第3話 シンデレラ曰く「シンデレラ硝子製の武器は金剛石をも両断する」
毒りんごの呪いから白雪姫を
荒れ果て廃墟と化していた古城……いや、廃城の門をくぐり城内へ。
そして、出立前には雑草が好き勝手に生えていた筈の地面を踏むなり、
「シンデレラ! シンデレラ!」
共に住まう仲間の名を呼んだ。
すると、
――ガタッガタッ!
と……あらゆるものに体をぶつけ、転がる音がする。
アリスと赤ずきんが『またか』なんて呆れる中、
「は、はい! ここに、おかあさま!」
記憶が混濁した――つまりは、アリスと赤ずきんを意地悪な継母と義理の姉だと思い込むシンデレラが現れた。
彼女は甲斐甲斐しくお辞儀をしてみせる。
「ですから、私達は貴方の母でも姉でもないと何度言えば……」
「えっ? あ、あの……」
(言っても無駄か……)
「はぁ……」とアリスは深い溜息をこぼすものの、
「まあ、いいでしょう。それより、白雪!」
と、素早く話題を切り替えた。
「は、はいいぃっ!」
名前を呼ばれた白雪がびくりと肩を震わせアリスの隣へ並ぶ。
直後、アリスはシンデレラと白雪……両者になんの配慮もなく他己紹介を始めた。
「白雪、こちらが道中話したシンデレラ。記憶が混濁していますが、私達と同じく童話を出典とする、この世界に飛ばされてきた転生者です。シンデレラ、こちらは白雪姫。あなたも名前くらいは知っているでしょう?」
互いにおずおずとお辞儀し合う二人。
その姿に満足したのか、アリスは「ならば結構!」と唐突に二人の挨拶を遮った。
「えっ? もう?」
当然、白雪の言葉に耳は貸さない。
間髪入れずアリスはシンデレラに向き直り「ところで」と話しを進めた。
「シンデレラ? 私達が留守の間、しっかり励んでいましたか?」
ぱっとシンデレラの顔が明るくなる。
「もちろんです、おかあさま! これこの通り、廃城のお掃除はつつがなく――」
「そうではなくっ!」
アリスは掃除の報告をはじめようとしたシンデレラをぴしゃりと叱った。
シンデレラは「きゃっ」と悲鳴をあげ、小鳥のように震え出す。
だが、
「あなたに任せて出た筈ですわよ? 私の得物を」
アリスがシンデレラの足元に腰へ携えていた剣を放り投げ、
「やはり、
彼女に刺すような目線を送ると、
「私、二度とこのような武器を使う気はなくってよ?」
震えていた筈のシンデレラは突然――にたりと笑った。
まるで、その言葉を待っていたと言うように。
「無論でございます、おかあさま。灰かぶりは常におかあさまの満足のいく仕事をご覧に入れますもの」
◆
シンデレラの後に続き、アリス達は地下へと移る。
そこには廃城に元からあった設備である、小さな工房があった。
当然――、
「それでは、こちらをご覧ください」
――今は、
シンデレラは布が紐で結ばれた棒状の何かをアリスへと差し出す。
細い紐をほどくと、一本の美しい硝子で出来た刀が現れた。
「私が考案したシンデレラ硝子より精製した、おかあさまにお贈りできる二振り目――名を『雪華』といたしました」
シンデレラはうっとりするような目付きで精製した刀を眺めながら、嬉々として説明しだす。
「今回は日本の大太刀にヒントを得まして、片刃になっております。刀身は1110ミリ。峰は擦り硝子――そして、今回は百合の模様をあしらいました。ほんの遊び心にございます。無論、切れ味は言うまでもありません。竜の骨など問題にもならないでしょう。また、斬ることだけでなく、こちらは突くことにも優れておりまして、この長いリーチを生かし槍のように扱うことも可能です。ただ……以前よりも0.4キロ程重量が増しているのですが……まあ、おかあさまなら問題ないでしょう?」
問題か否かなど、確認するまでもない。
アリスは渡された硝子大太刀を軽く振ってみせ、空気を裂く。
地下に入り込む僅かな光を反射する透明なガラスの刃は、まさしく彼女が求めた力だった。
「
唐突に、アリスは刀の切っ先を白雪へ向ける。
「ひっ――な、なんですかっ」
「他意はありません。ありませんが……シンデレラ。次はあちらのお姫様に武器を作ってあげなさい」
「えっ? えええぇっ!? な、なんでわたしに武器なんか!?」
「は? 当然でしょう? あなたは
「そ、そんなああぁっ……」
驚きの悲鳴をあげる白雪を他所に、
「かしこまりました。おかあさま」
シンデレラは甲斐甲斐しくアリスへと頭を下げた。
異世界転書『アリスフレンズ』~今日もアリスは煙草をふかすし、龍を斬る~ 奈名瀬 @nanase-tomoya
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