第12話 何故。そう問うて、周りを引き込む 〜ワルター視点〜 ★
さて。
ワルターはそう独りごちる。
調べられてネックになりそうな所はあらかじめ全て潰したし、これ以上食い下がっても穴なんて無いと理解したのか。
もう誰も反論の言葉を挟まない。
ならばもう、まとめに入っても良いだろう。
「我が伯爵家と侯爵家は、地道に理解と納得を積み重ね自分たちの力で既に、証文を交えて和解をしています」
これは決して嘘ではない。
ヴォルド公爵家のお茶会に出席する事で対外的に一定の歩み寄りを示し、非公式ではあったものの、一応話し合いの場も設けられた。
あの場で和解が成立した事は紛れもない事実であり、その後時間の経過と共に本人達は精神的にも歩み寄り、証文による公式に決着を付けた。
それらは全て、第三者の力は借りずに出来た事だ。
「……侯爵は、非を認め、日々信頼の回復に努めてました。その甲斐もあって、最近はやっと周りからの理解も得られる様になってきたと聞いています」
これも事実だ。
特に公爵家のお茶会でクラウンが更にやらかして以降、侯爵はこちらへのネガティブキャンペーンを一切辞めた。
「そんな余裕がなくなったからだ」と言えなくもないが、それでも彼が必死に挽回してきた事には変わらない。
だからこそ、ワルターは敢えて困り顔でこう告げるのだ。
「しかしそれも、全て台無しになってしまいました。きっと私も侯爵家も、また当分この件で注目されるでしょう。せっかく落ち着いてきたのに」
表面上はあくまで困り顔だったが、本当はひどく怒っている。
ワルターにとって、グランは「何かというと突っかかってくる面倒な人物」だ。
しかし、それとこれとは別である。
今回彼は、正当な手段で信頼を取り戻すべく奔走していた。
遂にそこに手を貸す事はなかったが、そこに掛けた時間と努力は評価するに値する。
それを、王族の身勝手が一瞬で砕いた。
一体どうしてくれるのか。
そんな風に問い詰めたくなる。
これはあくまで、個人同士の問題だ。
その可能性を仄めかしながらも『王族案件』の入る余地が無いようにバランスを取り、実際にそれで終わる筈だった。
しかし、そうならなかったのは。
「陛下。何故この件で、私達を召喚したのでしょうか」
そうならなかったのは、間違いなく王がこの場にグランを引っ張り出したからである。
越権行為も。
解決すべき事も。
王族が介入する程の事は何一つ無かったにも関わらず。
少し考えれば分かった筈だ。
否、実際分かっていた筈だ。
王である彼は自分の影響力をきちんと分かっているべきだし、万が一分からなかったとしても、その為にいつもすぐ側にすぐ宰相を侍らせているのである。
王や宰相の職務怠慢か、それとも敢えて強行したのか。
どちらにしろ、腹立たしい事には変わりない。
そんな気持ちを、敢えてほんの少しだけ覗かせる。
するとそれに気圧されたのか、王は一瞬動揺を見せた。
自分の思い通りに行かないからか。
宰相は悔しさに歯噛みをし、傍聴者達はまた一段階騒がしくなる。
先程のワルターの言葉は、どれも侯爵側に立ったものだった。
それで周りも理解する。
少なくともオルトガン側は彼をもう侯爵を許しているのだ、と。
そして同時に、周りの空気も大きく動く。
ワルターの言葉や空気に引っ張られ、ただの傍観者だった者達はみな、感情移入し始める。
なぜ放っておかなかったのか。
そんな疑問を持ち始める。
「そういえば最近たまに、お茶会でクラウン殿がセシリア嬢と話しているのを目にしたな」
「あぁ私もだ。時間はそう長くなかったが、和やかに話しているように見えたぞ」
そんな声が、チラリと聞こえる。
これは間違いなくクラウンの手柄だ。
ワルターはそう考える。
(セシリアからヴォルド公爵家のお茶会以降、初めて彼から接触があった。そんな報告があって以降、特に彼は頑張っていた。これは、周りの目や評価に負けず針の筵に座り続けた彼の忍耐力がもぎ取った成果だ)
この件の発端は確かに彼だ。
しかし、今の彼は一定の評価ができる。
これはもう、ワルターの中では決定事項だ。
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当該話数の裏話を更新しました。
https://kakuyomu.jp/works/16816410413976685751/episodes/16816410413991890552
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