私はインフルエンサー・頭フサフサ陽之介

どっぐす

私はインフルエンサー・頭フサフサ陽之介

 助手が編集を済ませた動画を、ユーチューブへアップロードした。


 今日の動画のタイトルは、

『見てすぐわかります! 〝ダメな人〟にありがちな容姿TOP3』

 である。

 3位・シワだらけの服、2位・汚い靴、1位・ハゲ、という構成となっている。


 もちろん統計学的な根拠など一切ない。適当だ。どこかのサイトで誰かが言っていたものをツギハギしてしゃべっただけのものだった。

 要はそれっぽく聞こえればいい。キメ顔で自信満々に話すだけでいい簡単なお仕事である。


 今回また百万再生はいくだろう。

 私はインフルエンサー・頭フサフサ陽之介。




 ユーチューブの動画投稿が終わり、夕食と風呂を済ませると、次はツイッターだ。

 事務用デスクに置いてあるノートPCでツイートする。


『あなたは他人を幸せにするために生きているわけではありません。自分を幸せにするために生きています。他人のためではなく、自分のために行動しましょう』

『あなたに厳しく当たる人はすぐに縁を切りましょう。そんな人に割く時間など一秒もありません。あなたの時間・あなたの人生の価値は、あなたが思っている以上に高いのです』

『仕事がつらければ無理に働く必要などありません。自分を大切にしてあげてください』

『嫌われることを恐れてはなりません。あなたを嫌う人はあなたの人生に不要な人。遠慮はいらないのです』


 今日はこの四本。

 毎日夜に四ツイート連投することが基本ルールだ。


 つぶやいた瞬間から、いいねボタンとリツイートボタンが押されていく。

 最近はもう面倒なのでリプライの欄を見ることすらしていないが、しばらくすると

『今日も勉強になります』

『さすが陽之介先生! おっしゃるとおりですね!』

『心が救われました。今日もありがとうございます』

 などと、賛辞リプが次々と来るのがお決まりとなっている。


 チョロい。

 心の底からそう思う。

 多くの人は、何かに我慢をし、誰かに虐げられている。だから、その何かや誰かは価値がなく捨ててもよいのだ、と断ずる発信をする。

 そう、みんなの代わりにバッサリ斬ってあげるのである。そうすれば鬱憤の溜まっている人たちはスッキリし、いいねを押してくれるし、簡単に拡散もしてくれる。


 言ってみればポルノと同じ。それで気持ちよくなれる人間がたくさんいる。

 そして自分はユーチューブの動画やブログのアクセスが増えて広告収入が得られるわけだから、自分と自分の信者はWIN-WINの関係。


 斬られた側が反撃してくることもあるが、まったく問題はない。

 コメントが多いほうがアクセス数が増える傾向があるし、いざとなったら訴えて楽しむこともできる。自分は誰かを特定して発信していないので安全だが、反撃は自分宛ということになるので、酷いアンチコメントは名誉毀損や侮辱に当たる可能性が高い。今の法律では圧倒的にこちらが有利だ。


 ノーストレス。人生イージーモード。

 私はインフルエンサー、頭フサフサ陽之介。




 今度は、二十二時に開催する予定のインスタライブの準備をしよう。

 そう思ってお茶を一杯飲み、再びデスクでノートPCを開いたときのことだった。


 スマホが、短く鳴った。

 この音はLINEのメッセージだ。四回続いた。


 いつもであれば、何かをやり始めたときには他のことで中断することはない。

 基本的に自分の時間を奪うものは無視している。しかし四回連続というのは最近では珍しい。

 気になってスマホを開いてみる。


 メッセージの送り主は、動画配信をしている有名ユーチューバー・ハゲター。

 すでに彼の動画は見ていなかったが、ニュースなどにツッコミを入れていく物申す系ユーチューバーとして一定の評価を得ていた。


 メッセージは、音のとおり四つだった。


『警察が来た』

『お前と同じように反抗して動画配信続けてたけどよ。甘く見てた』

『今逃げてる途中。逃げ切れるかどうかはわからないが頑張ってみる』

『お前も気を付けろ』


 尋常な雰囲気ではない。

 なぜ警察が? 反抗とはいったい? お前と同じように、とは?

 その旨を送信すると、すぐにその返信が来た。


『まさか知らなかったのか? インフルエンサー排除法』


 すぐにネットを検索した。

 目を疑った。


 インフルエンサー排除法が施行、とあった。


 施行日は一昨日。電撃施行という文字。いつのまにこのような法律が。

 少数政党『インフルエンサーから国民を守る党』の呼びかけで議員立法された法案が通ったとのことだった。


 インフルエンサーの発信は悪魔のささやき。人々の欲望や恐怖心、無知や誤解などにつけこむ甘い言葉で国民を煽り、国の生産性および国際競争力の低下を招き、最終的には国家転覆につながってゆく――

 という理由により、刑事罰は内乱罪と同等。死刑もしくは無期禁錮。

 そのように書かれていた。

 そんな無茶苦茶な、と思った。


 さらに他の記事を見ていく。

 なんと、大物インフルエンサーは軒並み逮捕済みとなっているようだった。

 登録者数日本一のユーチューバー・ピカールも、カツラ芸人ユーチューバー・ヅラ龍も、オンラインサロン運営・抜けナリも、すでに逮捕されている。

 彼らは今日の昼間、警察官が自宅に来て任意同行、その後逮捕となったようだ。


 ――ピンポーン。


 自分も危ないのではないか?

 そう思ったところに、玄関のインターホンが鳴った。

 背中に冷湿布を貼られたような感覚。

 すぐに液晶モニタを見た。


 警察……!


 もう来てしまったのか。

 自分も任意同行、そしてそのまま警察署で緊急逮捕の流れだろうか?


 ひとまず留守を演出しよう。

 ここは一階。ベランダから逃げられる。

 玄関から靴を取り、財布を持つと、裏の駐車場へと逃げ出した。


 逮捕されれば、今まで積み重ねてきたものが崩れ去ってしまう。それどころか人生終了かもしれない。


 そんなことがあってはならない。

 私はインフルエンサー、頭フサフサ陽之介。




 * * *




 夜道を、ひたすら走る。

 駅前から伸びでいる大通りに出た。


 自分は近いうちに逮捕状を取られてしまう可能性がある。

 まずは弁護士か。

 最近は接点がないが、連絡が取れる弁護士がいる。確か都内のそう遠くないところに住んでいるはずだ。


 彼はもともと弁護士ユーチューバー・ミノ田部として活動していた人間。

 自分と同時期に動画配信を始めていたのでコラボ企画などもしており、連絡先を交換する程度には仲が良かった。

 しかも都合のよいことに、彼はその後チャンネル登録者数が伸び悩み、かなり前にユーチューバーを引退。よって彼が逮捕済みであることはないと思われた。


 やはり持つべきものは人脈だな、と思う。

 逮捕されそうなときはまず弁護士に相談、とよく言われる。

 死刑の回避方法はもちろん、社会的なダメージが一番少なくなる方法を指南してもらえるだろう。


 私のユーチューブは登録者数五百万人。百万程度のハゲターよりも豊富な人脈がある。変な法律ができていようとも、なんとかなるかもしれない。


 インターネットブラウザを消し、彼に電話をかける。

 出ない。


 スマホの近くにいないのか? と、ラインでメッセージを送る。

 すると、『何かな』という返事が即時に来た。スマホの近くにはいたが、通話できない環境ということだろうか。


『インフルエンサー排除法のせいで近々逮捕状が出るかもしれない。相談したいのだが会えないか?』


 またすぐに返事が来た。


『お断りするよ』

『なぜだ?』

『君、弁護しようがないくらい今もインフルエンサーでしょ』

『そうであっても何かないのか? 死刑を免れるために今やっておくこととか、逮捕じゃなくて在宅起訴に持っていく方法とか。他にも何か時間を稼げる方法とか。弁護士なら何か考えられるだろう。相談料ならいくらでも払える』


 少し、間があった。

 そしてここから、彼のメッセージが矢継ぎ早に繰り出されていった。


『それでもお断りさ。君と仲がいいと思われて、とばっちりを食らったら嫌だからね』

『君が前に動画で言ってたでしょ? 「友人とはしょせん他人。自分を犠牲にして尽くす必要はありません」って。僕はその通りにするよ』

『そうだ。あと「あなたの睡眠時間を奪う人間は人間と思ってはなりません。即刻縁を切るべきです」ってツイッターでつぶやいてなかったっけ? 今何時だと思っているの?』

『こんな時間に連絡してこないでほしいね。これから寝るんだから』

『しかも君さ、前に「士業の連中は世間知らず」とか動画で言ってなかった? そんな無礼な人に割く時間なんて一秒もないね』

『もう連絡してこないで』


 怒涛のメッセージ。

 こちらが口をはさむ暇もなかった。


 ……。

 使えないな。そう思った。

 彼はきっと私に嫉妬しているのだろう。しょせんはインフルエンサーになれなかった挫折者だから。


 だが私は違う。

 私はインフルエンサー、頭フサフサ陽之介。




 弁護士を探すのは明日におこなうとして、ひとまず一夜をどこかで過ごさなければならない。

 暦の上ではすでに春とはいえ、まだ夜は寒い。誰かの部屋に泊めてもらおう。

 いつも動画編集をやっている私の助手・布井ナステ。

 この近くに住んでいるので、ひとまず彼のところがいいだろう。


 スマホを取り出し、電話をかけた。

 出ない。

 ラインのほうでメッセージを送る。

 その返事はすぐに来た。


『なんですか?』


 用件の前に、一言言わずにはいられなかった。


『変な法律ができたのなら早く教えてくれ。家に警察が来たから留守のふりをして出てきたところだ』


 それもすぐに返事が来る。


『俺も知らなかったんですよ』

『知らないわけがないだろ。ニュースは見ていないのか?』

『最近は見てないです。あなた前にツイッターで「みんながやっていることをやっていては抜きん出た存在になれません。テレビを捨てるところから始めましょう」とか言ってたじゃないですか。ニュースはみんな見てるんですから、見ないほうがいいんでしょ?』


 は? 何を言っている。

 メッセージを打とうとしたが、面倒になりライン通話のボタンを押した。

 出ない。なぜだ。

 リアルタイムでメッセージを返せるなら家でスマホの前にいるはずではないか。


『なぜ通話に出ない?』


 そうメッセージを送った。


『あなた「できる人は全部メールで済ませます。電話をかけてくる人は相手の都合を考えない時間泥棒。即刻縁を切るべきです」って前にツイートしてましたよね? だから出なかっただけです』


 さらにメッセージは続く。


『ということで、縁を切りますね。もう連絡してこないでください』


 ……。

 使えない奴だ。助手の代わりはいくらでもいる。クビだな。

 私は彼のラインをブロックした。




 あと近くに住んでいる知り合いは……。

 カッパのようなハゲ親父、ツイッター名・ぬめ王だ。


 彼とはツイッターつながりで知り合った。私の熱烈な信者らしい。

 最近はリプ欄を見なくなったので把握していないが、以前は投稿ごとに必ずリプライ欄に感謝の感想を書き込んでいた。人生相談に乗ってあげたこともある。


 彼は独身ながら2LDKのマンションに住んでいると言っていた。私の信者だったし泊めてくれるだろう。

 電話をかけたがやはり出ないため、ラインのメッセージを送った。


『ちょっと訳ありで自宅に帰れない。今日泊めてもらえるか?』


 返事はすぐに来た。


『無理ですよ。僕もう田舎の実家に帰ってるんで』

『は? なぜだ?』

『前に仕事で悩んでたときにツイッターであなたに相談したら「君の能力を引き出せないダメな会社はすぐにやめるべきです」って言ってたじゃないですか。そのとおりに辞めたらそのあと全然就職先が見つからなくて。家賃が払えなくなってマンション追い出されて、今は実家を拠点に職探し中なんです』


 アドバイス後の彼がどうなったかは追いかけていなかったため、全然知らない事実だった。

 返事をどうしようか迷っていると、彼のメッセージが続けて投下された。

 彼も止まらない。


『実家の両親に、この不景気でせっかく正社員で雇ってもらえてたのになんで辞めたの? って言われましたよ』

『ハッキリ言いますけども、僕は前の会社を辞めて後悔してます』

『しかもあなた今日の動画で「見てすぐわかります! ダメの人にありがちな容姿TOP3」とかいう動画をあげてたましたよね? 1位ハゲとか失礼にも程がありませんか?』

『僕は髪ほとんどないんですけど、これ遺伝ですよ? どうしろって言うんですか?』

『もう連絡してこないでください』


 ……。

 こいつもダメか。役立たずめ。

 そう思い、彼のラインもブロックした。

 そしてまたニュースを見る。


『警視庁、ユーチューバー〝頭フサフサ陽之介〟こと房元陽之介の逮捕状を請求』


 ――!

 そのニュースの更新時刻は今日の昼になっていた。

 うかつだった。見逃していたか。


 すでに逮捕状を取られてしまっていたようだ。

 家に来た警察は、任意同行ではなくその場で逮捕するために来ていたのだ。

 早めにどこかにかくまってもらわなければ。


 ……かくなる上は、彼女の家か。


 あまり迷惑をかけたい相手ではなかったが、こうなっては仕方ない。

 ラインで『今日、これから泊めてほしい』と送る。


 しばらく待っても、返信の音が鳴らなかった。

 念のため通話でも連絡しようかと思い、スマホの画面をつける。

 すると、通話ボタンを押す前に充電が切れてしまった。


 黒く落ちた画面を数秒見て、決意した。

 信じて彼女の家に行こう。彼女なら私を裏切ることはない。 

 電車で三駅。この状況では電車には乗れないため歩くことになるが、やむをえない。


 だが、そこで背中から声がかかった。


「そこのかた、今ちょっといいですか?」


 警察……!


 考える前に、足が動いていた。

 走る。逃げる。


 ちょうど横断歩道で青が点滅しているところに滑り込めた。引き離せたはずだ。

 人が多い通りは駄目だ。路地裏を通って行こう。


「おめえどこ見てやがる」


 路地裏に入ったところで、いきなり白いスーツの男に衝突してしまった。

 怒鳴られ、顔に拳が飛んできた。

 顎と頬骨に鈍痛が走った。血の味がしたので口の中を切ってしまったようだ。


 だが今はそんなことを気にしている場合ではない。

 逃げようとした際に服を思いっきり掴まれ、縫製の糸がブチブチと切れる音がした。それでもその手を振りほどき、逃げる。


 後ろから「謝罪ぐらいしろや」の叫び声が聞こえたが、もちろん無視の一択。

 走った。


 見知らぬ路地裏。途中から方向が合っているのかもわからなくなった。

 それでも感覚を頼りに走り続けた。

 なんとなく、彼女の部屋までたどり着けるだろうという自信はあった。


 これまでの人生、要所要所で運はいつも自分にあった。今回だって――。

 私はインフルエンサー、頭フサフサ陽之介。




 * * *




 着いた。彼女のマンションだ。

 服はボロボロになっていた。靴もいつのまにか黒く汚れている。顔も少し腫れているかもしれない。女性に大人気というこのおしゃれなマンションに、明らかにそぐわない格好になっていた。


 だが問題はない。

 彼女も私の信者の一人だったが、交際が始まってからはイベントで助手的なはたらきもしてくれていた。

 インフルエンサー仲間ではないので私に対する嫉妬心もなく、優秀な人間ゆえに損得勘定もしっかりとできる。自分を拒絶することはないだろう。


 エントランスでインターホンを鳴らす。


「あ、陽之介さん? 遅かったね」


 アナウンサーのような凛とした声とともに、エントランスホールへのガラス扉が開かれた。

 やはり、彼女は違う。


 エレベーターで上にあがって彼女の部屋の前に立つ。

 と同時に、「どうぞ」という声とともに玄関のドアが開かれた。

 メイクはしていなかったが、相変わらずの艶のあるまっすぐな黒髪に、透き通るような白い肌、相変わらず整った顔だった。


「すまない。世話になる」


 警察に追われていることなどはあえて話さず、中に入った。


「残り物で作ったやつだけど」という温かい食事に、汚れた体を浄化するシャワー。

 ようやく、一息つくことができた。


 食後、急速充電によって蘇ったスマホでニュースを見たら、

『ユーチューバー・ハゲターを公園で逮捕』

 と出ていた。彼は私と違って誰にもかくまってもらえなかったのだろう。そのあたりがインフルエンサーとしての格の違いか。


 長い一日が終わる。

 借りた寝間着で潜った布団の温かさが心地よい。


 ……そうだ。

 眠りの手前でウトウトしていたら、一つのアイディアが浮かんだ。


 彼女に手伝ってもらい、海外に飛ぼう。

 海外ならインフルエンサー排除法のようなくだらない法律は存在しないはずだ。


 彼女の人脈も使える。逃亡を手助けしてくれる人はすぐに見つかるだろう。

 それこそプライベートジェットの荷物に紛れるかたちなど、どんな手段でもいい。日本にいなければインフルエンサーとして活動を続けられる。


 もっと早くそうしておくべきだったかもしれない。私はもともと日本国内にとどまる器ではない。

 よし。明日にでも彼女に話をしよう。


 才色兼備の彼女とともに日本脱出だ。

 私はインフルエンサー、頭フサフサ陽之介。




 * * *




 朝を迎えた。


 隣を見たら、彼女はいなかった。

 彼女は朝型で、朝活をやっていると言っていたから、自室で何かやっているのかもしれない。


 起き上がると、借りた枕に大量の髪がついていることに気づいた。

 洗面所に行って鏡を見ると、後頭部と側頭部に大きめの円形脱毛があった。

 急なストレスで髪が抜けたのだろう。まあそのうち復活するか。


「そう、復活する。私はインフルエンサー・頭フサフサ陽之介。この身一つあれば稼げる」


 鏡を見ながら独り言。そして頬を両手で軽く叩いた。

 すると、その鏡に、彼女が映った。

 笑ってはいなかった。


「そうね。生きていれば、ね」


 その声に対し振り返った瞬間に。

 みぞおちに、激痛――。


「なぜ……だ……?」


 自分の胸から、包丁の柄が生えていた。


「だってあなた、『自分の運気を下げてくる人は恋人でも距離を置きましょう』って前にインスタライブで言ってなかった? 私はあなたの言うとおりにするだけよ。落ち目のあなたと一緒にいて、わたしになんのメリットがあるの?」


 彼女はここでニッコリと笑った。


「わたし、今日これから海外に飛ぶの。海外のインフルエンサーからぜひ来てくれないかって言われてね。めでたく交際スタートってわけ」


 白い手が、静かに包丁の柄を引き抜く。

 さらなる激痛とともに、赤い血が噴き出した。


 自分より低いはずの彼女の背が、どんどん高くなっている。

 否、こちらの体が崩れ落ちているのだ。


「さようなら。〝ダメな人〟さん」


 完全に床に沈んだ体を包むのは、血。

 自分の胸からドバドバと流れ出てくる血。

 生温かった。昨日の布団のように。


 そうだ……これはきっと夢だ。

 私は睡眠中で、起きていないのだ。


 睡眠時間が足りないと人間の能力は落ちる。

 だからサラリーマンは残業してはならないし、付き合い残業が多い会社は即刻辞めるべきだ。

 今日のツイートのネタはそれでいこう。


 だがまだ起きるには早い。

 もう少し、寝ていよう。


 私はインフルエンサー、頭フサフサ陽之介。






 - 完 -

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