒険者ギルドに向かった。
「ようこそ、冒険者ギルドへ!今日は依頼を受けられますか?」
元気よく、受付の女が挨拶をしてくる。なぜ、朝からこんなに元気なのか...。
「ああ。そうさせてもらう。なるべく、ポイントが多いやつを頼む。」
「わかりました!少しお待ちください。...はい!今あるFランククエストの中で比較的ポイントが高いのは3つですね。」
「なら、全部受けよう。」
「え?本当ですか?いくらヨルダさんでも、夜までかかっちゃいますよ?鑑定魔法も持っていないようですし...。」
「大丈夫だ。昔、薬学の勉強をしていた。大体の薬草はわかる。」
「そ、そうですか...。でも、気をつけないといけないですよ!いくら、Cランク冒険者を力でねじ伏せても、冒険には危険が付き物ですからね!?」
「ああ、わかっている。」
「ならいいですけど...。で、3つの依頼の内容ですが ...。」
ここからは長かったので、要約する。
まず1つ目は、回復ポーションに使われるヒール草の採取だ。この依頼は薬屋からの依頼で、20株を採取してこないといけない。2つ目は、魔力回復ポーションに使われるマナ草の採取で、こちらも薬屋からの依頼だ。こっちは5株だ。最後の3つ目は、ドーテ草の採取。こちらは教会の依頼だ。ちなみにこの教会の進行している宗教は、連合国が信仰しているヒューマ教とは違う宗教だ。名前は、確か、グンタルシア教みたいな名前の宗教だった気がする。ちなみに、この宗教の教皇は、ゴードン王国の東に位置する「グンタルシア聖教国」の国王でもあるらしく、王国とも仲がいいため、この宗教の信徒は王国の中で1番多いらしい。まあ、それはいいとして、ドーテ草とは、解毒に使われる薬草だ。教会では、聖水や毒消しなども売っているため、それに使うのだろう。ヒール草とドーテ草はまだ一般人にも見つけやすいのだが、マナ草は、群生地でないとなかなか手に入らない代物のため、1番ポイントが高くなっているそうだ。
「こんな感じですが、本当によろしいですか?」
「ああ。早速行ってくる。」
「わかりました。良い一日を!」
受付から離れると、俺を見ながら耳打ちをしている奴らがいた。その中の言葉に「死んだ目」と聞こえたが、今日はスルーしてやろう。俺は優しいのだ。
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俺が今日、依頼を3つ受けた理由は、1番の理由は、早くランクを上げたいからだが、もうひとつ理由がある。それは、俺のスキルに関わってくるものだ。俺のスキル『正義執行』の能力のひとつに、敵に対して、俺がその時放てる最大威力の魔法を撃つというものがあるが、実は、その魔法を撃つのに消費するのは俺の魔力ではいのだ。消費するのは、『正義ポイント』だ。まあ、これは俺が名付けた名前で、通称「SP」と呼んでいる。その「SP」だが、当然能力を使えば、消費され、0になる。しかし、それは、体力のように時間経過では回復されない。なら、何を行えば回復するのか?それは、「正義を執行を行う」ことによって回復するのだ。その正義を執行というのは、イマイチ曖昧で俺もよく分かっていないが、要は人助けって事だ。それに気づいたのは、昔、俺が酔っぱらいに絡まれていた女を助けた時だ。女に「ありがとう」と言われた時、「声」が聞こえた。
『ポイントがたまりました。「正義執行」を1回行うことが可能です。』
と言っていたので、そこから俺は積極的に人助けをする事にした。いざと言う時のために備えておくのは大切だ。そのために、クエストを多めに受けたのだ。
そして、今日の依頼を終えたあと、軽く狩りをしようと思う。今、「いや、お前せっかく人助けして、SP貯めても狩りをするなら使わないといけないだろ」と思っただろ?チッチッチ。俺がこの3年間何の対策もしていないとお思いで?実は、とある人物から、聖属性の魔法が込められた指輪を貰ったのだ。その指輪の魔法もとても強力なのだが、やはり勇者の呪いを完全に打ち消すことは出来なかったようだ。だが、SPを消費して行う攻撃はできないようになったのだ。まあ、自分に対する攻撃は変わらないが...。なので、普通に魔物などを狩れるようになった。正直、この指輪を外す時はあまりないだろうな。相手が強敵の場合は例外だが...。
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「思ったより早く着いたな...。」
俺は街からすぐそこにある森の中に来ていた。早速お目当てのものを探していこう。
「鑑定魔法Lv3、探索サーチ。」
この魔法は、周囲にある目的のもの、まあ今回ならヒール草だが、を探してくれる魔法だ。この魔法は、円が広がり、その中にあるかどうかを教えてくれるのだが、この円の大きさは使用者の魔力の大きさに比例する。ちなみに俺の大きさは10mぐらいだ。すごいやつだと20~30mまで広げられるらしい。
まあ、それは置いておいて、ヒール草を探していると、魔法に反応があった。ここら辺かな...?と、探していると、運良く結構生えている場所に当たった。パッと見、50株は生えている感じだったので、まずは依頼の20株を取り、自分用に10株くらい貰っておくとしよう。あまり取りすぎても、次来るやつが困るからな。
...よし、採取できたな。依頼の方は皮袋に入れてと...。自分の分は、こっちに入れる
「空間魔法Lv2、箱アイテムボックス。」
この魔法は、アイテムを魔法によって作り出した亜空間に入れておける便利な魔法だ。ちなみにこちらも大きさは、魔力の量に比例する。
この2つの属性を使える者は少なく、とても重宝される。が、利用されることも多く、国の鑑定士や、魔術師として働かされるというのもよくあるらしい。だから、ギルドには幻魔法で隠しておいた。ちなみにあの石版は、鑑定魔法のLv1、「鑑定スキルチェック」が刻まれている魔道具マジックアイテムだ。これは、鑑定魔法の基本中の基本で、Lv1だと、幻魔法を見破ることまではできないため、あそこではバレなかったのだ。
普通の人間だとここまで多属性使えるのはなかなかないのだが、俺が使えるのは、勇者の息子だからだろう。ちなみに、父は、派生属性なども全て扱えたようだが、俺は派生属性までは使えない。それらは努力して使えるようになるしかないのだ。
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「よし、これでいいな...。」
俺は、「探索サーチ」を使って、マナ草とドーテ草も採取した。マナ草は、昼をすぎても見つけれなかったため、昼食も食べずに探した結果、何とか5株集まった。自分用に取れなかったのは残念だ...。そして俺は、軽い昼食を取り、日が暮れるまで狩りをすることにした。まあ、ここら辺の森にはあまり強い魔物はいないのだが、低ランクの冒険者がバンバン高ランク魔物を倒したと言っても、信じて貰えないだろうからな。そこはいいだろう。久しぶりの戦闘だしな。肩慣らしと行こうじゃないか...。
俺は、森の中の奥に進んでいった。すると、植物系の魔物の「イビルウィード」の群れが出てきた。確か、この魔物はEランクの魔物で、草などの上で魔物が死んだ際に漏れ出る魔素を過剰に摂取してしまうと出現する魔物だ。低ランクの魔物なのだが、数が多くまとまっている為、Dランクパーティーでも苦戦することが多いようだ。まあ、俺の敵ではないが、だが、触手は面倒だな。まあ、自分からは攻撃できないので、触手が飛んできてから火魔法だな。そう考えてるといい感じに触手が飛んできた。
「ピギャッ!!」
「火魔法Lv3、火球ファイヤーボール!」
触手が俺に届き切る前に群れを焼き尽くす。まあ、普通ならば素材を回収するためにあまり、火魔法は使わないのだが、イビルウィードは大したものは落とさないので迷わず火魔法を使った方がいいだろう。
イビルウィードを倒すとさらに奥に進もうか、と思った瞬間、右横から、太い触手が飛んできた。
「うおっ!?」
俺は、体を反り、間一髪避けることに成功した。すかさず飛んできた方向を見ると、3mを超える「キラープラント」が次の触手を飛ばしてきていた。なので、
「火魔法Lv4、火壁ファイヤーウォール!」
この魔法は文字通り、火で壁を作る魔法だ。サイズは自由に変えれるため、俺は自分の身長サイズの壁を作り出す。そして、その壁に触手が突き刺さる。が、触手は燃やされ、
「イギィィ!?」
と、キラープラントが汚い鳴き声を発していた。そして、「火壁ファイヤーウォール」を解除し、距離を取る。この魔物「キラープラント」は、Cランクの魔物だ。先程のイビルウィードの上位種で、イビルウィードと同じように出現するそうだ。また、口から酸性の液体を吐き出すので、接近戦には気をつけないといけない。また、キラープラントは倒した際に魔石をドロップする。そのため、是が非でも倒したい。ちなみに、魔石が出る魔物になるとCランク以上の魔物と認定され、サイズによってランクが変わるそうだ。なので、Cランクのキラープラントの魔石はあまり大きくはないのだが、魔石は高く売れるので倒そうと思う。
さて、そろそろやるか。
俺は、少しずつ、やつとの距離を詰めていく。すると、あちらは複数の触手をこちらに飛ばしてきた。キラープラントは触手を焼かれてもすぐに再生するため、火魔法を当てるなら本体だ。だが、低Lvの火魔法はあまり効き目がなく、高火力でもスピードがないと避けられる。なので、徐々に距離を詰め、火魔法でぶった斬る。
そうと決めたら実行だ。俺は剣を鞘から抜き、全速力で真っ直ぐキラープラントに向かう。それを阻止しようと、キラープラントは、触手を複数飛ばしてくる。だが、それを俺は剣で切り落としながらひたすら進む。そして、俺はキラープラントの目の前に出る。
「イギギィィ!?」
キラープラントは驚きながらも、口から酸性の液体を俺に向けて吐き出す。そして、俺・はそれにかかってしまう。
「イギギギギ」
キラープラントは俺を倒したと思い、笑っている。だが、酸のかかった俺はその場で苦しみ事なく、姿を消した。
「イギ!?」
キラープラントは周りを確認する。だが、時すでに遅しだった。
「後ろだよ。火魔法Lv5 魔法闘気・火。」
俺は、剣に火魔法を纏わせ、大きく振りかぶりキラープラントが振り向くと同時に一刀両断する。そして、キラープラントは苦しみながら、燃え尽き、そこに残ったのは魔石のみだった。
なぜ、あの時、俺が酸にかかっても大丈夫で、キラープラントの後ろに周り込めたのか。それは、幻魔法Lv3「分身」のおかげだ。俺はあの時、剣で触手を切り落として終え、キラープラントの前に出て、やつが酸を吐き出した際に、その魔法を唱えた。やつは酸を広範囲に広げたため、視界が酸で覆われていた。そのため、俺はその隙をついて、やつの後ろに回り込んだのだ。ちなみに、「分身」は何かに触れてしまうとすぐに消えてしまうため、フェイント程度にしか使えない。が、使い方次第では、結構いい働きをする。そして、武器に魔法を纏わせて、その武器を、指定した属性の性質の同じ魔道具マジックアイテムとする魔法、「魔法闘気」で、一刀両断した。キラープラントの本体は俺の剣だと倒しきれない可能性があったため、保険として火属性をかけて置いた。ちなみに、この魔法は例外はあるがどの属性でもLv5魔法として存在している。
俺は、キラープラントの魔石を拾う。今日はなかなか骨のあるやつと戦えたし、街に戻りながら適当に魔物を狩ることにしよう。と思ったが、何か声が聞こえてきた...。
声の方に向かうと、若い4人組がキラープラント相手に追い詰められている様子が見えてきた。
一瞬迷ったが、恩を売るのは悪くないし、SPの為にも助けてやろう。まあ、人助けは慣れてるし、最悪死なせなければ大丈夫だろう。
「さて、日課を始めますか。」
最早日課となってしまった「人助け」のために、俺は4人組の方に歩き始めた...。
正義に呪われた男 @terukodesu78
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