正義に呪われた男

@terukodesu78

序章

第0話 勇者の息子

人は残酷だ。

 人は非情だ。

 人は愚かだ。

 だが、そんな人間達を両親は助けようとした。

 俺の父親は勇者だった。俺の母親はそれを支える仲間だった。





 ______________________






 俺は、勇者の息子だ。

 だが、会ったことはない。もちろん育てられてもいない。物心ついた時には、父親を召喚した国の貴族に預けられた。親父は「異世界人」という、今俺がいるこの世界とは違う文化がある世界から来たらしい。なぜ、それを会ったことがない俺が知っているか。それは、俺が8歳の頃、「勇者」の絵本を読んだからだ。勇者の言い伝えが書いてある絵本にそのように書いてあったからだ。それを読んだ時、自分の父と母が俺を他人に預けたのはしょうがない事なのだと、幼いながらも気づいた。

 そして、俺が12歳の頃、育てられた貴族から、親父が死んだことを聞いた。父親は、とある魔道具マジックアイテムを持ち歩いていたらしく、それを持っている者は王宮にある地図に印が浮かび上がり、どこにいるかが分かるのだそう。しかし、その印が魔王が支配している領地の途中でなくなり、それを危惧した国が、冒険者を募り、捜索隊が出した。そして、10日に及ぶ捜索をし、その消えた地点の付近に勇者一行の装備が無惨に壊されていたのを冒険者たちが見つけた。勇者一行の5人いたうちの2人の遺体が木に括り付けられているのが見つかった。ちなみに両親ではなかったそう。両親ではない、パーティーにいたもう1人が、命からがら国に逃げてきて、

「パーティーは壊滅した。」

 とだけ告げて行方をくらましたのだそう。

 そう、俺は12歳にして、親をなくしたのだった...。

 だけなら、まだ良かったかもしれない。そう、12歳の年は、俺にとって地獄の始まりだった。会った覚えのない両親が死んだのはまだよかった。生きているうちに会えないことが少し残念だっただけだ。だが、俺を育てた貴族は違った。怒り狂っていたのだ。

 その貴族は、俺という勇者の息子を育て、勇者に恩が売りたかっただけだったのだ。そして、勇者の息子だ。魔法や戦闘の英才教育を施せば強くなる。俺自身にも育てた恩を売り、ゆくゆくは、自分の護衛に...とでも考えていたのだろう。しかし、その恩を売りつける相手は既に死んでしまい、勇者の息子の価値も落ちた。勇者の息子と行っても、「普通の人間よりは強い」程度なのだ。その恩を売りつける為に金をかけ、手塩をかけて手入れしてきた道具である俺に対してどうするか。

 答えは簡単だ。俺は、「捨てられた」のだ。普通に考えれば、そのまま育ててもいいはずだ。だがそんなのを考えられないほど貴族は怒っていたのだ。暗い夜の中、鬱蒼として森の中に俺は1人置いていかれた。最初は何が起こったかわからなかった。所詮は12歳。ガキだ。しかし、時間が経つにつれ、気づいた。俺は捨てられた。俺の利用価値がなくなったからだと。

 俺は、死のうかと思った。

 だが、そんな勇気は湧かなかった。

 だから、生きようと思った。特に理由は無い。死ねなかったからだ。不幸中の幸いか、魔法と戦闘の教育は受けていた。そのため魔物達が襲ってこようが多少は撃退できた。食べ物も、食べれそうなものを食べた。火も魔法で起こせるから大丈夫だった。

 何日か森の中で過ごし、俺は知らない街に出た。安心した。ここなら助けてくれる、と思った。だが、それは、甘い考えだった。

 この世界には、黒髪の人間は存在しない。

 しかし、俺は黒髪である。それは、父親が異世界人だからだ。父親は黒髪らしく、その血を俺が受け継いだのだろう。俺にとっては、それだけだった。

 しかし、ここでも人間共は違った。老若男女問わず俺を見た瞬間目の敵にして、石を投げつけてきた。最初は意味が分からなかった。同じ人間に対して、石を投げつけるなど。しかし、段々とその意味を理解していた。

 俺が「勇者の息子」だからだ。しかも魔王に敗れた。出来損ないの勇者によって世界はまた、魔王に怯えるようになった。酷いものだと、勇者の遺体が見つからないのをいいことに、勇者とその仲間が、自分の命惜しさに、世界を捨て、魔王の手下になったのだと言っているやつもいた。だから、俺に対して石を投げつけるのは正当だ。恨むなら、勇者を恨めとでも言っているようだった。そして、俺は連日追いかけ回され、スラム街に入っても、リンチされ、飯は食えず、ゴミ捨て場のゴミを漁って食料を確保していた。だが、そんな生活が長く続くはずもなく...。俺は衰弱しきっているところを奴隷商に見つかり、奴隷にするため連れていかれた。

 俺は目が覚めるとテントに連れていかれていた。周りには檻に入った人間、獣人、魔物などがいた。すると、目の前に複数の男が現れた。

「ふっ、これは上玉だな...。」

「えぇ、勇者の息子がこの街に来たという噂は本当の用ですね。」

「それでは、早速、奴隷紋を入れよう。抵抗されても嫌だから、眠らせてあげて。」

「はっ。」

 何か、声がしたあと俺は意識を失った。





 ______________________





 気がつくと、街の外にいた。

 最後の記憶は、男たちが困っていた様子だ。

「ん?な…だ…いつ!?奴隷…が効…ないだ…?」

「…だ?おい!鑑…できる魔道具マジックアイテム持ってこい!」

「持ってきました!」

「こいつ...とても…大な……がかけられている。こんなの見た事ねぇ...。おい!こんなや…つとっとの捨てるぞ!なん……用価…もねぇ!」

 記憶が曖昧で、会話も途切れ途切れだ。しかし、何故かわからないが俺はあんな場所から抜けれたのだ。ラッキーだった。安心していると、足音が聞こえてきた...。

「おい!あいつだ!」

「あいつが勇者の息子だ!」

「国が捕らえたやつには、賞金を出すとの事だ!」

「俺がやつを捕まえる!邪魔をするな!!」

 などの罵声が同時に聞こえてきた。

 俺はその会話を聞き、絶望した。そして、逃げ出していた。

 逃げながら考えていた。俺はこの世界にはいてはいけない存在なのか?父親と同じ異世界に行ったなら歓迎されるのだろうか。そんな考えが脳をぐるぐる回った。

 すると、俺のふくらはぎに矢が刺さった。

「くっ...。」

 思わず、立ち止まり、振り返ると、

「よっしゃぁ!当たったぜ!賞金は俺のもんだぁ!」

 こう言いながら、20代ぐらいの男がニヤニヤしながら迫ってきていた。

 その時、俺は悟った。

 俺の両親がしたことは間違っていた。

 こんな事を平然と行う、人間を、国を、世界を救おうとしたのだ。これならまだ、魔王達に滅ぼされた方がよっぽど良かったのだ。両親は死に損をしたのだ。死んでなお、蔑まれ、1人残した子供は国中追いかけられる始末。

 そんな事を考えている間にも、男は距離を詰めてくる。しかも、笑顔で。あれは果たして人間なのか?少なくとも俺が知っている人間ではない。あれこそが諸悪の根源たる魔王では無いのか?

「追いついたぞぉぉお!俺の金づるちゃぁん!大人しくしとけよ。ハーッハッハ!」

 男が剣を取り出した。

「逃げられないように足、切っとかねえとな。」

 剣を振りあげようとした瞬間。俺の頭の中に声が響く。

『自身に対する邪悪を感知しました。呪いによるスキル「正義執行」を獲得。それにより、対象を自動攻撃します。』

 な、なんだこ、これは...?スキル?

『正義執行。』

 頭の中でそう響いたと同時に、目の前で剣を振りあげていた男が視界から消えていた。どこに行ったかはわからない。だが、俺が助かった事だけはわかった。今のは...一体?考える間もなく、更に追手が来ていた。俺は何が起きたか理解する前に走り出した...。













 異世界から召喚された勇者には、とある呪いがかけられていた。

 それは、『絶対正義』という名の呪いだ。そして、その呪いにはいくつか効果があり、それがかけられた勇者は、良くも悪くも呪いに操られる事となる。しかも、その呪いは、遺伝性で、勇者の息子である、「ヨータ」にも引き継がれる事となる。幸い、ヨータは生まれつき、呪いに対する強い耐性を持っていた。だが、それでも全ての呪いを防ぐことは出来なかった。

 その引き継がれた呪いから顕現した、『正義執行』がヨータの人生を、世界の運命を変えるのを知るものは誰一人いない...。



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