第4話
その後、僕はナビ―ユの家に招待されることになった。
そう、彼女が言っていた下水道の中だ。
嫌なイメージが払しょくできないまま、暗い道を進んでいく。
周りを照らすのは彼女が手に持ったランタンだけだ。
スニーカーの音がいやに反響する。
「なあ、ほんとにこんなところに住んでるのかぁ?」
「ええ。ここが一番上層に近くて異邦人に見つかりにくい場所なの」
彼女曰く、この街には盗賊が何人もいるらしい。
そして、組織を組んでい活動している。
組織は
ここは盗賊にとっての住宅街なのだ。
広さとしては問題なさそうで、この下水道が無駄に広い。
高さは5メートルはあるだろうし、幅もそれくらいある。
だが、正直寒いし不衛生だし、人が住んでいるようには見えない。
彼らにとって、人がいなさそうに見えるところが良い住処の条件なのかもしれないが。
「これは、鉄格子?」
「ええ。街ができた当時に侵入者対策として作られたの。まあ、今じゃ錆びて壊れちゃってるけどね」
この先へ進ませんとするために鉄格子がある。
しかし、彼女の言う通りボロボロで人が楽に通れる隙間ができているから役割を果たせていない。
長い間点検もされず放置されてきたのだろう。
「ここから先は私の所属するチームの住処よ。アンタはまだよそ者だから、失礼のないようにね」
「わかった」
いくら年が離れていても、この世界では彼女の方が僕よりずっと知識人だ。
従うほうが身のためだ。
それに、自身を盗賊と名乗るような輩だ、殺されたって文句言えないぞぉ。
「そういえば、アンタ名前は?」
「名前?
「そう。私たちのチーム――
その時、心の中で扉が大きく開かれるような、そんな音がした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「すごい……」
ナビ―ユについて行くこと数十分、僕は驚きの光景を目にした。
下水道の中に家がランプで照らされながら建ち並んでいるのだ。
木のそろいが悪く光が漏れていたり、壁と屋根で素材が全く異なることから手作りであるのがわかる。
でも、こんな人の営みが下水道の中にできているなんて、誰が想像できるだろうか。
「さ、私の家に向かうわよ」
「どこにあるんだ?」
「そんなに遠くないわ。広くないけど我慢してね」
彼女の家に向かう途中、知り合いが多いのかナビ―ユは話しかけられていた。
あいさつ程度だったが、その時に僕の存在には触れられなかった。
というよりも、気づいていないような感じだ。
慣れているが、僕の影の薄さはここでも健在らしい。
「アンタ、よそ者なのに誰からも睨まれないわね」
「まあ、うん。慣れてるから……」
「でもわかるわ、アンタが認識しにくいっての。雰囲気が暗いっていうか、見えにくいというか」
「酷くないか、それ」
「事実でしょ。さて、ここがアタシの家よ」
「おお、これは……見事だな」
彼女が家だと言うものは四角く小さな窓がついているだけで、コンテナというか、それに近しいものだ。
豆腐建築がここに実在していたとは。
とりあえず当たり障りのない感想を述べた。
「手伝ってもらいながら作ったの。なかなかなもんでしょ?」
「手作りかぁ、僕にできそうにないや」
「さあ、入って」
「お邪魔します」
彼女は玄関を開けると土足のまま部屋に入って行った。
僕も彼女のスタイルに従い土足のまま上がる。
家の中はワンルームで構成されていた。
天井からぶら下げた布で仕切りを作っていて、彼女が言うに寝室・台所・読書場に分かれている。
家のサイズが小さいため、どこも窮屈だ。
それに、散らかっている。
灯りはランプだけで、いつ消えてもおかしくないだろう。
「なんか、すごいな」
「なに? 文句でもあんの?」
「いや、別に……お風呂とかどうしてんの?」
「お風呂ってあの熱い水に入るやつ? あんなの何がいいのよ、水浴びで十分じゃない」
「そ、そういうもんなんだ……」
これが異文化というやつなんだろうか。
いくら僕と同じ世界の人間が作った国とはいえ、ナビ―ユたちは獣人。
彼らのスタイルがあるのは当たり前の事か。
冬場とか寒くないんだろうか。
彼女は見るからに古くてボロボロになったソファに腰かける。
「じゃあ、今後の予定を話しましょうか。まず、アンタをうちの組織に入れるわ」
「組織って、アムストガルドだっけ。どんなところなんだ?」
「そうね、簡単に言うと盗賊にならざるをえなかった獣人が中心の組織よ」
「ならざるをえなかった?」
「そう。この街じゃあ、獣人では
「えっ、お金じゃないか? お金があればご飯も家も手に入る」
「アンタ、私が誰か忘れた? 私たちはご飯買う金すらなかなかもらえないのよ。奴隷から解放されたからって、すぐ平等ってわけじゃないんだから。生きるのに一番必要なのは食べ物よ、あと水」
「まあ、その二つがあれば数日くらいはなんとかなりそうだな」
「本来なら金を支払って手に入れるもの。でも、私たちにそんな金はない。なら、どうする?」
「……盗む、のか」
「そう。生きるために盗む。盗みを生存活動の一環としているのがアムストガルドよ」
生きるために盗む。
そうしないと生きていけない。
今までなら遠い話だったが、こうして目の前で見てしまうと目を離すことなんてできやしない。
「明日は組織の頭、リーダーって言った方がわかるかしら? その人にあいさつしにいくわよ」
「なるほど、リーダーに……へっ?」
翌日、彼女の言葉通りリーダーのもとへ連れていかれるのだった。
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