ゴードン王国編

第1話 目の死んだ男

「ガチャッ」

 ある1人の男が、冒険者ギルドへ入ってきた。

 すると、1人の中年男性がその男の目の前に立った。

「よお、お前さん。見ねぇ顔だな。新入りなら、先輩に挨拶するのが筋ってもんじゃねぇのか?」

「...。」

「おいおい、無視かよ...。このCランク冒険者であるゴーダン様に...っておい!シカトしてんじゃねぇよ!」

 男は、黙って受付へ向かう。

「人が下手に出てやってるって言うのに!」

 Cランク冒険者が男に殴り掛かる。が、見事かわされ、ナイフを首元に突きつけられる。

「ぐっ...。」

「黙れよ、おっさん。」

「あ、ああ、悪かった。すまない。ナイフをしまってくれ。」

 男は慣れた手つきでナイフを鞘にしまう。

「おいおい、Cランクに有無を言わせず謝らせるってどんな新人だよ。」

「しかも、あいつ騎士とかから流れてきたって感じでもなさそうだよな?」

「ああ、あれば見たとこ、15、6ってとこだな。」

「にしては、目が死にすぎだけどな笑」

 周りの冒険者たちは、その「目の死んだ」新人について話している。

「チッ...。」

 男はわざと周りに聞こえるように、舌打ちをした。すかさず、冒険者たちは黙り込む。

 それを気に留める様子もなく、男は受付へ歩き出す。



 ______________________




 めんどくさ。やっぱ人間ってめんどくさいな。こいつら。

「ったく、なんでこんなスキr」

「ようこそ!冒険者ギルドへ!本日は、冒険者ギルドへの登録ですか?」

「...そうだ。」

 急に話しかけんなよ...。

「かしこまりました!それでは、こちらの石版の方に、手をかざしてください。」

「ああ。これはなんだ?」

「あっ、こちらは鑑定ができる魔道具マジックアイテムです。」

「...そうか...。」

「何か...?問題でも?」

「昔ちょっと...。いやなんでもない。関係の無い話だ。手をかざせばいいんだろ?」

「はい!そうです。...大丈夫です!えーっと、お名前がー、ヨルダさん。15歳。成人済みですね。犯罪歴もなし。奴隷紋もなし。冒険者ギルドへ登録できます!すぐに登録しても宜しいですか?」

「構わない。」

「はい!お先に、入会費として、銀貨1枚頂戴致します。」

「これで。」

「はい!ありがとうございます。続いてですが、ギルドカードの発行ですね。こちらの針で、血を1滴こちらの石版にお願いします。」

「...。」

「......はい、OKです。では、ギルドカードを発行している間に、冒険者ギルドについて説明をさせていただきます。」

「頼む。」

 と言ったものの、大方は知っている。要約するとこうだ。

 冒険者ギルドには、ランクというものがあり、一番下はF、1番上はSランクとなる。昇格はポイント制&同ランクの魔物の討伐依頼を3回こなすと昇格となる。ちなみに、同ランク以下の討伐依頼しか受けれないため、一気に高ランクに上がれることは稀らしい。(Fランクには魔物の討伐依頼がないため、採取依頼や、素材持ち込みで昇格しないといけないらしい)

 また、先程支払った入会金の他に、年会金として銀貨5枚が必要なのだそう。これを支払わないと、ギルドカードを取り消されることになる。なので、これは絶対に忘れては行けない。他にも、3ヶ月依頼を受けない、冒険者同士での私闘などが取り消しの対象なのだそう。

 冒険者ギルドの中には、魔術師ギルドというものも存在し、これは一番下はD、1番上はこちらもSとなる。こちらのギルドは、冒険者でFランクでも、魔術師でDランクなら、Dランクの魔物の討伐依頼が可能となるそうだ。

 ちなみに、Dランク試験を受けるには最低でも、どれか3属性がLv3を超えていないといけないそうだ。

「ヨルダさんは、基本の火、水、土、風、光、闇、援護魔法が全てLv3使えるそうなので登録してもいいと思うのですが...?」

 と言われたが、

「試験の内容は?」

 と聞くと、

「試験官との模擬戦と面接です。」

 との事だったので、断った。人間とはあまり喋りたくない。

「とりあえずの説明はこんな感じです。ギルドカードもそろそろ出来そうなので、役職を教えていただいてよろしいですか?」

「ああ、っと...。魔剣士だ。」

「了解しました!こちら、ギルドカードです。では、良い冒険者ライフを祈っております。良い一日を!」

「ああ。」

 いくら、営業スマイルだからといって満面の笑みは少し怖いな...。さっさとこんな所からはおさらばだな。

 依頼は明日受けることにしよう。さて、宿へさっさと向かおう。



 ______________________




 皮鎧からシャツとズボンに着替え、ベッドに横になる。

 俺は、昼間行った冒険者ギルドにいた者たちを思い出す。

「誰一人、俺の幻魔法見破れてなかったな...。」

 俺は、警戒して自分の姿、情報を偽っていた。3年前とはいえ、警戒するに越したことはないだろう。ここは、あの時と違う国だが、やはり人間たちの欲深さは侮れない。バレなかったのは良かったが、少し拍子抜けだな...。

 あの時、俺のスキル『正義執行』が発動してから、3年がたった今。ある程度このスキルに対して、理解することが出来た。

 まず、このスキルの目的だ。恐らく、スキルがよく使う「邪悪」の殲滅だ。この「邪悪」というのが俺にはまだよく分かっていない。恐らく魔物や欲にまみれた人間などだ。なぜ、そう定義できるかそれはこのスキルの発動条件から考察できる

 このスキルの発動条件は、

 1.自身に対して、魔物からの攻撃、欲求から来る人間からの攻撃をしてきた場合。

 欲求という点に関しては、3年前のような事があれから起きていないため、「一応」付け加えた。自動攻撃は、その時自分が打てる最大の魔法を「必ず」当てるというもの。これは、魔物などに対して行ったので実証済みだ。

 2.自身が、自らが敵意の無いものに対して、攻撃した場合。

 これは、3年前の出来事が起きてから、自暴自棄になっていた時に気づいたものだ。あの時の俺は、俺の事を助けようとしたやつも攻撃していたからだ。

 今、分かっているのはこの2つだ。

 これらからわかる通り、俺はいわゆる「邪悪」に対してしか攻撃ができない。また、自動攻撃の意味もそれぞれ違っている。1の方は、自分がその時に撃てる最大の魔法で攻撃する。2の方は対象に撃った魔法もしくは、剣などの武器で与えたダメージを自分が食らうようだ。ちなみに、この時対象にはダメージは入らない。

 このスキル、要は諸刃の剣ということだ。時には自分を守る剣となり、時には自分を傷つける剣となりうるのだ。実際、何回か傷つけられたこともある。例えば酔っぱらいが絡んできた時だ。間違って殴ってしまうと、そのダメージが自分に入るのだ。だから、さっきギルドで絡まれた時もナイフを首元に押し付けたのだ。普通なら、殴りでもすればいいのだが、俺にはそれが出来ない。ダメージも入るし、スキルの一端でもバレるの良くない。それに付け込まれる可能性があるからだ。なので俺はできるだけ、人間達と関わりたくない...。まだ人間は嫌いだが、3年前のことをズルズルと引きずっている訳では無い。確かにトラウマではあるが...。だが、相手を傷つけるのも自分が傷つくのは嫌だからな。だから、関わりたくない。

 だいぶ、話が脱線したが、なぜこのスキルが顕現したかだが...。俺はある程度予測がついている。恐らくは勇者であった父親の影響だろう。3年間の間にこのスキルについて書いてあるものはないか、と探しているうちに勇者にまつわる文献を見つけた。そこには、「勇者には、召喚されたと同時に術者複数人の命を犠牲にした呪魔法がかけられた」と書いてある。スキルが顕現した時も「呪いによる」と言っていた気がする。そこから推察するに父の影響だろう。これに関しては、父と言うより、父を召喚したやつが悪い。

 そして、このスキルは恐らく「自我」を持っていると思う。そう思うのは、やはり「声」のせいだろう。この声は、スキルが発動する時にしか聞こえない。自分から話しかけても返答はない。あくまでも、発動条件を満たさないと「声」は出てこない。だから、何回かわざと他人に攻撃したこともある。まあ、意味はなかったが...。この点に関しては、謎が多い部分となっている。

 そして、「俺自身」の目的だが、第1の目標は、父を召喚した国、そして、俺を絶望に陥れた国「ブルタミア・ガンダルディア連合国」を潰すことだ。この連合国は、今俺が住んでいるこの大陸ほ1番南に位置する国であり、小国であった二国が同盟を結ぶような形で国となったそうだ。連合国は、「人こそが思考の存在」を掲げる「ヒューマ教」を国教としている。そのため、勇者の召喚にも積極的だったらしく、犠牲を出しながらも初めて勇者を召喚した国なのだそう。そして、その勇者が邪悪とする魔物に負けた。だから、その息子を捕まえ、磔にでもしようとしたのだろう。俺はそこに疑問を持っている。なぜ、至高の存在である人間のはずの俺を賞金首にしたのか...。確か、当時は、魔物の臣下に...とかほざいてたな...。

 そのためには、まず「ヨルダ」として名声を高めるのが良いと思った。なぜなら、今すぐに連合国行けば、俺が勇者の息子だとバレる可能性もある。連合国は、魔法の先進国なので俺程度の幻魔法だと容易く見破られるだろう。そのため、俺自身のレベルアップが必要だ。そして、そのレベルアップの場に選んだのが、連合国の北西に位置するこの国、「ゴードン王国」だ。その理由はシンプルで、連合国と仲が悪いからだ。俺は政治についてよく知らないため、詳しくは知らないが、戦争を何度かしているのは流石に知っている。

 ということで、当面は冒険者として活動し、BかAランクまでランクを上げ、国境越えをしようと思う。

 明日からは、依頼をバンバン受けないといけない。今日は早めに寝よう。







 ______________________









 ヨータはまだ知らない。

 このゴードン王国で何が起こるのかを。これから、この国で様々な問題が発生する。それらは全て繋がっている。裏には誰がいるのか。そして、スキルが果たす役割とは...?

 第一章 激動のゴードン王国編が始まる...。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る