シナモン

古川砅

シナモン

 就寝用のホットミルクを温めていたら「カフェオレやミルクココアは牛乳の臭みを強い風味で打ち消しつつ風味料(?)の苦みや渋みを牛乳の旨味で相殺することでスーパーデリシャスドリンクとして成立している」という天啓が突然降りたのでじゃあシナモンミルクとかもスーパーデリシャスドリンクなんでは!? と試してみたらやっぱりスーパーデリシャスドリンクであることが確認され、自分の天才性に打ち震えた。「こんなスーパーデリシャスドリンク私以外に思いつかないんでは!?」そう思った私は検索窓にスッスと「シナモン ミルク」の2語を打ち込みターップとググる。400万件ヒットした。Wikipediaによるとシナモンは人類史上最古のスパイスだとかで、そうなると古代エジプトの王様あたりがピラミッドを横目にシナモンミルクを飲んでいたなんていう歴史も十分あり得るわけだから、私はざっくり4000年くらい時代遅れだったらしい。なんという落差。まあ私が天才だろうと凡才だろうとそれでこのシナモンミルクのスーパーデリシャス性が損なわれることは特にないから、それはそれで良しとしよう。

「そういえばシナモンの匂いって雑貨屋さんっぽいなーと思うんだけど、ポチ何か知ってる?」

『本機は嗅覚センサを搭載しておりませんので、実データに基づく返答は致しかねます。なお Wikipedia によるとシナモンとは』

「あー、それはもういいよ。知ってるから」

『かしこまりました』

 言いながら、ポチはウィーンと机の脚を縫う。ポチはこの前拾った掃除機だ。最近は掃除機の不法投棄が増えていて、なぜ増えているかと言うと掃除機に必要なのはあくまで自動性であって自律性だとか知性だとかは全く不要であることに誰もが気づき始めたからだと思うのだけど、ともかく近所をうろつかれるよりは部屋の埃を吸わせるほうが建設的だろうと連れてきた。

「じゃあそのセンサとか付けたら何か分かる?」

『解像度に依存しますが何らかの返答は致せると推定します』

 ポチの返答はそつがない。ポチは知性のある掃除機だけれど結局のところは掃除機で、そういうものに話しかけることは本質的にスマホの音声検索や人形ごっこと変わらないことのような気もする。一方でポチと私との違いは何かと考えると、材料と形状と感覚器の数と計算の速さと性格と、あれ。結構多いね。「人も掃除機も大体一緒」みたいな結論を出すつもりだったのだけど。まあみんな違って色々だ。

「じゃあ明日の朝センサ買ってくるよ。で、センサ付けたら昼から雑貨屋」

 私の言葉にポチが停止する。一瞬後、返答があった。

『SNSによると雑貨屋には掃除機の持ち込みが許可されない事例が多いようです。何か対処法をお持ちでしょうか』

「抱えるよ。それならポチは手荷物でしょう」

『強引な理屈であると推定しますが、非常に好ましい方法であると判断できます』

「うん。楽しみだね」

 私はポチの頭(?)を撫でた。

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シナモン 古川砅 @wataru_hurukawa

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