第17話【終】 始まりの終わり


 「うむ……そのようにしろ」


 玉座の間では王は各地から訪れていた使者の意見や要求を聞いておりそこに大臣が王の元へ駆け寄ってくる。


「王よ!!兵のものから……」


「どうしたのだ……大臣とあろうものがそのように焦るではない」


「はっ!……失礼いたしました」


 大臣は頭を下げ謝罪する。


「それでどうしたのだ?」


「先ほどこの王城に勇者様と王女様がお戻りになられたと報告が……」


 大臣がそう発言すると王は眉間にしわを寄せた。


「そうか……もう戻ってきたのか……」


 王が大臣の話を聞いた後すぐに玉座の扉が開きその先から勇者とちゃんとした王女の服を着た王女がいた。


「勇者様に王女様、ご無事にお戻りになられて何よりです……」


 すぐさま大臣は勇者と王女様の帰還に頭を下げる。


「王様、ただいま王女様と一緒にこの勇者、キャスタール城へ帰還いたしました……王女様と共にエルガトの町へ向かったことお許しいただきたい…………」


 すると玉座に座る王は玉座に深く座り肘をひじ掛けに置く。


「よい……それについてはこちらがそのように仕向けた様なものだ…………大臣よ、これからは三人だけで話がしたい……話を終えた後に書類に目を通すとする。そちは我の部屋に書類を置いた後もう休め……」


 勇者たちがいる玉座の間から見える窓の空はすでに日は沈み暗くなっていた。

 大臣が王の命の通り玉座の間を後にするとこの空間には勇者と王女様、玉座に座る王だけとなった。


「さて……エルガトの町で伝説の勇者について知っている人物にはあってきたようだな…………」


「はい……その人物からは伝説の勇者の秘密については王から聞いてくれと言っていました……」


「そうか…………」


 王は勇者の答えを聞くと目をそっと閉じる。

 その姿を見た王女様が王に詰め寄る。


「お父様‼ 教えてください……伝説の勇者がどのようにしてこの世界にやってきたのか……本当の真実を……」


 王は実の娘の後にゆっくり目を開けて答えた。


「お主たちの聞いた全てのことが真実だ……偽りはない」


「全てのことが真実というと……?」


 王は玉座から立ち上がり勇者と王女に近づきながら話を続ける。


「伝説の勇者は天からこの地に降りてきた……そして伝説の勇者はこの王城にて召喚された……この二つの説両方ともが真実なのだ」


 王の口から信じられないことが告げられた。


「二つのことが真実……一体どういうことですか?」


「まず何から話せばよいものか……」


 

 ――時は遡り、伝説の勇者が天からこの地におりてきたよりも昔の話……。

 

 かつて伝説の勇者と同じ様にこの世界の闇を払うために召喚された勇者が存在していた。

 その勇者は他の勇者と区別するために初代勇者と記されている。

 

 初代勇者は現在の勇者と同じ様に召喚魔法によって王城にて召喚された。

 初代勇者はこの世界に光を取り戻すために魔物達と戦いながら人々を勇気づけていったのだった……。

 

 そしてその初代勇者は闇と対峙することとなったが闇の力は強大なもので一度敗れてしまう……。

 だがその勇者は何としても闇を払わなければいけないという使命感により、この世界の禁断の装備に手を触れてしまったのだ。

 その初代勇者はその装備により闇に取り込まれしまいついには闇と一体化してしまったのだった…………。

 

 その後、この世界のほとんどの人々は希望を失ってしまい、神に祈ることしかできなかった。

 すると天空より光を放ちこの地にやってきたものがおり、その者が二代目の勇者、伝説の勇者と呼ばれている存在だ。


 

 ――そう、かつてこの世界には闇に取り込まれてしまった初代勇者、伝説の勇者と呼ばれた二代目勇者、そして現在の名もなき勇者の三人が存在していたのだった。


「なるほど……説が分かれていた理由は先代の勇者が二人存在しておりそれぞれが違う方法でこの世界にやってきたということだったのですね……」


「うむ……そういうことになる…………」


 だがそこでまた1つの疑問が勇者の頭の中に浮かぶ。


「ただ、そのような理由であれば国民に正しく伝えてもよろしいのではないでしょうか?」


「それは先祖から代々国民には伝えてはならないことなのだ…………」


 王は歯をかみしめているが勇者には先祖の王達は何を考えて真実を伝えてこなかったのかがわからなかった。

 勇者はこれではこの世界のためを思って戦った初代の勇者の心は報われないではないかと思う気持ちでいっぱいになっていた。


「我も先祖達が一体何を考え、何を伝えたかったかは我にも分らないことがある…………」


 すると王女様が王様に向かってあることを伝える。


「お父様、エルガトの町の人から聞いた話ではこの世界の未来は過去にあるものだとおっしゃっておりましたがそれはいったいどういうことでしょうか……?」


「そのままの意味だ……かつてこの世界の預言者がそういっており、この世界の未来は混沌となっている、その未来を照らすには過去真相を解き明かすことが必要があるということ…………」


 王様は王女様を少し見てから勇者に目線を移して話を続ける。


「勇者よ…………なぜそなたの名前がないのか……その訳こそまさに伝説の勇者という存在に名前が存在していないということがその答えだ……」


 勇者は一瞬こそ理解が追い付かなかったが直ぐに王の言っていることを理解した。

 このことに王女様は少し理解が追い付いていなかった。

 

「どういうことでしょうか?……先祖である伝説の勇者と今の勇者様にいったいどういう訳があって…………」


 王女様も何かに気が付いて話を止めるとその場にしばし沈黙が走る


「…………これが運命なのだ勇者よ」


 つまり、王が言っていたことはなぜ勇者の名前が存在せず、さらにはなぜ伝説の勇者も名前が存在していないのかというと伝説の勇者と今の勇者は正しく同一人物だということだ。

 勇者は何かしらの方法で過去へと向かい闇を払ったことにより、名が存在しない伝説の勇者になったということが導き出される。


「そんな……まさか!?勇者様が今より過去に存在していた伝説の勇者本人だということですか!?」


 勇者もそのことが信じられず体が微かに震えていた。


 そしてそんな状態の勇者に王は苦渋の決断をさせることになる。


「勇者よ……そなたには決断してもらうことになる、過去へ向かうためにそなたを元の世界へ帰すための呪文を使うことになるのだが……その呪文を使えばもう二度とこの世界には帰ってくることはできなくなってしまう……」


 王の言葉に勇者はただ下を向いて俯くことしかできなかった。


 伝説の勇者と自分の名前がない理由を王から言われた瞬間からこうなることは察してはいた。

 ただ、勇者の中に浮かんだ言葉が勇者を思い悩ませていた……。

 

 タダルの町とロウドーンの町でした王女様との約束を…………。


(最後の瞬間まで側にいさせてください……)


 すると王女様が勇者の側に来てくれ手を握ってくれた。


「勇者様……私のことは大丈夫です、自らのやるべきことを信じて進んでくださいませ……」


 勇者は王女様の言葉を聞いて涙が流れそうになる。

 王女様が思っていた最後の瞬間とはきっとこのようなことではないはずだ。

 本当のこの世界の未来を見て言ったに違いない。

 勇者はそれでも自身よりも勇者のことを思ってくれている王女様のことを考えると王女様が握っている手を王女様の背に回しぎゅっと抱きしめる。


「すいません…………自分は王女様との約束を守れなくて、王女様を残していってしまうような形にしてしまい…………」


 泣き出しそうな勇者に王女様は手を勇者の背に回し優しく摩る。


「…………私はあの時言っていたように側にいられるだけで嬉しいですよ…………」


 王はそんな王女様を見ているとかつて慈愛に溢れた女王の姿が目に映り一滴の涙が流れる。



 

「勇者よ……準備は良いか?」


 勇者は床に書かれた魔法陣の中心に立つと返事をする。


「よし、では始めるぞ…………」


 王は書物を開き何かを唱え始める。

 すると勇者は光の柱に囲まれると体が宙に浮き始める。

 それを見た王女様は最後に勇者に一言伝える。


「勇者様!!もしよろしければ過去から私に何かしらの伝言を残していただけないでしょうか! 私は必ず見つけになりますから!」


 王女様は勇者に届くように声を発すると勇者も同じように王女様に伝わるように大声で王女様に伝える。


「はい! 必ず過去より現在に伝言を残します! だから待っていてください!!」


 勇者は最後にそういうと光の柱の先へと上がっていくと光の粒子となってこの世界から消えた。

 王女様は勇者を元の世界へ戻すための呪文を唱え終わり勇者を無事に帰還させ終わるとと王の元へと駆け寄りその胸の中で泣き崩れるように涙を流した。


 こうして勇者はもとの世界へと帰り伝説の勇者となるために過去へ向かうことになる…………。



 


 しかし、その名もなき勇者がこの世界の過去、現在、そして未来にと姿を現すことは決してなかった………………。


 


 「PNを入力してください。」

To be continued

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