第32話 始まりの朝

 次の日の朝、私が目覚めたとき、枕元の時計は09:31を示していた。


 ベッドから起きてリビングに行くと、ケンタはすでに起きていて、大きめのボストンバックに衣類などを詰め込んでいた。


「あっ、兄貴、おはよう!」


「おはよう」


「毛布ありがとやで」


「ああ」


「部屋を片づけたんやな。朝飯はいつもどおりテーブルの上や。俺はもう済んだから」


「そうか、ありがとう」


 私は、急いで朝食を済ませた後、ケンタと同じように自分の荷物をまとめた。そして、最寄りの郵便局とマンションの管理会社に、しばらく不在にする旨の連絡をいれた。準備は全て整った。


「ケンタ、昨日、月に行くって言っていたけど、具体的にはどうするんだ?」


「とりあえず、これから種子島宇宙センターに行く」


「種子島?」


「そうや、日本じゃそこにしか転送システムはあらへん」


「へえ」


「あっ、そうや」


 ケンタはポケットから携帯を取り出すと、何度か画面をタッチして私に手渡した。


「たぶん、ちょっとくらいはいけるはずや」


 携帯画面を見ると、電話の通話画面になっていて、父親の名前が表示されていた。


「父さん!」


「……ケンタ? いや、もしかしてリョータ、リョータか?」


「父さん、俺だ! リョータだよ!」


「リョータ! ちょっと待て。母さん、リョータだ! 早く早く!」


 電話の向こうで、何かバタバタとした音が聞こえていた。


「もしもしリョータ、 リョータなの?」


「母さん!」


「リョータ、待ってるわ! 必ず、必ず会いにき……ブッ」


 電話はいきなり切れた。


「やっぱりか。当然やけど、兄貴の声紋は、シルティには登録されてへんからな」


 メンバー以外の人間とは、電話すら許されないのか……


「でも、電話の声は、確かに父さんと母さんだったよ。ケンタ」


「そうやろ? もちろん二人とも年は取っとるけど、中身は昔のまんまやで」


 懐かしい声だった。一昨日にクジュと一緒に見たビデオ動画から聞こえていた声と、ほとんど変わらない声だった。生きている、生きているのだ、父さんと母さんは。


「よしっ、行こう、兄貴!」


「ああ」


 私とケンタは、それぞれのボストンバックを手に持つと、ケンタが作った移送チューブに吸い込まれ、住み慣れたマンションを後にした。

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Cats on the blocks K助 @kkjmd

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