第24話 魔王城
遙か遠く――
どこよりも深い闇に包まれた大陸の中心に
そびえ立つ巨城がひとつ。
何世紀にも渡り、
この世界を我が物にせんと侵攻を繰り返した
魔王ヴィルゴールの城である。
「退屈だ。
実に退屈だ」
王の間の玉座に腰掛ける魔王は手を頬につけて呟く。
「我はこの世界を強く欲している。
故にこれまで何度も侵攻を繰り返した。
人間どもに敗れ、
何度も魔界へ逃げ帰るという屈辱を味わってなお、
我は今もここにいる」
昔を懐かしむように目を細める魔王。
「新たに城を建てたこの地は
魔界の瘴気とも馴染みやすい
素晴らしい場所だ。
だからこそ、ここでギリギリまで力を蓄え、
いずれ来るであろう勇者を迎え撃つ。
それが今回の我が策だ」
勇者マルクに敗れて100年間、
世界は平和を保っていると思われている。
が、実際はその半分、
50年後には既にこの世界に再臨し、
誰にも気付かれることなく新たな城を築き、
残りの50年をただ力を蓄えることだけに費やしていた。
「だが、待ち続けるだけというのも
ただただ退屈だ。
何十年もこうしてじっとしているだけでは
体が鈍ってしまう」
50年の時を経て、既にマルクと戦ったときの
8割ほどの力を取り戻している。
だが何度も勇者に敗北している彼は、
たとえ力が10割戻ったとしても足りないと感じていた。
「一つ、貴様と手合わせするというのも
一興かもしれぬ。
なあ、ザーヴィンよ」
魔王の隣で剣を携える
全身漆黒の鎧を纏った剣士、ザーヴィン。
魔王のその言葉に、無言に徹していた彼が口を開く。
「お戯れを。
魔王の剣たるこの私が、魔王に刃を向けるなど
おこがましいにもほどがあります」
甲冑で表情の見えないザーヴィンの返事に
魔王は少しがっかりした表情を見せる。
「我は本気だったのだがな。
貴様と戦っていれば、
少しはこの退屈も紛れると思ったのだからな」
魔王は天井を見上げる。
立派な城にふさわしい豪華なシャンデリアが飾られている。
いずれ戦場になる大広間に、本来派手な装飾など必要ない。
形から入りたがる魔王の、ささやかな遊び心なのだそうだ。
「そんなに退屈ナラー?
チョットいい話聞いてかナーイ、
魔王サマー?」
突然女の声が響く。
玉座正面の空間がぐにゃりと歪む。
そこから現れたのは、赤いマントに露出高めの格好をした女性だった。
胸から腹部にかけて、怪しい紋様が刻まれている。
「――呪怨師ピケラ」
ザーヴィンが女の名前を呼ぶ。
「いい話か、聞こうではないか」
気配もなく現れたピケラにも眉一つ動かさず、
魔王は耳を傾ける。
「ガルラン山脈あるデショー、
あそこを勇者っぽい子が通ったっテー、
近くの魔物達から聞いたんダー」
「何、勇者が!?」
声をあげたのはザーヴィンだった。
魔王は黙ってピケラの言葉を聞いている。
「まだここからずっと離れてるケド、
いずれはこの城まで辿り着いちゃうカモネー。
どうする?放っとく?
「我々の侵攻を阻む可能性があるのなら、
速やかに摘み取るべきです。
命令さえして頂ければ私が――」
ピケラの報告を聞いたザーヴィンが、
先手を打って襲撃するべきと進言する。
しかし、
「ピケラ、その勇者の強さ。
見極めてくるのだ」
指名されたのはピケラだった。
「ワタシが行くのぉ?
今はあんまり戦いたいって気分じゃないシ、
真っ向勝負なんて苦手なのにぃ」
「だが分析は貴様の方が得意であろう。
それを見込んでのことだ。
やってくれるな?」
魔王からの思わぬ評価に、ピケラは照れくさそうに笑い、
「ヘーェ、ワタシのことそんな風に思っててくれたんダ?
そんなこと言われるのは悪い気はしないシ、
ちょーっとだけ頑張ってみよっかネー」
そう言うと、ピケラは背後に生み出した歪みの中に消えていった。
「よろしかったのですか?
あの女に任せて」
ピケラの気配が完全に消え去ったのを確認し、ザーヴィンが問う。
「我が選んだことだ。
二度も同じことを言わせるな」
「……失礼しました」
「さて、此度の勇者はどれほどのものか……楽しみだ」
魔王は不気味な笑みを浮かべた。
面倒くさがりな少年が勇者に選ばれてしまった話 善 椎太 @xes4-84g
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