第20話 本当の目的 〜王視点〜 ★
ならば今動揺を見せない事も、別におかしな事では無いな。
そんな風に思い至って口の端を少し上げながら、王はこう問いかけた。
「この件の当事者であり、被害者でもあるお前に聞こう。この件に関して、お前はどう思っているのだ?」
そんな問いに、彼女は少し笑みを浮かべる。
「……クラウン様と直にきちんと言葉を交わす機会を経て、私はその心を知りました。謝罪も受け取り、今では蟠(わだかま)りもすっかり解けている状態です。それどころか『彼となら、きっと良い友人関係を築ける』とさえ今は、思っています」
その声には、何故か確かな『実感』を感じた。
少なくとも王には、彼女が「他の誰かに言われた言葉をただ復唱しているだけ」には思えない。
そんな説得力がある。
だからこそ、「今は彼にも、彼の家にも、含むところは全くありません」と続けられたその言葉は、ストンと王の腑に落ちた。
「そうか、よく分かった」
王は頷きながらそう答え、もう1人の当事者へと視線を向ける。
「クラウン・モンテガーノ」
「は、はいっ」
少し跳ねたその声は、先程の少女とは対照的に、名指しされた事に関して緊張しているようである。
しかし年相応の緊張だ。
そう訝しむ事もあるまい。
「この件について、お前はどう思っているのか」
「……俺、いえ、私は」
一人称を言い直しながら、彼は少し考えるそぶりを見せた。
そしてこう、言葉を続ける。
「……『してはならない事だった』と思っています。当時はその自覚がありませんでした。しかし、彼女のお陰でそれに気づく事が出来ました」
王の目には、彼が今正に言葉を探しつつ話している様に見えた。
それは、既に持っていた明確な答えを出力している様なセシリアとは真逆と言っていい印象だ。
しかし少なくとも王は、それを「悪い」とは思わなかった。
確かに、紡がれるのは「洗練されている」とはお世辞にも言えない答え。
しかし同時に言葉を探す彼の様子は、その源泉が彼自身の中にあると、そう如実に示している。
それは、薄汚れた大人を相手にしていては決して感じる事の出来ない、小気味のいい不器用さだ。
「……一度してしまった事は、無かった事には出来ません。ですから、その……今の私に出来る事は『きっといい友人関係を築ける』と言ってくれた彼女に、応えられる自分になれるように努力する。それだけだと思います」
そう締めくくった彼の瞳は、思いの外強い決意に満たされていた。
それを真っ直ぐ受け取って、王は「ふむ」と小さく頷いた。
(両家の間で交わされたあの証文、まんざら嘘でも無いらしい)
少なくとも当事者同士は、きちんと互いに歩み寄りが出来ている。
仲直りとしては、とても健全で正しい形だ。
そんな風に感じられた。
王は一度、大きく息を吸って吐く。
そしてゆっくりと室内を見渡しながら、こう告げた。
「今、侯爵・伯爵の証言と証文、そして当事者達の聴取を全て終えた。その結果、これは個人の闘争であり、既に和解も済んでいる事が確認できた」
その声を聞いた全ての人が、何かしら表情を変えた。
喜ぶ者、驚く者、そして残念がる者。
どうやら様々な者が居る様ではあるが、彼らが総じて想像したのは同じ結末だっただろう。
そんな彼らに、まるで答え合わせでもしてやるかの様に告げる。
「その為、これをもってモンテガーノ侯爵家の『王族案件』関与については――不問とする」
そんな王の一言に、召喚者達はみんな揃って首(こうべ)を垂れた。
クラウンの肩が、安堵に下がったのが見えた。
その父・グランからも、似た様な安堵が伺える。
それに対して、オルトガン側は全くそのような素振りは見せていない。
何だかとても、可愛くない。
では傍観者達の反応はどうかというと、彼らからはこの場が閉じられる事を前提とした気持ちが伺える。
この後の予定に思いを巡らせる者が多く、ほぼ全ての人の心が、最早既にこの場には無い。
そんな印象が見受けられる。
が。
(まだこの幕を下げる訳にはいかないのだ)
王はまだ、彼らを召喚をした本当の目的を達していない。
だからあくまでもさりげなく、それが目的だったと周りに悟られない様に細心の注意を払いつつ、まるで雑談でもするかの様に、こんな風に切り出した。
「ところで、だ。アリティーとの将来を考えるには、そろそろ良い時期なのではないか? ――セシリア・オルトガン」
ちょうど今、懸念事項も一つ無くなった事だしな。
そう続けられた王の声に、冷めつつあった場の熱が一気にその温度を上げた。
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当該話数の裏話を更新しました。
https://kakuyomu.jp/works/16816410413976685751/episodes/16816410413991896096
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