第3話
もともと、この世界には人間はいなかった。
だが、数十年前に
そこから少しずつ増えていき、村ができた。
村はやがて大きくなり、街となる。
そうして拡大していくが、国を作る前に一つの壁が立ちはだかる。
人手不足だ。
そこで、彼らはこの世界の原住民であり近くに住み着くエルフや獣人を労働力にできないか考えた。
エルフや獣人は文明の進みが遅かったらしく、異邦人に知識で大きく劣っていた。
そうして少しずつ力をつけた異邦人は火薬や蒸気機関を開発、確実に文明の差ができたところで武力で従えることに成功した。
こうして出来上がったのが異邦人の国カルッゾである。
数年前に奴隷解放運動により開放されたが、未だに格差があってカルッゾの上層にはエルフや獣人は住めていない。
いても奴隷商人として功績を為した裏切り者だけだった。
今でも奴隷としての鎖は消えていない。
差別として形を変えて縛っているのだから。
そんな話をナビ―ユから聞かされた。
信じられないような話だが、嘘をついているようにも見えなかった。
「……それって本当なのか?」
「ええ。普通なら居住権すら認められなかったかもしれないわ」
「でも、誰が解放運動なんてしたんだ?」
「……異邦人よ。異邦人同士で言い争ってたのよ、奴隷から解放するかしないかを……最悪よ。恨みきれないんだから」
僕のいた世界でも似たようなことがあったし、差別とかは他の世界とかでも起こるのかもしれない。
でも、よりにもよって同じ人間がまた繰り返してる。
それだけで僕は苦しくなった。
僕が直接やったわけじゃない。
でも、加害者の立場にいるからだ。
「ごめん」
「……謝んないでよ。そういうわけじゃないんだから。アンタは上層に戻って役所に行きなさい。そうすれば、いろいろ助けてくれるはずだから」
彼女はそう言って去ってしまった。
僕はどうすべきなんだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
とりあえず、彼女の言っていた役所の前までやってきた。
でも、中に入ろうという気にはならなかった。
本当にこのままでいいのか。
わからない、どうすることが正解なんだ。
僕は異邦人、役所に行けば
僕が得られなかった、それなりの生活が手に入るんだ。
でも、あんな話聞かされたんじゃ素直に行けやしない。
なにより、きっとチラつくんだ。
普通の生活をしているときに、ナビ―ユや教会の子どもたちの顔がふとした瞬間に。
平気な顔して生きられるわけがない。
そんなの耐えられるほど、僕はなにかに無関心でいられる男じゃないんだ。
それに、それじゃあ何者にもなれないんだ。
与えられるばかりの生活じゃあだめなんだ。
僕は誰かにとっての何かでいたい。
だったら、答えは一つだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ナビ―ユ!」
僕は下層に戻り、先ほどまで歩いた道を走りながら彼女の名前を呼ぶ。
ただひたすらに。
「ナビ―ユ! ナビ―ユ!」
「うるさい」
「ッ!」
彼女の声が聞こえ、振り返る。
そこにはたしかにナビ―ユがいた。
「アンタ、役所に行ったんじゃ――」
「ナビ―ユ!」
「ちょっ! 掴むなぁ!」
「お願いだ、僕を……僕を盗賊にしてくれ!」
「……はぁ!?」
彼女の目が大きく見開かれる。
無理もない、あまりにも突拍子がないのだから。
「アンタなに言って――」
「僕は臆病で、特別才能があるわけじゃないし、物を盗んだりしたことがない。それに、影も薄い。それでも、僕は何かになりたいんだ! すごく強かったり、かっこよかったり、そういうのじゃなくていい。もう何者でもない自分に戻りたくないんだ!」
「……何者でもない自分、か」
「そう。僕は前の世界で生きる意味を持てなかった、からっぽの人間だ。でも、変わりたい。僕のわがままだけど、君の手伝いをさせてくれ!」
彼女の表情は重苦しいものとなる。
僕のエゴの手伝いをさせてくれ、と言ってるようなものだ。
普通なら気持ち悪がられるし、断られる。
「……はあ、いいわよ。人数は多い方がいいだろうし」
答えは、僕のほしかったものだった。
僕の中で静かに歩みが進む音が聞こえた。
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