第50話 初夏
「おい・・・目覚めたんじゃね?」涼太
「あっ瞼が動いた!!お姉さん!お姉さん!!」來未
私は涼太と來未ちゃんの声で目を覚ました
眩しい・・・
私、どうしちゃったんだろう?
目だけを動かしてまわりを見る
病院・・・
後頭部が痛い
頭を抱えるように右手を添えながら
ゆっくり起き上がる
「私、看護師さんに伝えて
お母さんに連絡してきます」來未
來未ちゃんは病室を出た
涼太は私の横に座りなおす
私は、また周りを見る
そうだ
私、病院で倒れたんだ
「大丈夫か?
頭けっこう強く打ったみたいだから無理すんなよ」涼太
珍しく涼太が優しい
なんだか気持ちが悪い
「どのくらい寝てたの?」悠
涼太は下を向いて
しばらく無言
どうしたんだろう?
何を考えているの?
数秒して
何か覚悟を決めたような表情で
大きく深呼吸して
「・・・三年・・・」涼太
涼太の声が頭を駆け抜ける
三年?
私は動揺し
呼吸が荒くなる
「どうして?
三年?
私・・・三年寝てたの?」悠
私の表情を涼太は神妙な顔つきで見つめている
どういうことなのか
理解できない
小さな二人部屋の個室
隣のベットを見る
綺麗にベットメイクされていて
使用感は無い
「栞は?」悠
尋ねると
涼太はまた下を向く
どういう事?
何で?
どうして直ぐに教えてくれないの?
栞は?
栞は?
不安が胸を締め付ける
すると
涼太の肩がヒクヒクと揺れ始める
泣いてるの?
何で?
何があったの?
「ウソだよ」涼太
はっ?
「昨日倒れて今日起きた
今、午前11時過ぎだから
いつもより少し多めに寝てたくらいだよ
簡単に信じるなよ!バーカ」涼太
涼太はケラケラ笑う
私はポカリとした顔でそれを見ている
「って言うかさ・・・三年も寝てたら
頭のケガだって治るだろ
普通・・・
そこで気づけよ!!
まじで笑える~!!!
栞は夜中
目を覚まして
お前の横で付き添ってたけど
ちゃんと朝から仕事に行った
っで
代わりに休みだった俺と來未があいつに頼まれて付き添ってた
”俺は寝てるだけなんだから
勝手に寝かしとけよ”
って言ったんだけど
どうしてもってあいつが頼むからさ
親友の頼みは断れないだろ?」涼太
”親友”
涼太の口から
栞へ向けて親友という言葉が出た
久々に聞く
その言葉が
心にしみわたる
私はやっと安心した
次の瞬間
涼太に無性に腹を立てて
横にあったティッシュの箱を思い切り至近距離から投げつける
涼太はそれを
ひょいっと避けて
そのティッシュの箱はその後ろに
入ってきた看護師さんにヒットした
「杉崎さん・・・お元気そうですね」看護師さん
苦笑いの看護師さん
私は赤面して
「はい・・・すみません」悠
頭を下げる
涼太は不敵な笑いを浮かべこちらを見る
そして直ぐに
來未ちゃんが入ってきた
「お姉さん
お父さんとお母さんに連絡入れました
あと
栞くんにも
早退できるそうなので
迎えに来るって」來未
來未ちゃんはいつもと変わらず
にっこり笑って
駆け寄りながら教えてくれた
「ありがとう來未ちゃん」悠
それからしばらくして
涼太と來未ちゃんは帰っていった
私は簡単なメディカルチェックを受けて
特に打った頭の処置をしてもらって
病室を出る
栞が丁度よく迎えに来た
病院内だから歩いているけども
息を切らしている
急いできてくれたんだ
私たちは病院を出る
木漏れ日の綺麗な昼下がり
栞はさり気なく私の右手を握った
私はその手を見て
少しはにかんで
栞の方を見る
こんな風に歩くの
・・・幸せ・・・
「俺たち
一緒に緊張して
一緒に倒れて
並んで病室で寝かされてて
目が覚めて笑っちゃったよ」栞
栞はにっこり照れたように笑う
「そうだね
みんなも笑ったろうね
私たちの事」悠
私も同じように笑う
「似たもの夫婦になるよ
きっと」栞
”夫婦”
そうだ
私たちこれからも一緒に居るんだ
そう思うと
心の奥の方がじんわり温かくなった
泣きそう・・・
だめだめ
私、泣きすぎだから
これからは
泣かない
「あっそうだ
大切なこと・・・忘れてた」栞
栞は急に立ち止まって真顔になる
私の方を見る
何だろう?
不安がよぎる
「悠ちゃんにちゃんと言えてなかったよね」栞
栞は私の両手を握って
優しく微笑み
私を見つめる
綺麗なオレンジ色の瞳
とても綺麗
私はうっとり見とれる
「俺の人生かけて悠ちゃんを大切に守ります
ずっとずっと俺のそばにいてください・・・
結婚してください」栞
私の頬に涙がこぼれる
どんどん涙が出てくるから
目が潤んで栞の顔がよく見えなくなる
「・・・・・・はい
宜しくお願いします」悠
こんな時に
ガスガスのかすれた声
昨日したメイクが崩れたままの顔で
私は今、どんな風に見えているんだろう?
「大丈夫?」栞
あまりに泣く私に栞は心配そうに
ほほ笑む
「だって・・・だって嬉しいんだもん」悠
私はもうぐしゃぐしゃ
「悠ちゃん泣きすぎ」栞
栞は笑いながら
ハンカチを出して
そっと私の頬の涙を拭いた
栞は子供をなだめるように”うん”とゆっくり頷くと
また私の手を握り
前に歩みだす
緑の木々がキラキラと輝く
初夏
私は最愛の彼と一緒に歩きはじめた
おわり
「好き?」栞
「好き」悠
「俺はずっと好きだよ」栞
「私はずっ~と大好き」悠
「そっか」栞
えっ?
「・・・なんだかずるい・・・」悠
何・・・この言わされた感
私の中でそれがあふれて
赤面する
栞は嬉しそうに私の顔を覗き込み
不敵な笑いを浮かべた
そっか彼は涼太の親友だった・・・
私は少し悔しそうな顔をしたけど
嬉しかった
本当におわり
この恋。 成瀬 慶 @naruse-k
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