第49話 パパ…ママ…
家の前に着いた
涼太が言っていてくれたからか?
玄関だけではなく
リビングの方にもあかりが見える
いつもなら
パパはもう寝ている時間
起きて
用意してくれているんだろう・・・
玄関を開けると
ママがこちらに小走りで近寄る
「ただいま」悠
どういう意味の表情かは分からないけど
驚いてはいるようにも見えて
栞の事を見て
私を見て
また
栞を見た
「ご無沙汰しています・・・」栞
ママはウンウンと頷いて
「パパ・・・待ってるから
早く行ってあげて」ママ
そう言われるがまま
私たちはパパの待つリビングへ
パパ・・・ちゃんと服に着替えている
「ただいま」悠
「こんばんは」栞
そう言うと
パパは表情を変えずに
「こっちに来て座りなさい」パパ
いつもより
緊張しているのか?
怒っているのか?
声のトーンが低い
どうしよう
何か悪いことをした子供みたいに
目が合わせられない
ママは温かいお茶を四人分入れて
それぞれの前に置く
栞はぺこりと頭を下げる
パパは栞から目を離さない
栞も真っすぐにパパを見た
「お久しぶりです」栞
「涼太の結婚式以来だね」パパ
「はい」栞
「っで、話があるって?」パパ
「はい・・・
悠ちゃんと結婚させてください」栞
パパは固まったように栞をみたまま
息を止めているようだった
ママは今までに見たことがないくらい
目を大きく見開いて
口元に手を当てて私たちをまた
交互に見た
少しして
”ふーっ”
と音が漏れるほどにため息をついたパパがこちらを見て
「悠・・・
いつから?」パパ
「いつからと聞かれたら
どこから話せばいいのかは・・・」悠
私がもじもじしていると
栞がそれをフォローするように
「俺は
俺は初めて悠ちゃんに会った時から
悠ちゃんの事が好きでした」栞
ママが栞を見て
「初めて会った時って小学生でしょ?
まさか!悠ちゃん!
栞が可愛い子だったからって!!」ママ
ママが良からぬ勘違いをするから
私は慌てて
「違う違う!そんな事じゃない!!」悠
そう言うと
栞はにっこり笑って
「悠ちゃんが俺の気持ちに応えてくれたのは
ずいぶん後で
小さい頃から好きだったのは
俺の方だけで・・・
ママ・・・大丈夫だよ
悠ちゃんが俺に手を出したわけじゃないです」栞
そう言うと
ママは安心したように微笑んだ
えっ?もしかして
一瞬でも
私が小学生の栞にイタズラしたみたいな雰囲気だった?
そう思うと安心しているママを少し睨みつけてしまう
その顔を見てy
パパの表情も緩む
「栞・・・本当に悠でいいのか?
悠はもう三十代
歳の差だって七つもある
栞はまだまだ今からだ
お前だったら
他にもいろいろと出会いもあるだろ?」パパ
パパは栞に聞く
栞は姿勢を正して
「悠ちゃんじゃなきゃダメなんです
ちゃんと
ちゃんと俺たちは考えて考えて
お互いにお互いしか無理だって気が付いて
今こうして
お話しに来たんです
悠ちゃんがいいんです」栞
しばらく
パパは口を一文字にして
考えている
数分
沈黙
するとママが高めの声で話し始めた
「いいんじゃない・・・パパ
栞は良い子だって
私たちが良く知ってるでしょ?
それに、悠ちゃんの事
こんなに”好き”って言ってくれる人
他にはいないと思うわよ
悠ちゃん
変わってるから」ママ
チクリと毒を吐くママ
だけど
ママの優しい目を見ると
じんゎり感動してくる言葉で・・・
「七歳くらいの年の差
歳をとってしまえば無いものと同じよ
近所の佐藤さんの息子さんだって
最近、一回り下の人と結婚したってよ
良くある話なのよ!!こういう事
大切なのは
お互いを思う気持ちでしょ・・・パパ」ママ
パパは腕組みをして
「・・・しかしな」パパ
ママはパパの腕を揺らすように揺さぶって
「栞はうちの子みたいに今までいてくれたでしょ
それが
本当の本当の息子になるのよ
しかも
心配でしかたなかった娘が片付くのよ
嬉しい事ばかりじゃない!!」ママ
パパは眉間にしわを寄せて
考えて
「栞・・・苦労するぞ」パパ
栞はパパの方を真っすぐに見て
「悠ちゃんと一緒なら
苦労だって楽しく乗り越えられます
乗り越えます」栞
そう言うと
ママとパパは顔を見合わせて
姿勢を正し
「ありがとう
娘を宜しくお願いします」パパ
そう言って
小さく頭を下げた
ママも一緒に・・・
嬉しかった
涙が出た
「ありがとう
パパ・・・ママ・・・」悠
そう言うと二人はいつもの優しい笑顔になり
「悠!しっかり栞のいい奥さんになれるように
努力しなさい」パパ
「お料理、勉強しなさいよ」ママ
パパとママは私の手を握って言った
”ん?”
なんだか違和感
横を向くと
さっきまでそんな私たち親子をニコニコ見ていた
栞がフラフラっと倒れる
「おい!!大丈夫か?」パパ
「栞!!」ママ
えっ?
失神してる?
ママは救急車を呼んで
私たちは病院へ
血色のない顔色で処置室へ入る意識のない栞
「どうしよう・・・どうしよう・・・」悠
私は動揺する
パパは私の肩を抱いて
「・・・」パパ
無言
「しっかりしなさい!!待つしかできないのよ
しっかり
しっかり待ちなさい」ママ
ママの声は暗い病院の廊下に響いた
30分くらいたったころ
処置室から看護師さんが出てきて
「ご家族ですか?」看護師
声を出せず頷く私たち
「中へどうぞ」看護師
看護師さんの後ろをついていく
部屋に入ると
ベットで眠っている栞
意識がまだ戻らないのかな?
青白い顔で目を閉じたまま
先生は点滴の調整をして振り返り
私たちの方を見ると
神妙な顔でこちらに来る
「先生・・・どうなんでしょうか?」パパ
パパが険しい顔で尋ねる
先生は真顔で
「おそらく過労ですね
しっかり眠っています」先生
えっ?眠っている?
「えっ?眠っているんですか?」ママ
先生は満面の笑みで
「はい、すやすや・・・
目が覚めたら帰宅できますよ」先生
それを聞いた私は
次の瞬間
ママのかん高い呼びかけが聞こえる
「悠ちゃん!悠ちゃん!!悠ちゃん!!!」ママ
その声はだんだん小さく
それと同時に
目の前は真っ暗になって何も見えなくなった
私、どうしちゃったんだろう?
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