幸せの花

古博かん

幸せの花

 ある日、人々が「幸せの花」というものを手に入れました。

 その花が咲き続ける限り、人々は幸せを得られるというのです。喜び勇んだ人々は、各々おのおの、幸せの花を持ち帰り、銘々めいめい、幸せを得ることにしました。


 ある日、ある人は、一生懸命、幸せの花を咲かせ続ける方法を考えていました。

 考えて、考えて、考えて、考えて、考えることに一生懸命になっている間に、花はしおれて枯れてしまいました。

 その人は、人々に「わたしは不幸になってしまった」と告げたそうです。


 ある日、ある人は、一生懸命、幸せの花を咲かせ続ける方法を調べていました。

 調べて、調べて、調べて、調べて、調べ尽くして消毒用エタノールと精製グリセリン水を使って、花を加工してみました。いわゆる、です。

 これで半永久的に、花が咲き続けると喜んだのも束の間、その人は、人々に「わたしは不幸になってしまった」と告げたそうです。


 ある日、ある人は、幸せの花が枯れる日が来ることを恐れて、悲観に暮れていました。

 悲しくて、悲しくて、恐ろしくて、恐ろしくて、悲観に暮れるあまり、花を締め切った部屋に隠したまま、でることはありませんでした。

 その人は、人々に「わたしは不幸だ」と告げたそうです。


 ある日、ある人は、持ち帰った幸せの花を、今日も愛でていました。

 初めは一輪だった花は、日に日に小さなつぼみをつけて、つけて、つけて、膨らんで、膨らんで、鉢いっぱいに咲き誇ります。

 その人は、「なんて幸せなんだろう」と言いました。

 その人は、そのまま花を愛で続けました。

 幸せの花は、咲いて、咲いて、どんどん咲いて、ついにたわわの実をつけて、そっと枯れていきました。

 その人は、人々に「幸せの花はどこだ」と尋ね歩きました。昨日まで愛でていた鉢を捨て、新しい幸せの花を捜し求めます。

 その人は、人々に「わたしはこのままでは不幸のままだ」と告げたそうです。


 ある日、ある人も、持ち帰った幸せの花を、今日も大事に愛でていました。

 初めは一輪だった花は、日に日に小さなつぼみをつけて、つけて、つけて、膨らんで、膨らんで、鉢いっぱいに咲き誇ります。

 その人も、「なんて幸せなんだろう」と言いながら微笑ほほえみました。

 その人も、そのまま花を愛で続けます。

 幸せの花は、咲いて、咲いて、どんどん咲いて、ついにたわわの実をつけて、そっと枯れていきました。

 その人は、「こんな悲しいことがあるだろうか」と泣きました。

 辛かったけれど、悲しかったけれど、恐ろしかったけれど、その人は、そっと枯れてしまった花の残した、たわわの実を、悲しみながら愛で続けました。

 土を替え、水を与え、陽に当てて、枯れてしまった幸せの花を想いながら、毎日愛で続けても、鉢には何も起こりません。


 その人は、それでも殺風景な鉢植えを愛で続けました。ずっと信じていたのです。

 きっと咲く、きっと咲く、きっと咲く、きっと咲く、そして次の年、幸せの花は、また初めの一輪をつけました。

 その人は、また「ああ、なんて幸せなんだろう」と言いながら、一年越しに微笑むのです。


 はてさて、いったい誰が言い出したのでしょう。「幸せの花」は、何も特別なものではなく、どこにでも咲いている、ごくありふれた花なのです。

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