「異世界の、異世界、ですか?」

 サザン鉱。鉱物資源が豊富な岩山。そのふもと

「はわわ!?誰ですかあなた達!?」

「落ち着いて!話を聞いてー!」

 一人の少女が、四人に追われていた。


「[バインド]、やっと止まってくれましたダ。」

「放してください!私なにも悪いことしてないじゃん!」

 ブレインの手から射出された縄が少女を捕らえる。身に覚えのない少女は暴れる。

「突然で悪いけど、あんた、悩みない?」

「あなたが主犯ね!警察に通報しますよ!」

 優しく語りかけるエイプリルを睨み付ける少女。

「そうじゃなくて……、警察?」

「え?……違った!防人に通報しますよ!」

 聞いたことの無い言葉にエイプリルが首を傾げると、少女が慌てて言い直した。

「とにかく!放してください!」

 絡まった縄をほどこうと、少女がもがく。そこへ、後続のアサクラが到着した。

「……ガール、今なんて?」

「放してって言ったの!」

「そのビフォーのビフォーだよ!」

 少女の目前に迫るアサクラに、少女は後退りしようとする。

「え……?警察に通報……ですけど……」

「警察と言ったね!?確かにポリスメンと!」

「やだ……近づかないで!」

 右目の闇を流すアサクラに、震え怯える少女。会話は成り立ちそうにない。

「[ステイ]。落ち着いて下さいダ、キング。」

 見かねたブレインが魔法でアサクラを座らせた。すぐに少女は強気になる。

「なんなんですか!さっきから!私、なにもしてないってば!」

「そうじゃなくて!仕方ない、少々荒っぽくいくわ!スピラ!」

 エイプリルは、暴れる少女を従わせるため、スピラに指示を出した。

「わかったよッ![ライジングドラゴン]!」

 直後、スピラが上に掲げた手から、上空へ稲妻が発生する。その稲妻を見上げて、笑みを浮かべたエイプリルが一言。

「大人しくしないと……、分かるでしょ?」

「はい……(ガクガクブルブル)」



「……さてと。まずは自己紹介ね。左から、思者エイプリル、鉱者ブレイン、鉱者スピラ、魔者アサクラよ」

「はい……。ウルバーン、九歳、思者です……。魔法は使えないから、この縄そろそろ解いて……」

 スピラの力を見て、すっかり縮こまるウルバーン。容姿としては、灰髪灰眼に灰色のワンピースと、味気無い装いだ。

「了解ですダ。ほいですダ。」

「しかし九歳ねぇ……。あんた、あの林にいた子よね?」

「はい……。気付いたら……」

 ぼそぼそと話すウルバーン。エイプリルは頬を掻く。

「ちょっとやり過ぎたかしら……」

「明らかなオーバードだろ……。マジック使えないガールになんてことを」

 アサクラも肩をすくめる。実際、脅しなら魔素を燃やした光でも構わなかっただろう。

「そ・れ・よ・り!アゴウストーリーを聞かせて!」

「そんなこと言われましても、私の話なんて伝わらないと思うけど」

「確かにゼイにはね。でも、魔王ちゃんにはコミニケイド、伝わる。ユーも、魔法知識がないのに魔王ちゃんと会話キャンってことは、『こちら側』か、『こちら側』に触れているってことだ」

 両目を見開いて訴えるアサクラ。ウルバーンは、頷くことしかできない。

「よ、よく分かりませんが、夢の話になるよ?」

「夢ッ!スピラ、夢みないから気になるなッ!」

「あ、そうなの?」

 駆け寄ってきたスピラの言葉に、少し驚くエイプリル。

「はいダ。鉱者は夢を観ませんダ。」

「……あの?話してもいいの?」

「おっと、すみませんダ。どうぞですダ。」

「それじゃあ、話しますよ?」

 悩める少女の、夢の話が始まった。



「私は夢で、〈東京〉という名の世界にいけます。灰色の世界です。」

「「「???」」」

「ほらぁ!信じてもらえないぃ!」

「おまえらぁぁぁ!?」

 いきなり絶叫から始まった語り。

「ご、ごめんなさい!思ったより、よく分からなくて。灰色の世界?」

「まったく、もう少しシンクプリーズ?」

 アサクラが三人を正座させる。

「はぁ、続けますよ。〈東京〉は、この世界よりも狭く、暗い、要塞の中の世界です。この世界よりも便利な魔法が多くて、みんな魔法を使えるみたい。派手じゃないけどね。長方形の板を、術具として使っています。あとは、兵器が日常的に利用されています。全方位装甲のチャリオットみたいなのを、皆が使ってるの。食べ物も怪しいものばっかり。キレイだけど、毒がいっぱい入っているんだって。あとは……」

「ストップストップ!なんかアザンプションと違う!」

 青ざめたアサクラが慌てて止めに入った。ウルバーンは、死んだ魚のような目をアサクラに向ける。

「……え。あなたも信じないのですか。そうですか成る程とんだペテン師なんですねあなたは。ハイハイよく分かりました」

 ブツブツと呪詛を紡ぐウルバーンに対し、真っ先に動いたのはブレインだった。素早く手を翳し、詠唱する。

「[アンダスタンドファン]。ブレインの出番ですダ。」

「グッジョブブレイン!」

 鬱状態を解消し、精神を安定化する。ウルバーンの瞳に、輝きが戻った。

「──はっ!?……すみません!私なんか酷いこと言いましたよね!」

「ノープロブレム!それより、魔王ちゃんの情報も提供しよう。コンペアして、よりアキュレートなインフォメーションにしたい」

「比較して、正確な情報ですか!お願いします!」

 アサクラ語を易々と翻訳し、返答するウルバーン。アサクラも思わずまばたきをした。

「オオウ伝わるのか。ミスだったがセーフだな」

 しかしそれも一瞬。すぐに口を開いた。

「さて、ユーと魔王ちゃんの世界がサム、同一とすると、まずだな?あのワールドは、〈地球〉だ。ちゃんと青いしグリーンもあるぞ」

「???」

「おまえもゼイと同じリアクションしてんじゃねえぇぇぇ!?」

 初手から目を回すウルバーンにアサクラが怒鳴る。

「いいか!?〈東京〉というのは『国』だ!フグサシとか!サザンとか!ヘデラとか!」

「国……!異世界に国の概念があるのですか!盲点だった!」

 アサクラの解説に、大きく頷くウルバーン。合点がいったようだ。しかし、エイプリルが口を挟む。

「ちょっと待って?どうしてアサクラが断言できるの?異世界の話なら、ウルバーンの方が正しいはずじゃない?」

 考え方としては、全面的に正しい発言。しかし、左目のツリ目の笑顔と同じように笑うアサクラが反論、自らの根拠を立証し始める。

「ほほう?サッチアセインク、そんなこと言っちゃうのか?[万智セミアカシ万能ックレコード]!」

 実像がぶれ、0と1の羅列が周囲にばらまかれる。

『エイプリルには言っていなかったねぇ。魔王ちゃん、いや、〈麻桜アサクラ〉ちゃんはねぇ?』

 周辺に火花が散り、風が渦を造る。影は大きく拡がり、黒い半袖セーラー服が、光を反射する。

『──〈異世界転生者〉だ』



『麻桜ちゃんは、どこにでもいる厨二病の中学生だった。だけどある日、麻桜ちゃんは知ってしまった。この世界以外の世界が実在することに。そして、その世界を繋ぐ〈万智セミアカシ万能ックレコード〉の存在に』

 不気味な笑みを浮かべ、淡々と語る麻桜アサクラ

『麻桜ちゃんは、またある日、穴を創った。〈万智セミアカシ万能ックレコード〉を使ってね。そしてこの世界に来た。案外犠牲も多かったかもねぇ』

「……ただ者じゃないとは思っていたけど、ここまでとはね……」

 この世界の人には、到底理解不能な過去を語る麻桜アサクラを前に、スピラとブレインは当然、前に立つエイプリルでさえも震えが止まらない。

「ちょっとサプライズしすぎたかな?ま、ソーユーことで魔王ちゃんが正しい。オーケー?」

「……やっぱり異世界はあったんだ!異世界人様!握手して下さい!」

「あ、そんな感じ?思ったよりキュートな反応だね……」

 王者の風格を消し、〈アサクラ〉に戻ったアサクラに、ウルバーンが駆け寄って手を握ってきた。

「続き!聞きたいです!」

「……〈地球〉のコンテニューからで」

「はい!お願いします!異世界人様!」

 想定外の好意的なウルバーンに、アサクラは動揺する。後ろでは、色々と取り残された三人が、正座を続けていた。

「なんだか、置いてかれてる気がするよッ?」

「……ブレインも同感ですダ。」



「さて、あの世界に魔法はない。替わりにサイエンス、科学がある」

 ほこり被った岩に、指で文字を書くアサクラ。

「科学とはなんですか?異世界人様」

「ちょっと待って!魔王とコールプリーズ!アンファミリア感が凄いんだよ!」

 『異世界人様』との呼び方に、アサクラが違和感を訴える。アサクラからすれば、この世界全員が異世界人なのだから、当然のことだろう。

「魔王様!科学とは!?」

「オーケー説明しよう。科学とは、人工的な雷を使ったテクノロジーだ」

「その話には興味があるわ。人工的な雷って?」

 技術の話に、機巧大国出身のエイプリルが興味を示す。

「フグサシの機巧技術は、張力が主なパワーソースだよね。〈地球〉ではエレクトリックパワー、電力がメインパワーなんだ」

 アサクラが簡単な説明をする。

「雷型魔法の出力は高いけど……あの力を基本にするなんて、相当ヤバい世界ね」

「ソーリーそうゆうことじゃなくてだな!?」

 脅しで放った雷撃を思いだし、眉間に皺を寄せるエイプリル。

「魔王ちゃんもそこまでディチャルドじゃないから説明できん……」

 知識が足りず、弁明出来ないことに、アサクラが頭を抱えた。

「魔王様!要塞国家にも関係あるのでしょうか?」

「ナイス路線チェンジ!それは要塞じゃなくてビル。住居だね。なんであんななのかはドントノウさ。そこまでリレイションはないかな」

 岩に長方形を描くアサクラ。ウルバーンがその絵を見て頷く。

「そうそう、そんな感じ!灰色の塔がいっぱい立ってました。あの世界は、石で出来ているのですか?どこを見ても岩だらけ」

「あれはコンクリートっつって……大体そんなセンセーションだったわ」

 一瞬否定しかけたアサクラだったが、指先の岩の感触に、コンクリートを岩と同義ということにした。

「あと!全員魔法が使えないんですか?文明低過ぎるよね?あの術具はなんなのでしょうか?」

「いやエレクトリックがないこっちの方がシヴィライゼーション遅れていると思うんだが」

 科学が発展していない世界に文明を下に見られ、さすがに反論するアサクラだったが、ブレインとエイプリルに、憐れまれるような目を向けられる。

「キング。原初の力を全て操る程の文明を、どう超えろというのですダ。」

「まったくだわ。魔法に出来ないことはない。この世界より発展した世界があるのなら、見てみたいものね」

 首を振り、口角を挙げるエイプリル。アサクラは大きなタメ息を一つ、話題を戻すことにした。

「ハァ……そーゆーことにしておくよ。で、ウェポンの話だったっけ?あれは〈スマートフォン〉。魔王ちゃんがここにカム時くらいにできた、一言で言うなら〈総合端末〉さ。マジックではないけど、基本なんでも出来る」

「なんでもってッ?つよいのッ?」

 スピラの質問に、さっきの仕返しと言わんばかりに怪しく笑って答える。

「極端に言えば……オールカインド、全人類をエクストラミネーションできるかなぁ?」

「ディストピアぁ……」

 片手で人類殲滅出来るというアサクラの教えに、ウルバーンが嘆く。そして、その言葉にアサクラが同意する。

「事実ファッキンワールドだよ。スーサイドは絶えず、サクセスディフレンスも大きい。魔王ちゃんは、法の概念が一番ヘイトだねぇ」

 右目の闇を広げながら、自嘲気味に笑う。ウルバーンも苦い顔をして頷いた。

「私も何度捕まったことやら……。なんで他の人の家に入っちゃいけないのって感じ」

「いやアダーズの敷地に入るのはアウトに決まってるだろ」

 アサクラがアサクラなりの正論を言うが、ウルバーンは、分かってないなぁと呟いた。

「それがおかしいんだよ。そんなだから、あの世界の人々は感情表現に乏しいんです」

 そう。ここは〈地球〉ではない。〈地球〉の常識は異世界の常識ゆえ、この世界ではなんの意味も持たないのだ。

「所有物なら分かりますが、所有地というのは分かりませんダ。」

「イルカのおねーさんはナワバリっていってたよッ!」

「アイツがスペシャルだったのか……」

 ブブ・ララの理不尽な物言いを思い出し、アサクラは顔をしかめる。

「とっ、とにかく!東京そんなバッドな所じゃないから!ライブ慣れしたらグッドな所だから!」

「「「それはない」」」

「おまえらぁぁぁ!?」

 アサクラは空に絶叫した。

「[万智セミアカシ万能ックレコード]ォ!」



『──であるからに!トーキョーイズフォーエバー!さんはい!』

「トーキョーイズフォーエバーッ!」

「「「とーきょーいずふぉーえばー……」」」

 覚醒状態のアサクラに正座させられ、洗脳を受けるエイプリル、ブレイン、ウルバーンの三人。スピラはアサクラ側についた為無事だ。

『エディケイションコンプリート。解除する』

「おつかれさまッ!ねぇね!」

 満足げに頷くアサクラと、ようやく立ち上がれたエイプリルに飛び付くスピラ。

「しかし、電気、ねえ……。ちょっと試してみようかしら」

 白い前髪を一本抜き、宙に放る。目を閉じて、〈二重詠唱セカンドボイス〉で発声した。

「[エレクトリッ未知であクショックる片鱗]──いたっ」

 直後、白糸とエイプリルの指先の間に、小さな稲妻が発生した。思わず手を引っ込める。

「どうだったッ?」

「そうね……、不思議な感覚ね。なにも無いのに、確かに刺された感覚」

 スピラの問いに、現象を解析しながら答える。

「これが動力に……?にわかには信じられないわ」

「まあ、こっちのワールドでも発見から実用化まで、ワンハンドレットイヤーくらいかかったらしいし」

 手を握っては開くエイプリルに、アサクラが補足した。

「そういえば、なぜ魔王様は〈地球〉へ戻らないのですか?」

 ふと、ウルバーンが頭に浮かんだ事を口にする。答えはすぐに返ってきた。


「ドントリターン。戻らないさ。絶対に」


「え?なんd「[ノウヴォイス]。止めた方が身の為ですダ。」~~?」

 影を見つめるアサクラに更なる問いを投げかけようとするウルバーンだったが、その前にブレインが声を殺した。

「……これ以上、アサクラの気分を害したくはないわ。悪いわねウルバーン」

「行くんだねッ!」

 足を鳴らし始めたエイプリルに、スピラが追従する。ブレインとアサクラも足並みを揃えた。

「グッドジャッジメント。さて、さらばだドリームガール!ユーに会えて良かったよ!」

「~~~!」

 声が出せない為、手を振って答えるウルバーン。しばらく経って声が出るようになると、既に遠いアサクラへ叫んだ。

「またお話し聞かせてねー!」

『それはリフューズ!やなこった!夢はロンリーで観るもんだ!』




 サザン鉱。黄色いヘルメットを被った少女が座っていた。

『疲れたなー?そろそろ一旦休憩にするだー』

  〈NEXTto『掘削士』〉

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マジックパニック! へーたん @heytan

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