第4話 涙で絨毯を濡らして ★
(あぁ……どうしてこんな事になってしまったのでしょうか)
自室で1人。
部屋の端、ベッドの足元にペタンとしゃがみ込むように座って、テレーサはそう思う。
お茶会の続行は、会場内の空気的にも令嬢達の精神的にも、そして何よりテレーサ本人の心情的にも不可能だった。
その為、彼女が去った後すぐにお茶会はお開きとなり、令嬢達には既に帰宅の途についてもらっている。
ホストの義務として、テレーサは全ての令嬢達の出発を見送った。
恐怖に泣く子を慰めて、硬直した子の背中をさすって。
その間テレーサは、ずっと笑顔を湛えていた。
……否、ちゃんと湛えられていただろうか。
表情が引き攣ってはいやしなかっただろうか。
後になってそう思うけれど、あの時はそれを自分で確認する余裕さえ残っていなかった。
侯爵令嬢に、相応しい対応を。
そう思い、テレーサだってずっと我慢していたのだ。
しかしそれも、自室というプライベート空間に入った途端に決壊した。
色々な感情が一気に押し寄せてきて、テレーサの心を掻き乱す。
涙は勝手に零れ落ちた。
最初の内は拭っていたが、無駄だと分かってすぐに辞めた。
そう簡単に止まってくれるような涙ではなさそうだったとすぐに分かった。
ポロポロと、止めどなく目から涙が量産される。
その涙が頰を伝って流れ落ち、床に敷いた絨毯の上にシミを作る。
そんな作業が始まってから、もうかれこれ30分。
涙をたくさん吸い込んだその部分は、もう随分と前からその色を変えてしまっている。
それでもまだ一向に、涙が枯れる気配はない。
止めようにも止まらなくて、このまま干からびるまで流れ続けるのではないかとさえ思ってしまう。
一体何が悪かったのだろう。
一体彼女は何故怒り、私の元を去ってしまったのだろう。
その答えが分からないまま、友人を失う恐怖と友人を傷つけた悲しみと。
そして何より劇的に変化してしまった状況への混乱が、テレーサの影に付き纏う。
そんな中で、私室の扉を誰かが軽くノックした。
「お嬢様、旦那様が『お聞きしたい事がある』と仰っていますが……」
その声の主は、つい先程テレーサをこの部屋まで送り届けたあのメイドの物だ。
彼女の仕事はテレーサ身辺のお世話だから、今日も彼女はいつもの様に色々と世話を焼いてくれようとした。
それを無理に締め出して彼女から仕事を奪ったのはテレーサだ。
心配させるのも無理はない。
そうは思ったものの、しかし不安げな彼女の声色にテレーサは一言だって答えなかった。
すると少しの間ドアで逡巡する気配があったものの、結局最後は諦めた様で、足音が静かに遠ざかる。
親の言葉を聞かなかったのは、これが生まれて初めてだった。
しかしそんな事より今は、もっと大事な事がある。
テレーサは、自身の歩いた過去の軌跡を思い出す。
一体何がいけなかったのか。
それを探す、旅に出る。
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当該話数の裏話を更新しました。
https://kakuyomu.jp/works/16816410413976685751/episodes/16816410413991806664
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