オレこそがキョウフソノモノだ!

 〈血塗られた森〉。薄暗い林の中を、慎重に歩く魔王討伐一行。

「なんともクリーピーな場所……。ゾッとするね」

「スピラ、こわいのきらいだよッ!」

「狂いそうになるわ……」

「何処に敵がいるか分かりませんダ。」

 皆口々に不安を漏らす。

「うわっ、これ血じゃない。血の雨っていうのは、比喩表現じゃないみたいね」

「金属臭は、これですダ。何人分の血ですダ?」

 木にベットリと付いた血痕に、目をひそめる一同。と、不意にカラスが、バサバサと音を立て上空を翔んでゆく。瞬間。

「ッ!?[トルネードグラインド]ッ!!」

「「「スピラ!?」」」

 ズギュシャァッ!!橙の目を大きく見開き絶叫。頭上のものを、雲まで含めて全て無に帰した。

「これは……ワッツシュッドアイドゥ?どうしようか?」

「ま、まあ?『バケモノ』から動いてくれると考えて……」

 怖さのあまり動転したスピラの凶行に、エイプリルもアサクラも、その後の対応を急いで考える。だが、思考する猶予が充分に与えられることは無かった。

『ひっ、きゃぁあぁぁぁっっっ!!!』

「あっちですダ。急ぎましょうダ!」

 林の奥から、恐怖に歪んだ少女の悲鳴が響き渡った。



『キヒヒ!おいおい?ニげるのか?オレをシらずにキたのかぁ?』

『やだ……こないで!!』

 狂気的な女声、次いで、怯える少女の声。少女が襲われていることは間違いないだろう。

『シツモンしてるだけだろ?ナゼコタえない?えぇ?』

「あんたが『バケモノ』ね!少女から離れなさい!」

 姿の見えない敵に、エイプリルが牽制する。奥で、動く気配。

「ナンだ……?ジャマモノか……?」

 藪の隙間から、赤い光がちらつく。ブレインがすぐに光で照らす。

「[ライト]。姿を見せて下さいダ。」

「ぐっ、マブしいなぁ!おい!?」

 そこにいたのは、齢十八程の、幼さの面影が残る女性。カウボーイハットにレザーロングコート、ジーンズ。西部劇のような服装で、インナーシャツには『LOVE LIFE』のペイント。分厚い灰色の皮膚に赤黒い髪。何より特徴的なのが、その瞳。くすんだ左眼の、毒を思わせる緑色に対し、鮮やかに輝く十字の傷印が刻まれた、血色の右眼。〈双極の瞳〉だ。

「テメエら、ナンだ?その眼……キヒヒヒヒ!ソウキョクのヒトミがフタリか!こいつぁオモシレぇ!つまんねえガキなんざどうでもいい!」

「フォアに囲まれてラーフィング……。クレイジーだ……[万智セミアカシッ万能クレコード]」

 明らかな不利状況でも笑う余裕。アサクラは解析のため、右眼の闇と左眼の光を解放。実像にノイズが走り、大量の0と1が周囲を廻る。

「キまりだ!キョウのエモノはおマエらだぜ!」

 女の右手に、レザーグローブが出現する。血が染み込み赤黒く染まった、狂気の手が。

 左手でカウボーイハットを押さえる。目元は陰り、爛々と輝く十字状の赤い光が不気味に浮かぶ。足を一歩踏み出し、張り裂けんばかりに嗤う。そして、右手を前へ。その姿は、まさしく。

「キヒャヒャヒャヒャッッ!!![スカーレッツ・ヘルバレッツ]!!シねっっ!!」

「……なにかまずい![緊急脱出エスケイプ]!!」


 〈バケモノ〉だった。



「……あぁ!?ドコイきやがった!?」

 血の弾丸が殺到した先に、四人はいない。周囲を見渡すバケモノ。その後方に、四人はいた。

「……サーチして判ったことがある。シーの特質だ」

 声を潜めて話すアサクラ。

「奴の特質は〈呪血弾薬ブラッドブラスター〉だ。ディチャルスを確認するマージンは無かったが、一つ言えることは、『血』に関することだな」

 息を荒くして、出来るかぎりの情報を伝える。

「じゃ、後はアスク……[目視不可インビジブル]」

 そして、伝えるだけ伝えて、消えてしまった。

「えっちょっ?アサクラ?」

  いきなり逃亡を試みたアサクラを前に、エイプリルは思わず声を出してしまった。速攻でバケモノが振り向く。

「ソコにいたかぁ?どーやってマワりコんだ?」

「ちっ、見つかりましたダ。[シールド]。あねさま、交戦しますダ?」

 ブレインが水色に輝く円盤を構える。隣ではスピラも、左目の逆さ五芒星を灯していた。

「一撃でふっとばすよッ!」

 だが、エイプリルは二人の肩に手を乗せ、静かに囁いた。

「……あんた達じゃ勝てない。……あたしに力を貸して」

 重く、強く、語り掛ける。エイプリルの右眼は、『互』の印が藍色に輝き、左眼は、逆さ五芒星が橙色に輝いていた。双極の瞳に、明確な敵意を宿していた。

「承知ですダ。[ウィーアーアイテム]、最善をお尽くし下さいダ。」

「ねぇねが言うならしたがうよッ。[ウィーアーアイテム]、頑張ってねッ!」

 主人の意図を汲み取り、二人の術具は目を閉じる。

「ありがとう。[ホープウェポンあたしの前に力を]」

 二色の閃光に包まれ、〈二重詠唱セカンドボイス〉が響き渡る。

「……アりガタくオモえ?わざわざマってやったんだからよぉ?ソウオウにタノしませてくれよ?ソウキョクのヒトミ?」

 口角を上げるバケモノ。閃光の中から現れたエイプリルは、右手に藍の枷、左手に橙の槍を装備して、口もとを歪める。

「……正直助かったわ。あんた、名前は?」

「ふん。『ブブ・ララ』だ。キいてどーすんだ?イマからシぬのにさぁ?」

 西部風の死神、ブブ・ララの赤い閃光が刺さる。エイプリルは左手で三角帽を支え、右手を掲げて応えた。

「あたしはエイプリル。[ドントフィアー暗闇を照らす]、よろしく、ブブ・ララ」

「シるかよぉ![ブラッド・ブラスター]!キヒヒヒ!」



「……とは言ってみたけど、やっぱ辛いわね![ガード守れ]!」

「おいおい?おいおいおいおいおい!?ニげんのかテメエ?そらよっ!」

 右手で即席の盾を構え、飛来する血の弾丸を防ぐエイプリル。

「ほらぁ!ハンゲキしてみろよ!」

 対してブブ・ララの方は、仁王立ちして、溢れる自らの血雫を紡錘状にして射出する。

「言われなくても![ファイアボール]!」

 今度は槍を構え、先端から直径15cm程の火球を放つ。だが、ブブ・ララのレザーグローブが、容易く打ち消す。

「[ロスト]ぉ!タイしたことねぇな![ガトリングガン]!」

 その勢いで、血の滴る右手から弾丸が、真っ直ぐに殺到する。エイプリルは顔をしかめ、藍の右眼を光らせる。

「[バレットバリケード小弾は確実に防げる]!きっついわね![ブレードウェーブ風は刃に]!」

「[クイックセンス]!アメぇんだよ![スクラップバースト]!そんなタテはよぉ!」

 長方形の防御壁を生成し、槍を振って、弧を描いた刃で迎撃する。しかし、刃は横翔びで避けられ、周囲の石を固めた砲撃で返される。

「[ステップアップ上に跳ぶ]!このままじゃジリ貧ね……」

『一旦退くべきですダ。ブレインの特質で、速度への恐怖も大丈夫ですダ。』

 なんとか凌いでいたエイプリルの頭に、馴染みの声が流れた。道具の状態になっても、会話は出来るらしい。

「了解![ゲット・モーメンタム今逃げず何時退けよう]!加速する!」

「あぁ!?」

 ブレインの指示に従い、三角帽を押さえて後方へ跳ぶエイプリル。その慣性のまま、高速で飛行、後退する。

「おいおいおいおい!?ニげれるとでもオモってんのか!?[ジャンプ・カタパルト]!スぐにオいツいてやるぜぇ!」

 多量の血弾を引き連れ、一踏みで迫るブブ・ララ。その時、今度はスピラの声が。

『今だよッ!なにか撃ってッ!』

「任せて![ライトニング閃光にてストライク破壊する]!死んでも怨まないでよね!」

 向かって来るブブ・ララに、槍を真っ直ぐ構える。詠唱により、光が先端に集まり、直後、轟音と共に、斜め上、水平に稲妻が迸る。極端な破壊力を内包して。

「なあぁ!?クッソがぁ!ふざけんなよおい[アビスコア]ぁぁぁっ!!!」

 右目を見開いて、絶叫の詠唱を反射的に行う。血塗られたレザーグローブに包まれた右手の先に究極の闇が発現する。直後、ブブ・ララの全身を、稲妻が貫いた。



「──っらあ!おいおいおいクソヤロウがっ!アトサキカンガえやがれぇ[スプレッドショット]!おらぁ!」

 魔法同士の衝突により発生した魔素煙から、息を荒くして飛び出す赤い閃光。ブブ・ララだ。コートが多少傷ついたようだが、致命傷には程遠い。すぐさま血の散弾を浴びせてくる。

「あの直撃を受けて!?[スルー逸らす]流石バケモノを名乗るだけあるわね![アイシクルテンペスト吹き荒れる氷針群]![ヴェノムスソウル苦痛の火種]!」

 降り注ぐ血弾の雨を、右手枷の念動でずらす。槍を振ると、背後に無数の小さな氷柱つららが出現した。不規則な向きの氷柱群は、標的を選ばず殺到する。更に、氷針に紛れて、右手で青紫の、幽かな球を投げる。

「[ランページ]!そんなもん!キかね、えぇ!?ナン、だこりゃ!?イテえ……ハキケがぁあぁぁ!?コソクなあぁぁぁあぁ!?[ペインキラー]ぁっ!」

 血弾の嵐で氷柱の嵐に対抗するブブ・ララ。だが、物理干渉を受けない毒球を防ぐことは出来ず、腹部に直撃した。途端、内部からの激痛と吐き気に、喘ぎのたうちまわる。

「くはぁ……っ!キヒッ!キヒヒヒヒヒヒヒッッ!!ヒサビサにキれちまったぜもうユルさねえぜ!?イマからはぁ!ゼツボウのジカンだぜぇっ!!バケモノにメぇツけられたコトをぉ!コウカイしながらぁ!──シねぇっ!キヒャヒャヒャヒャッッ!!!」

 応急処置をして、一度飛び退く。息を荒くしながらも、右眼に宿る赤き闘志は、衰えることを知らない。灰色の皮膚に汗はなく、鋭いを剥き出しにして、狂気的に高嗤いする。

『まさか奴は……〈アビスコア〉以外で殆んど消耗していませんダ?』

 ブブ・ララが笑っている隙に、息を調ととのえるエイプリルとブレインで情報を整理する。

「確かに、血弾を飛ばす魔法の詠唱の時は、独特の揺らぎが無かった……」

『やはりブラフでしたダ。と、なればですダ。』

「ええ。あいつの特質〈呪血弾薬ブラッドブラスター〉は、血の弾丸を操る能力……」

 会話の最中に、スピラの声が割り込む。

『きをつけてッ!来るよッ!』

「わかってる!二人ともいくわよ!」

 会話を中断し、槍を振りかぶる。


「キヒ![スカーレッツ・ヘルバレッツ]!」

「くっ![スカーレット怒りを光にヘルバレット光を怒りに]!」



 無数の緋色の血弾と、無数の緋色の光弾が、交錯する。

「オレとオナじリョウのダンマクだぁ!?どーなってんだテメエのマセイ!?うおっ!」

「こっちの台詞よ!あんたこそ無尽蔵の魔精じゃないでしょうね!?[ディヴィアション近付くな]!」

 緋色弾幕を掻い潜り、罵声を浴びせあう。

「[アッパートランク大木を掲げる]!とりあえず弾はなんとかなるわ!」

「そのカンガえがアメえっつってんだ[バーンブレス]!モえろおらぁ!」

 木を生やして弾を防ぐエイプリルだったが、すぐに炎の放射で燃やされる。

「あっついわね![コールドフォグ場を冷やす]!火事でも起こしたいの!?」

「テメエもイカズチぶちコんでたじゃねぇか!ぅおらぁ!」

 急激に冷えた空間から退避しつつ、追加の弾丸を放つ。

「ってかダイマホウをバンバンウちまくんな!アタマオカしいのか!?そらよぉ!」

「[デスサイスぶった斬る]!制御も大変なのよ!あんたこそ魔法使いなさいよ[ブラインドモア闇が追跡する]!」

 更なる血弾を、巨大な大鎌にした槍で切り裂く。その振りに合わせ、右手の枷から十二、三の黒い誘導弾を放った。

「ツカってんだろ!アトそぉーゆーのぉヤめろ!ってんだろクソがぁ!?[ショッティング]!」

「勝手に新しいカナ創ろうとしてんじゃないわよ!?正しくは[シューティング撃ちまくる]!タネは割れたわね!」

 黒弾に被弾し、視界を奪われたブブ・ララ。その場凌ぎに、出鱈目でたらめな言葉を発して弾をばらまく。エイプリルは目敏めざとく反応、指摘して、矢で対抗する。

「っちぃ![スカーレッツ・ヘルバレッツ]!ワカったからどぉした!オレをタオせねぇのはカわんねぇぞ!」

「[ホップ・ステップ視て、避ける]!そこが問題よね!やっぱり!」

 絶え間無い弾幕を華麗に避けながら、エイプリルは思考する。

『わかったよッ!戦い続けてッ!』

「スピラ!?どうしたの急に?」

『まさか、勝つ方法を思い付いたのですダ?』

 急なスピラの声に、少々動揺する。ブレインは不安を抱いた。

『そうだよッ!どんどん煽るのッ!』

『煽って何になりますダ!』

 スピラがテキトーなことを言っていると思い、ブレインが発言を止める。

『煽ったところで、攻撃が激しくなる……、だけ……?まさか!?』

 スピラの考えを疑い、そして気付く。この発言の真意に。

『そうだよッ!はげしくなって、血をいっぱいつかうのッ!』

「失血を狙うのね!了解!やるじゃないスピラ!」

 相手の能力は、血を飛ばす。生物である以上血は有限で、失えば失うほど弱っていくはずだ。

「キヒヒ![スカーレッツ・ヘルバレッツ]!ウてばアたるだろ!いつかなぁ!」

「……あんた自棄やけになってない?[ミラー鏡よ]」

「ウルセぇ!ミえねえなら、こーするしかねぇだろ!アブねえっ!?」

 広範囲に乱射するブブ・ララ。跳ね返された弾を避けれる程度の勘の良さはあるらしい。

「そんなんじゃ、いつまで経っても当たらないわよー?[プレススペース引きずり込むわ]!」

「うおお!ミえたぁぁ!って、おいぃ![クレイジー・エスケープ]ッ!!コロすキか!?コロすキだったなアたりマエだなぁっ![スカーレッツ・ヘルバレッツ]!」

 強引に視界阻害を打ち消したブブ・ララ。余裕綽々よゆうしゃくしゃくなエイプリルが放った暗黒圧縮重力球を、全力の跳躍で辛うじて回避する。

「……あれも躱すのね。死ぬかと思ったわ」

『あねさまの方が、ですダね。巻き込まれなくて良かったですダ。』

 強大な魔法は、己をも殺しかねない。冷や汗を流すエイプリルに、人の姿ならジト目であろう声色で、ブレインが語りかけた。

「……否定はしないわ。[カッターシャード木の葉の刃]!」

「キヒ?そろそろマセイがツきてきたか?さっきマデのドハデマホウはドコイったぁ?キヒヒヒ!」

 周囲の葉を変質させて飛ばすエイプリルに、今度はブブ・ララが挑発する。

『おちついてねぇね!もう一発かまそッ!』

「了解。──あんたこそ、魔法は使わないの?[アイシクルテンペスト吹き荒れる氷針群]!」

「またソレかよ![スカーレッツ・ヘルバレッツ]!」

 吹き荒れる鋭い吹雪と血弾。相殺で弾を減らし、尚飛来する弾は目視で躱す。

「[ドームバリア光の盾]![クイックボム爆ぜなさい]!ほら、その程度……?まだまだ、甘い、わね!」

「ナめやがって![スカーレッツ・ヘルバレッツ]!キヒヒッ!」

 魔精の消耗に加え、大魔法の反動制御により、息があがってきたエイプリル。一方、ブブ・ララにそんな予兆はなく、目の前の爆発を回避する。

「[スカーレッツ・ヘルバレッツ]!テぇヌきやがって!」

「……あんた、なんか、その程度![ソウルケアまだやれる]!アッハハ!」

 弾幕を掻い潜り、輝く右手を握って疲労を誤魔化す。士気も上昇させ、追撃に備えた。ブレインとスピラも応援する。

『そろそろ逃げるべきですダ。奴は激昂しており、冷静さを失っていますダ。』

『おんなじことしか言ってないねッ!もう少しだよッ!』

「任せて![バックダンサー追撃してみろ]!無駄よ無駄!」

「マてごらぁ!!オレからニげれるワケねーだろ[スカーレッツ・ヘルバレッツ]ぅらあぁ!」

 後方に水の弾を発射して後退するエイプリルを、赤い閃光が追う。あからさまに正気を失いかけている行動だ。

「とどめの攻撃よ!受け取りなさい!」

「コイツでサイゴにしてやるよぉ!」

 ある程度下がったところで、足を止める。橙の逆さ五芒星と、藍の『互』の超異界文字。左右、両目を美しく輝かせ、槍と枷を構えた。対するは、セキガンを、赤く、紅く、狂気の色で灯し、右手のレザーグローブを突き出す。


「[スカーレット怒りを光にヘルバレット光を怒りに]!!!」

「[スカーレッツ・ヘルバレッツ]!!!」



「……で?その状態で、まだ戦う?」

 〈血塗られた森〉。入ったときよりも、すっきりしてしまった林。武装を解いたエイプリルは、血だらけで倒れるブブ・ララを見下ろしていた。

「テメエらツエぇな……。キヒヒ……。」

 右眼の光が収まり、毒色の左目が確認出来るようになったブブ・ララは、弱く笑う。と、急に空間に揺らぎが生じた。

「お疲れさーん!ハードバトルだったじゃんよ![怪我治療ヒール]!」

「ダレだテメエ!?コロすぞっ!?」

「おねーさんおちついてッ!?」

 突如現れ回復を施したアサクラに、敵意を向けて襲おうとするブブ・ララ。スピラが止めに入らなければ、再度戦闘になっていただろう。

「まーまーシッダン、座りなされー♪」

「クソムカつくガキだなおい……。シりアいか?」

「認めたくないけど、知り合いね……」

 なにもしていないのに進行役をしようとするアサクラを、二人で睨む。

「とりあえず!セルフインタラダクションだ!」

「セル……ナンつった?」

「自己紹介ね。解らないわよね、やっぱり」

 アサクラの言葉をエイプリルが翻訳。地べたに座って会話をする。

「改めて。あたしは思者のエイプリル。十三歳よ。魔王討伐を依頼されて、旅をしているの」

 大きな三角帽を持ち、お辞儀する。

「ブレインですダ。枷の鉱者ですダ。」

「スピラ!槍だよッ!」

 両脇のスピラとブレインも、一緒にお辞儀。

「魔王ちゃんがアサクラだ。魔王だぞ!」

 アサクラはいつも通りのふてぶてしい態度。そんなアサクラに、ブブ・ララは肩をすくめる。

「……アタマワリいガキだな。テメエもマオウトウバツとやらに、サンカしてんだろ?」

「トゥルー魔王なんだよ!信じろよ!」

「キヒヒ!イコジになるなよ?マオウサマ?」

「キル・ユー!」

「あ?やんのかおらぁ!?」

「おねーさんダメだよッ!」

 信じてもらえずにキレるアサクラ。ブブ・ララも腕捲りして応戦しようとする。非常に相性が悪いようだ。

「ったく……。カッショクチビにメンじてユルしてやるが、ツギにアったらオボえてろよ?」

 やれやれと頭を振り、再度、肩をすくめるブブ・ララ。

「おねーさんの自己紹介の番だよッ!」

「ああ、そんなハナシだったな」

 カッショクチビことスピラの催促により、自己紹介を始める。

「オレはブブ・ララ。イルカのワシャ和者だ。ま、ハダのイロやシツ、ハのケイジョウでワカるだろ」

 胡座を組んで、手振りを交えて話すブブ・ララ。

「このスガタになってゴネン、ルイケイではジュウハチネンだ。トクシツは〈呪血弾薬ブラッドブラスター〉。ケツエキをダンガンにするノウリョクだ。マセイをショウモウしないコトがリテンだな」

「やっぱり、魔精消耗が少ないと思ったわ……」

 脚を揃えて座るエイプリルが、タメ息を吐く。そんなエイプリルを見て、ブブ・ララが笑った。

「おいおい、オレはマセイもツヨいホウだぜ?チシキもソウゾウリョクもアるし、シンタイテキにもツヨい。ジブンでイうのもだが、キョウテキだったぜ?テメエらにゃマけたがよぉ」

 鋭い歯を見せて笑うブブ・ララ。エイプリルも相手を讃える。

「こちらこそ、相手の感情に干渉出来る〈躁鬱支配マインドメロディ〉に、威力を上げて消耗を抑える〈出力異常リバースボンバー〉、想像力が、より力になる〈二重詠唱セカンドボイス〉。……よく戦えたわねブブ・ララさん」

「カられるガワはオレのホウだったか……」

 エイプリルの説明に、頬を掻く。

「イエス!自分のポジションを考えてスピークしろよ?」

「キングは何もしてませんダ。立場をわきまえて下さいダ。」

 調子に乗るアサクラを、ブレインが羽交い締めにする。よく見れば、オトそうとしているようだ。当然ながら、ブブ・ララは無視して続ける。

「ギブギブ!ヘルプ!」

「ふん。ツヅけるぞ。オレからテメエらにキきてぇコトがある。ナゼここにハイった?」

「あー……、えっと……、それは……」

 先程の調子から一転、右眼を明るくして、静かに問う。エイプリルは言いよどんだが、スピラは、恐れずはっきり言った。

「ちから試しだよッ!」

 それを聴いたブブ・ララは、少し呆けた後、腹を抱えて笑いだした。

「キヒッ!キヒヒヒヒヒ!そうかチカラダメシか!カッショクチビ!おマエ、ズイブンとショウジキだな!キにイった!」

「え?怒らないの?」

 予想外の反応に、エイプリルは困惑する。

「そりゃナワバリアらされたのはハラタつがよ、オレはスナオなヤツがスきなんだ!ハラにイチモツカカえられるよか、ずっとイいぜ!だから、コンカイはユルしてやるよ!」

 鋭い歯を剥き出して、大きく笑うブブ・ララ。スピラの行動がなければ、ここまで穏便にはいかなかったかもしれない。

「とはいえ、ここもボロボロになっちまった。カクれガとしてはキノウしねぇな……」

「隠れ家、ねぇ……。ブブ・ララさん、結構有名人みたいよ」

「マジか……」

 木々が抉れ、陽当たりの良くなった林を見上げタメ息を吐く。

「それならッ!一緒に旅しようよッ!」

 スピラが手を挙げて提案した。だが、ブブ・ララは首を横に振る。

「ヤめとくぜ。オレはセントウキョウなんでな、テメエらのアシをヒっパりかねん。」

「残念ですダ。貴方の戦闘能力は魅力的でしたダ。」

 気絶したアサクラを捨て、顔を伏せるブレイン。

「だが、タビってのはイいアンだな。オレジシンをミツめナオすっつうことがヒツヨウかもしれねぇ」

 血色の右目を閉じ、ブブ・ララが立ち上がった。

「てことで、テメエらにヒトつタノみてぇコトがある。このハヤシにハイってきた、バカなガキのことだ」

「そういえば、いたわねぇ」

「アイツ、顔はヨかったが、クマがデキてた。オレがコエをカけて、ヨーヤクオレにキズいたんだ。で、オレをカクニンしたシュンカンあれさ。アマりにヨワかった。ナンかあるにチガいねぇ」

 深刻な顔で語るブブ・ララ。

「まかせてよッ!その人はどこにいるのかなッ?」

「おそらく、ヤマのホウだ。タノんだぜ、カッショクチビ」

 ブブ・ララは、快く承諾したスピラの頭に手を置き、不器用に微笑んだ。

「ブブ・ララさんは、すぐ出発するみたいね。あたしたちもいきましょ。……アサクラはあたしが背負うわ」

「またねッ!おねーさん!」

「おう!タビサキでまたアうかもなぁ!キヒヒ!」

 アサクラを背負って歩き出すエイプリル。スピラはブブ・ララに手を振って、エイプリルの元へ帰っていった。

「そうだ、クソガキがオきたらツタえてくれ!ツギアうトキは、ぶっコロすってなぁ!」




 鉱物資源に富む山、サザン鉱。目を擦り、歩く人影があった。

『また、夢なの……?あそこは、何……?』

  〈NEXTto『異界を夢見る少女』〉

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