男子クラスは今日も平和です

人新

第1話 三年に一度の男子クラスです

 ―――男子クラス。

 もしかすると、あまり聞いたことがないかもしれない。


 なにせ、男子クラスだ。男子のみのクラスというのは中々にない。


 ……いや、それは誤謬か。


 男子のみのクラスはある。例えば、男子校は男子クラスになるのは必然。

 また、女子のみのクラスと言えば、女子高だと必然的だ。


 しかし、違う。我々は違うのだ。


 我々は共学でありながら。

 男子クラスでなのである。


 男子5割、女子5割の共学でありながら。

 男子クラスなのである。


 隣のクラスからは黄色声が聞こえども。

 男子クラスなのである。


 なぜ、このような事態が行ったのか?


 理由は別に複雑ではなく、至極に単純。


 単に、俺たちは二年進学時に理系選択で物理コースを選んだだけだ。


 たったそれだけ。


 別に、女子にエッチなことでもして、折檻されわけでもなく、

 女子アレルギーの人のみで構成されてしまったわけじゃない。


 単純、四つあるコースのうちに、物理コースを選んだ。

 それだけだ。


 ただ、これだけではまだ男子クラスになる余事はない。


 さらに、加えて我々が男子クラスになったのは……。

 ちょっとした、物理学ブームがあったせいだ。


 まぁ、漫画とかドラマとか。

 それに影響を受けて、黒板に数式だの数列だのを打ち込むのがかっこいいとかいう、そんな謎ブームが蔓延したのだ。


 しかし、そんなブームの最中。


 当然、女子というのは「男子ってば子供ぉーー」みたいな冷ややか視線でかつ客観的に物事を見据える傾向にあるので、別に彼女らはブームになんか乗らなかった。

 しっかりと、自身の得意不得意を見つめ、将来とつながるように、進路選択を行ったのだ。


 つまり、このブームは男子のみの宴であり、女子はその宴を見て、「あぁなってはいけない。感情で将来を左右しちゃいけないんだ」などと自己と向き合うきっかけを作ったのみだ。


 ―――そして、進路希望調査後。


 とある事実と前代未聞が発覚した。


 それは物理コースの構成比である。


 なんと、男子が80人に対し、女子は6人。


  ―――40対3である。


 これは類い稀なき自体であった。


 毎年、例年だと物理クラスというのは一クラスで構成されており、

 内訳は男子28人に女子が平均5人ほどだったのだ。


 それがその年は大化けを起こしてしまい、クラスは二つ出来上がった。


 ―――これが大問題だった。


 二つのクラス。

 女子は当然、全人数を一クラスに固める。


 ……ということは。


 男子クラスが出来上がってしまうのだ。


 そう、前例を見ない、男子クラスが出来上がってしまうのだ!


 男たちはクラス発表の日まで、祈った。


 どうかどうかと。


 理由なんかありません。

 ですが、どうかどうかと。


 祈った。

 とにかく、祈った。

 大半の人間は祈ったのだ。


 もう、そこには進路選択の根源たる。フィクションの憧れというのは排除されていた。

 あれは一時の淡い夢なのだ。

 泡沫の幻であったのだ。


 もう、我々のほとんどは夢から覚めていたのだ。


 そして、四月の初め。

 入学式を終えて、二度目の登校をし、胸を躍らせる一年生。

 新しいクラスに馴染めるか、また近い先の受験にもふわりと不安を抱く、淡き二年生と三年生。


 その中で、険しい顔をして歩を進める我々。


 目指すべき場所は一つの掲示板。

 見たいのはそこに張り出された薄く、真っ白な薄紙。

 

 それを見ては聞こえてくるのは甘い声。驚愕の声。悔しさの声。


 同じクラスに慣れた友。なれなかった友。

 好きな人と同じクラスになれた青春ボーイと青春ガール。

 嫌な奴となってしまった不運な少年少女。


 そこには喜怒哀楽が蔓延った。


 その中で、当時を振り返り、とある部活の部長『世良華絵』は語る。


「あの日。私たちは掲示板を見ては大いに喜んだり、笑ったりしました。だって、クラス替えは一年に一度の大イベントで、これが最後でしたから。ほら、うちの高校では二年生から三年生はクラスが持ち上がりですからね。だから、これを騒がすにはいられない。それはみんなも同じでした。

 ―――けど、ふと気づいたんです。この掲示板を見ている人の中に違う空気を、信念を持った人たちがいると。

 その時は気づけませんでした。でも、今になれば、よくよくわかりますね。

 彼らは、ひたすら天命と戦ってたんです。」


 また、陸上部の小さきエース『箕面恵梨香』も当時を回想する。


「えっと、あの日。別に、私は仲のいい友達もいなかったんで、淡々と掲示板見ては、クラスだけを確認して、その場を去ろうとしたんです。あの、私騒がしい場所は嫌いでして。

 それで、立ち去ろうと、階段に足を掛けたら、そこらには無残に意気消沈した男子たちがいて。私は何事かなって思ったんです。

 そこには静かに声を押し殺しながら泣く者がいて。

 彼らは皆にして、口を揃えてこう言ってたんです。

『神に裏切られた』と。

 当初は何を言ってんだ、この人たち。って思ってましたけど、今ならまぁ、なんとなく理由は分かりますよ」




 ―――こうして、四月。我々は運命のルーレットを行った。

 そこには天国と地獄が。

 ボールは狙った場所を徘徊し、プレイヤーの心を燻ぶった。

 その時の男子たちは皆して、『我々は悪魔に成りすます天使たちを見た』と言う。


 そして、結果としてはベルリンの壁の如く。

 我々は分けられてしまった。

 隔たるのは薄いコンクリートの壁。その向こう越しから聞こえてくるのは青春色の甘い声と喜々たる叫び声。


 廊下を歩くたびに、あれが噂の男子クラスと野次され、教室からは雄の匂いが充満していて、その匂いを匂うだけで孕むと噂される。


 我々は敗北者となった。

 当時の憧れは粉砕され、些細な希望すらも消滅した。


 それでも、それでもなお、上手くやるしかないのだ。

 上手くやって、上手くやって、難しい世界を生き延びなければならないのだ。

 我々は生きなければならない。


 ―――だから、今日も。我々は男子クラスで。この世界で生きていく。


 『男子クラスにて』 著者:曾山太一。



 ―――などと一人の男によって書かれているが。

 これ、過剰に過ぎるぞ……。

 我々って書いてあるけど、こんな風には思ってないからね、僕らは……。

 まぁ、イベントごとはクラス移動だから疎外感否めないのは仕方ないけど、部活に入ってる奴はそこで青春しているし、女子友達を持ってる奴は楽しくやってる。

 女子が苦手な男子は男子で固まって面白おかしく過ごしているし、時折にはとんだ青春イベントがあったって言っている奴も多い。

 だからね、別に男子クラスだからと言って、絶望の世界というわけでもない。

 ただ、単純に男子クラスってだけ。


 つまり、この物語は孤島の島で我々は鎖国しつつ、生きる! 

 とか、そんな大層で閉鎖的じゃなくて。

 男子クラスの一員たちが少し違う属性をもって、青春していく物語だ。

 ほんとそれだけ。

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