Delinquent-05
私はディヴィッドが死神として目の前に現れるまで、オカルトの類は信じていなかった。崇めないと救ってくれない神様なんか、こっちから願い下げだと思ってた。
信じる神が違うからと信者同士を戦わせる奴なんか、よく崇拝できるなと馬鹿にしてた。
生命の誕生はアミノ酸だか太陽だかのおかげ。神様も元は人間。世の動物は神様なんかよりもっと前から繁栄してる。
私はそんな風に考えて、正直なところ敬虔な宗教信者を鼻で笑って生きて来た。ミサに行った事がないのも本当。当然、悪魔だって信じてなかった。
魔女のように、説明できない災厄を何かのせいにしたかっただけと思ってる。
目に見えないものは信じない。死んだ過去の誰かの逸話を誰かがまとめて、更に第三者が広めるなんて、嘘つきの「本当だよ」くらい信じられない。
だけど、ディヴィットは実際に幽体離脱のような状態で現れた。他の自称死神達も、本当に元は人間だった。
信じていなかったけど、現実として目の前にいる。そのディヴィッドが悪魔の存在を証言するのなら、私は信じるしかない。
更に記述を読み進めるうち、どうにもこいつじゃないかという悪魔が1体見つかったんだ。
「フル……フル?」
いや、最初は雷というキーワードに反応してしまっただけ。雷も悪魔の仕業だったりして……なんて馬鹿な事を考えてクリックしたの。
「嘘つき、雷や嵐を呼ぶ。男女の愛を促進するって、愛……促進してないよね」
死神達の不倫相談、何件引き受けたっけ。男女の愛に関与はしてなさそう。やっぱり違うのかな。
だって、私とディヴィッドは別れの危機にあるし、エミーさんは旦那さんと離婚した。私が知る限り、死神達の中に愛の奇跡なんて全く起きてない。
三角形の魔法陣の中に誘い出せたら真実を語り始める……って、ただ三角を描けばいいの? あー全く信心深くなかったせいでさっぱり分かんない!
というか、この悪魔を見つけた奴、よくそんな事を発見したよね。
「やあ、ボクはフルフル。床に三角形を描かれた中に立つと、真実を喋っちゃうんだ! なんて言うわけないじゃない。たまたま三角形の中に入っちゃったの?」
そんな間抜けな悪魔が、こんなに大勢の犠牲者を出すかなあ?
「いや、待って。って誰が待つのって話なんだけど。三角形の中に入らなきゃ、本当の事は言わないんだよね?」
という事は、今まで悪魔は何一つ真実を語っていないって事?
裏を返せば、本当の事は絶対に言わないって事だよね?
全てが嘘だと仮定したら。
魂を刈り取れば生き返れるというのは嘘。
最愛の人の魂なら1つでいいって話も嘘。
ディヴィッド達が死神ってのも嘘。
そして多分、他人が既に魂を刈った人の魂を別の死神が刈るのはダメ……ってのも嘘。
「2人に狙われると、悪魔の思惑から外れちゃう? 50日後、思惑から外れてると生き返っちゃう?」
だとすると、魂を刈るか刈らないかは関係ない?
何かが引っ掛かってるんだけど、うまく言い表せない。
「ひゃーん」
「どうしたの?」
「ひゃひーん」
「鳴き声ヘタクソ選手権にでも出場したいなら、大会を探そうか?」
「ひぁーん……ひゃっ」
「もしかして、遊べって事?」
ふと私の足元を見ると、紐に付けられた小さなネズミの人形が落ちている。別の部屋に置いてたから、プスが咥えて持ってきたんだ。
推定3歳の猫だから、まだ動きも俊敏だし、好奇心も旺盛。
時々おもちゃで遊んでやると、犬のようにハアハアと口を開き、荒い息で追いかける。そんなに頑張らなくてもと思うけど、止めると鳴いて催促するんだよね。
「遊ぶ暇ないのよ。フルフルをどうやって倒すか、一緒に考えてよ」
私の足に体を擦り付けて催促し始めると、もう遊んでやるまでずっとこの調子。仕方ない、少しだけ……
「あっ」
ふと絨毯の端と、プスが咥えて持ってきた人形が同時に視界へと飛び込んできた。人形に括りつけられた紐が、ちょうどそこを跨いでる。
「三角……」
絨毯のコーナーを、プスが咥えて来た人形の紐が切り取ったよう。
「三角形を用意しなくてもいいんだわ! あともうひと手間で三角形になる場所におびき寄せるの!」
三角形が正三角形じゃなきゃ駄目とか、他に仕掛けや追加の魔法陣が必要とか、そういうのは一切書いてない。
ついでに言うと、本当にこの方法が合っているか分からないし、そもそもフルフルじゃないかもしれない。
「可能性があるなら、候補を1つずつ潰すだけよ。悪魔が72体なら、72通りを試すだけ。よしっ!」
まずは何も知らない馬鹿な女を演じ、悪魔を油断させる!
次に、話を聞きたいと言ってそれらしい場所に来てもらう。
コーナーに入ったところで、そこで何かまっすぐ線を引けるものを置く!
「いける! ねえプス、あなた天才じゃないの!? あなたは凄い子、遊ぶくらい何時間でも付き合うわ!」
* * * * * * * * *
『ジュリア』
「……ん~、あっ、しまった!」
『ソファで寝落ちているぞ、何があった』
「あーん、もう、色々準備するはずだったのに」
翌朝、私はディヴィッドの声で目が覚めた。走り回るプスに付き合っていたら、私が疲れてしまったみたい。
ダイニングとリビングの灯りはついたまま。お風呂も入ってない。
『何かあったのか』
「うん、色々調べていたの。シャワーを浴びてお化粧したら、ちょっと話を聞いてくれる?」
ディヴィッドを目覚めさせる期限はあと4日。もう時間がない。私はすぐに身支度をして、すぐに出かけられる格好になった。
あの頭の悪そうなメイクはもうしない。それに、今日は敢えてヒールを履いていく。何の準備もしていない警戒心の薄い女を演じないと。
「昨日、会って来たんだよね」
『ああ。誰かが刈り損ねた女が、俺達を視認できる状態で生きていると教えた。奴はかなり驚いていたよ』
「どんな事を話してた? 元に戻れる方法を何か言ってた?」
『……雷鳴の晩に、恋人へキスをしろと。そうすれば魂を解放してやると』
「つまり、キスしちゃ駄目って事ね。他には?」
『駄目とはどういう事だ』
私は昨晩色々調べた結果と、私が思いついた作戦をディヴィッドに伝えた。ディヴィッドには心当たりがあるようで、暫く考え込んだ後、話を聞かせてくれた。
『フルフル、か。俺も正直なところ詳しくないから分からないが、特徴は当てはまっている気がする』
「例えば? 見た目?」
『悪魔は俺達と変わらない見た目で、ただ背は俺の頭2つ分程デカい。そして、確かに奴は今まで1つも真実を語っていない』
「真実を言う事が出来ないなら、答えが分かる質問をしても、絶対に嘘を付くはずなの」
悪魔が言った事にバツをつけて行けば、残った言葉は真実だけになる。三角形の中に入らせることが出来なくても、受け答えの中から真実を導くヒントを得られる。
「よし、行こう! 一緒に来てくれるよね」
『もちろんだ』
「プス、あんたも来る? 下水道なんて正直連れて行きたくないんだけど」
『下水道には行かなくていい。若い女をこんな所に連れてこれるかと言ったら、薄暗い場所なら出向くと言った』
「じゃあ、なるべく角がたくさんあるところがいいわ。線を1つ置くだけで三角形を作れる場所!」
下水道に入らなくていいのは何より。
そもそも薄暗い所がいいってのは、悪魔が日光に弱いって事? ドラキュラって悪魔だっけ?
「とにかく、……可能性は少しでも上げたいわね」
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