第12話 昇格について相談するオレです(2)

 京の言葉に双子は腕を組み、考える素振りで返事をした。数秒の沈黙。先に口を開いたのはカエデの方だった。



「私はキョウさんは第一騎士になれると思いますよ。だって、あのキン様が背中を押してくださる人なんですから。それが充分な理由だと思いますよ」



 優しく微笑むカエデ。彼女の持つ第四魔道士としての杖にある宝玉に一度視線を向ける京。アレがドラゴンの心臓だと思えない程の美しい玉は、カエデの杖に大人しく居座っていた。



「そうか。そう言ってくれると嬉しい」



 お世辞ではない感謝の言葉と微笑をカエデに向ける京。カエデの頬が髪色と同じ赤色に染まる。そんな二人を見たモミジが若干眉を潜めながら口を開いた。



「アタシは反対よ。だって、キョウさんは忘却魔法で記憶が曖昧なのよ? まずはそこをハッキリさせてからクエストに向かうのが良いんじゃない? 」



 ため息混じりに答えるモミジ。彼女の言葉に京もゆっくりと頷いた。



「なるほど、それは一理ある。オレも実際、ミヤビのクエストに行かなければ、何をどうすればいいのか、全く分からなかった」



 二日酔いに苦しむミヤビを横目で見る京。大量の水を飲んだおかげか、彼女の顔色は普段と変わらなくなっていた。



「お姉様、私は、モミジと同じ意見です。危険は少しでも排除してから、昇格しても大丈夫と思いますよ……。あと、正直に言わせていただきますと、お姉様の剣術は、見たことの無いものでした……。言葉が悪いことを、承知して口にしますが、まるで、素人が闇雲に剣を振り回している……そんな印象でした」



 言いすぎましたね、すみません、と苦笑しながら話すミヤビ。既に二日酔いの不快感は消えていた。



「そうか……。そう言われたら、それが正しい意見だとオレも思う。ならば、一度、剣術を学ぶ必要があるな……」



 両手を組みながらゆっくりと話す京。確かに、剣術は愚か、剣道さえも経験をした事の無い京にとって、剣を振り回すのがやっとだった。


 幸いにも、この身体の反射神経と、身体に染みている剣術により、無意識に弱い魔物を倒すことは出来た。


 しかし、キンが倒したような魔物には、それだけでは太刀打ち出来なかった。それを思い出すと、京はミヤビの意見が一番正しいと判断した。



「そうですね。ならば、一度キン様にその旨を伝え、昇格の件は保留にしてもらいましょう。あわよくば、キン様に剣術を学べれば……。キン様の剣術も私たちに似ていますが、微妙に違う……しかし、凛とした素晴らしいものですよ」



 ミヤビが完全に上半身を起こし、京の顔を見る。そこに見えるのは、普段のだらしない表情ではなく、キリッとした剣士らしい表情だった。


 それを見た京は、ミヤビが本気でキンを尊敬し、剣術を認めていることを理解した。




「なるほど、アイツに教えてもらうのが、確かに手っ取り早いな……。だが、この国唯一の第一騎士なんだろ? 弟子なんて星の数ほど居るんじゃないのか?」



「うーん……。キン様が弟子を取ったという噂は聞いたことがありません。キン様はレディースパートナー同様、弟子も取らないことで有名ですから……。って事は、キン様に剣術を学ぶのは現実的ではない……かと……」




 両腕を組みながら、首をかしげ会話をする京とミヤビ。そんな二人の会話を黙って聞いていたモミジがゆっくりと手を挙げた。


 二人の視線がモミジに集まる。それを確認したモミジは、ゆっくりと口を開いた。



「どっちちしても、キン様に昇格試験の保留の話はしないといけないから、会わないといけないし、その時に、ダメ元で聞いてみたら? もし、ダメなら、アタシが稽古をつけるわよ? 第四騎士のアタシがこんな事を言うのもアレかと思うけど、剣術も忘却魔法で忘れているみたいだし。頭では忘れていても、身体は覚えているハズだわ。そこさえ思い出せれば大丈夫だと思うの」



 モミジの言葉を聞いた途端、ミヤビの目が見開いた。両手を思いっきりテーブルに叩きつけ、立ち上がり、モミジを睨みつける。



「モミジ! そんな格下のあなたが第二騎士であるお姉様にそんな事を言うなんて! 失礼にも程があるわ!」



 テーブルを叩きつけるバンという音と、ミヤビの怒鳴り声が重なるように全員の耳を支配した。それは、京を反射的に立ち上がらせ、傍観していたカエデの肩を大きく震わせていた。



「おい、ミヤビ。オレは別に失礼だと思っていないし、それが一番最短ルートだろ。お前が勝手に怒る方がお門違いだ」



 ミヤビの肩を掴み、軽く睨みつける京。彼女とは違って、怒りを覚えたら淡々とした口調となる京は、ミヤビに恐怖心を覚えさせるのには充分すぎるものだった。



「……。申し訳ございません、お姉様」



 弱々しく謝罪の言葉を述べるミヤビ。その姿が京にはまるで、躾をされている小動物のように見え、思わず小さな笑みを浮かべた。



「分かればいい」



 そう言うと、京はミヤビの肩に触れていた手を、そのままミヤビの頭にそっと置いた。そのまま軽くミヤビの頭を撫でると、ミヤビの顔はカエデの赤髪よりも真っ赤になっていた。



「はわわわわ! お姉様……ステキ……」



 立ち上がっていたミヤビだったが、京に頭を撫でられた事により、腰が一気に抜け、椅子に座り込む。それを見た京はゆっくりと彼女の頭から手を離すと、四人の中心に置かれたテーブルから離れた。



「とりあえず、水浴びを済ませたらあいつの所へ向かう。んで、この推薦状は一旦保留にしてもらって、剣術を教えてらう。もし、それが叶わなかっから、モミジ、お前に教えてもらいたい。こんなオレだが、師範になってくれるか?」



 テーブルから離れ、向かいに座っていたモミジの元へ向かう京。京の言葉を聞いたモミジの頬もまた、ミヤビに負けないくらい赤く染まっていた。



「べ、別にアタシは何も困らないわよ! それがいいって言うなら、アタシが師範になってあげる!」



 京から視線を逸らしながらやや強めの口調で話すモミジ。それを見たカエデは、何に目覚めたのか、大声を出さないように、両手で口を抑えながら悶絶していた。



「そうか、ありがとう、モミジ。よし、ミヤビ、水浴びがしたい。場所を教えてくれ」



 言葉の後半はミヤビに向けて話す京。それを聞いたミヤビは、先程まで腰が抜けていたが、一瞬で生気を取り戻し、立ち上がった。




「了解です! お姉様! そして……お姉様がよろしければ、ミヤビと一緒に水浴びを——」



「んなわけないだろ、変態」




 ミヤビの願望は京の冷たいツッコミによって、あっさりと撃沈した。しかし、それくらいで心が折れないのがミヤビであった。




「恥ずかしがり屋のお姉様もステキ……」



 頬を赤く染めながら放ったミヤビの言葉にツッコミを入れる人間は、誰一人いなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

女騎士に転生したオレです―冤罪の後事故で異世界転生したらそこは女尊男卑の酷い異世界でした― 坂梨 青 @bzaoiro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ