【Delinquent】まるで嵐の前の暴風のように
Delinquent-01
【Delinquent】まるで嵐の前の暴風のように
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「どう?」
「あー……そうね、何も考えてなさそうな頭悪い女って感じのメイク」
「言われると腹が立つ。でもそれなら狙い通りね」
『そこまで濃いメイクが必要なのか? 悪魔と対峙するのに色仕掛けなんて通用しないと思うんだが』
「ディヴィッド、私が悪魔を誘う女に見える?」
悪魔が外に出てくるのは夜、もしくは暗い所。手っ取り早く会うには夜がいいって話になって、私達は計画のための準備を始めた。
まず、私が悪魔に会いに行く。私の魂はディヴィッドが持っているから、万が一の際、私が殺されることはない……って、ホント大丈夫なのか疑問なんだけど。
どのみち、私は覚悟を決めた。ディヴィッドと共に生きていける人生を手に入れるため、ディヴィッドが生き返るため、私以外の誰にも出来ない事だから。
そのためには、隙だらけのチョロい女になり切る必要がある。警戒心を抱かせないよう、出来るだけ無策で何も考えてなさそうな女を演じなきゃいけない。まず外見で悪魔を騙すの。
アイラインを引き過ぎて垂れ目に、眉尻もしっかり下げる。チークを必要以上に乗せて、仕上げのグロスでぷりっぷりに。そして常に半笑いを心がける。
私がいっちばん嫌いなぶりっ子を演じるってわけ。
「ジュリア、もっかいやってよ」
「え~っ? ……なんかあ、わたしぃ、悪魔みたいのがぁ見えるんですよぅ~」
「ぶっ! あはははっ! もう、笑い過ぎて出産しそうになったらどうしてくれんの! 悪魔もドン引きね」
『出会った当初のジュリアの喋り方、そんなだったぞ』
「うっそ!?」
まあとにかく、これで悪魔にだって賢くない事は分かって貰えると思う。
容姿と喋り方はとにかく、問題はその後。私はメモを見ながら手を上下に動かしつつ、自分の行動を冷静におさらい。
パニックになると自分でも訳の分からない事を言い出すから、ほんと自分の行動すべき事を叩き込むのが大事。
「えっと……私はまず、悪魔に会うでしょ? んで、死神から自分の身に起きている事を聞いて、相談にやって来たって伝える」
「それと、どうやったら死神が見えなかった頃に戻れるのかと尋ねる。何にも知らない馬鹿な女を演じる」
「エレメンタリースクールの発表劇で、通行人その1の演技に怒られた私がね」
「大丈夫。あたしはキンダーガーテンの時、主役の子を泣かせて欠席させられた。ジュリアは演じただけマシだよ」
なんて低レベルな私達。そう、私はこういうのが本当に苦手。才能がないの。代わってくれるなら誰か代わって欲しい。
「悪魔に、自分の秘密を悟らせない……死神に触れる事を悟らせない……それで、私が悪魔にしがみついてる間、ディヴィッドが鎌で首をバッサリ」
『……上手くいくのだろうか。それこそ仲間を集めた方がいい気がするんだが』
「悪魔の名前を吐かせるとか色々聞くけど、あたし達エクソシストじゃないからね」
「いい案だと思ったのにな、エクソシスト作戦。肝心のエクソシストがディヴィッドの姿すら見えないなんて。私の方が才能あるかも」
「信心深くないあんたに払える悪魔なんて、誰の脅威になるのさ。まあそれに負けてるエクソシストも考えもんだけど」
雨の中を訪ねた隣町の教会。悪魔払いの相談は門前払いも同然だった。
≪声が変わったり、異常な行動を取ったりしましたか≫
「あー……声は普通よ。行動というか、異常というか、見えないはずのものが見えてるの」
≪行ったことのない場所で起きた出来事の詳細を語った事は≫
「あー……そうね、それはあるわ。死神に聞いたら教えてくれるの」
≪普段使わない言語を喋る事が? 誰かに指摘されたことは?≫
「えっ、誰が? 私? えっと……ボンジュール、ゴメナサイ、トゥリマカシー辺りは。発音は自信ないかも」
≪質問の意味、分かってますか?≫
色々質問されたけど、結局悪魔払いの対象にはならないって言われた。幾つか満たしていない項目があるんだって。ついでに精神科の受診を勧められた。
そもそも、私は悪魔に憑りつかれてなんかない。一緒に来て悪魔を倒して! ってお願いだったのに、憑依されてないケースは駄目なんだって。
エクソシストは悪魔を祓うだけで、倒せる訳じゃない事を学んだだけ良かったと思うしかない。
「ていうか、私今気付いちゃったんだけど」
「ん? 悪魔の殺し方?」
「違う。暗かったらメイク意味ないじゃん」
「……ぷっ! 確かにそうね、ふははっ、せっかくそんな顔になったのに」
「私の心が死んだだけね。顔洗ってくる」
『たとえ普段からそのメイクだったとしても素敵だよ、と言えなくてすまない』
「さすがにお世辞だって気付く。てかこんなメイクの女が好きな男なんて、私からお断りよ」
そう言いながら私が洗面台に立った時、ふと部屋のチャイムが鳴った。ローリが代わりに出ようかと言ってくれた直後、ローリのスマホも鳴り始めた。
「あー、もしもし? え? あ、分かった。外にいるの、エリックだわ」
『外にいるのはエリックだった』
「私が出る。このメイクを見て失神されなきゃいいけど」
まだメイクは落としていない。仕方なく扉を開けると、エリックの顔が凍り付いた。
「どうしたんだ、その酷い顔……」
「ひど……あー、これには訳があって。ローリのお迎え? ごめんね、もう外が暗くなり始めてる」
きっとローリを迎えに来たんだと思う。妊婦だからと一応私も無理をしないでと言ってるんだけど、気を付けて見てないとスキップしそうなローリだから当然か。
「迎えに来たのはローリと君だ。すぐにディヴィッドの病室に」
「えっ、何かあったの? ディヴィッド、あなた体調に異変は」
『特にない。俺の本体は特に問題ないはずだ、あと6日の猶予がある』
「とにかく、出る準備をしてくれ! ローリ、手を貸すよ。カバンはオレが持つから」
エリックの顔が凍り付いていたのは、私の顔のせいだけじゃないみたい。ディヴィッドに何が?
エリックは尋ねても言葉を濁すし……。
『俺は先に病室へ行ってみる。すぐに追ってきて欲しい』
「ええ。すぐに向かうから」
ディヴィッドが夜の闇に消えていく。エリックはディヴィッドが周囲にいないか念を押した後、とんでもない事を言い出した。
「聖アンナ中央病院の、院長の娘が」
「……院長の娘? え? 知らない、面識がない」
「面識はどうでもいいんだ。院長の娘が……ディヴィッドを」
「何? あんたがジュリアより動揺してるのは分かった。何があったの、ほら深呼吸! そんな気が動転したまま運転なんかさせないよ」
エレベーターを待ちながら、言い難そうなエリックの言葉を待つ。駐車用スペースで車の後部座席に乗り込んだ時、エリックがルームミラー越しに私に視線を向けた。
「落ち着いて聞いてくれ」
「……? ええ、私は落ち着いてる」
「あ、ああ、そうだよね。あの……オレが見舞いに行ったらさ。院長の娘が病室でディヴィッドの親と話をしてて」
「院長の娘? え、ディヴィッドの両親と知り合いなの?」
「さあ、そこまでは。とにかく、院長の娘が、パパが治してあげるからその人と結婚させて……と」
「は?」
は?
ディヴィッドと結婚させろ? え、どういう事?
「前々からディヴィッドの事は知っていて、気になっていたそうだ」
確かにディヴィッドは目立つ容姿だし、交友関係も広かった。この近辺で知られてるのは仕方ない。だけど立場を利用して新しい彼女の座に……なんて悪魔なの!
とりあえず先にこっちの悪魔を退治しなきゃ。
「……すぐ向かって!」
「かっ飛ばしなエリック! ああ落ち着いて、落ち着いてかっ飛ばして!」
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